第六話 九
目を開けると、紫雲さんと風吹が、俺の顔を覗き込んでいた。
「祓えた?」
「祓えたと思う」
『よくやったな。幻覚は、もう起きないだろう』
横たわる俺は、上体を起こし、麦茶を一気に。無性に喉が渇いている。
「こういうの、よくあること?」
「あるよ。私たちは、頻繁にね」
『紫雲家は術師だからな。術師は、負の感情を受けやすい』
「大変なんだね。紫雲さんは」
「慣れてるから、大丈夫」
『香楽の初めての頃は、大慌てだったな。晴治も晴斗も、落ち着かせるのに、必死だった』
「ちょ、ちょっと、風吹さん!」
慌てた紫雲さんを、初めて見た。こんな一面を見れる俺は、ある意味特別。五行術師にならなかったら、慌てた紫雲さんを見ることはできない。
「今日は、これから斉木君と会うんだよね? 祓ったから大丈夫だと思うけど、何かあったら、連絡してね」
『そろそろ帰るか。呪いには、気をつけろ。少年』
「ありがとう。二人が来てくれて、安心した」
玄関で二人を見送った俺は、昼まで暇。五行術の練習でもしよう。
すると、リビングのテーブルに置いていた、スマホの着信音がなり、慌ててスマホを確認すると、竜也からの電話。
「もしも~し。どした?」
『少し早いけど、ラーメン屋に来れるか?』
「早すぎないか? まだ十時過ぎくらいだろ?」
『いやいや。もう十一時半だぞ』
「えっ!? マジで!?」
時計を確認すると、針は十一時半を示している。もしかして俺は、二時間近く眠っていた?
『朔? おーい。聞いてるか?』
「わ、悪い。聞いてる。今から向かうから」
電話を切り、スマホをポケットに入れて、自室に置いている財布をとりに向かう。
「あ、グラス洗わねえと。姉ちゃん、うるさいからな」
財布もポケットに入れ、リビングに置いたままのグラスをキッチンに。洗わないとうるさい姉ちゃんのために、仕方なく洗ってから、ラーメン屋に向かう。
「財布持った。スマホもある。よし、行くか」
ラーメン屋でのやり取りは、幻覚で見ていた。竜也が何を頼むのか、失恋話の内容までも、記憶している。
歩いて二十分。学校終わりに、よく立ち寄るラーメン屋。入り口には、先に来ていた竜也が待っていて、一緒に店内へ。
幻覚は解かれたんだ。何も恐れることはない。
「悪いな。約束の時間まで、まだだったのに」
「いや。暇だったから、ある意味助かった」
「何頼む?」
「チャーシュー麺とウーロン茶。とりあえずそれで」
幻覚の中でも、チャーシュー麺。それとウーロン茶。食べ終わる頃に、ウーロン茶をおかわりして、チャーハンを追加注文。
「餃子食べるか?」
「あー、俺はいいや」
「そっか。すみませーん!」
竜也が店員さんに注文を通している間、俺は出されていた冷たい水を一気飲み。
「まだ喉が渇くな」
「風邪でもひいたのか?」
「いたって元気。霊魔関係で、ちょっとあってさ」
「大変だな。朔は」
「俺は大して大変じゃない。紫雲さんの方が俺より。俺と比べられない程、大変なんだぞ」
ラーメンがくるまで、俺と竜也を支配していたのは、沈黙の一つだけ。




