第六話 八
『目を瞑ったら、何も考えるな。術をかけたら、意識の中に、黒く禍々しい煙のような物体が、浮いているはずだ』
「煙みたいな物体か。分かった。見つけたら、どうしたら良い?」
『呪いの時点では、まだ核がない。核の破壊は考えず、五行術を使って、消し去る。それだけだ』
「何を使っても良いんだな?」
『構わない。いいか? 術をかけるぞ』
「頼む、風吹」
『闇より出でて、呪わざる者。呪怨の念を現したまえ』
俺は目を閉じ、風吹が術をかけてくれて、意識の奥深くへと、沈んでいく。
***
――七海さんは、誰にも渡したくなかった。俺は、七海さんが、好きだったのに――
この声は、竜也の声だ。失恋が引き金となった、竜也の呪い。
真っ暗な空間の中、竜也の声だけが響く。
「黒の空間で黒い煙を探すって、森の中から枝を探すレベルじゃん」
――どうして、俺じゃないんだ。どうして、俺を選んでくれなかったんだ!――
何処に、呪いがいるんだ。何処なんだよ。見つからないじゃないか!
――七海さんを愛していたのは、俺だったのに! 許さない。七海さんを奪った奴を!――
いきなり、突風が吹いて、立っているのもやっとの状態。風に逆らって進もうにも、足を一歩も踏み出す事が出来ず。
「竜也、本気だったんだな」
俺は、恋愛とは無関係な人生を歩んできた。恋愛なんてしたことがない。竜也が、七海さんに恋心を抱いた時から、応援していた。
「応援してたんだけどな……」
この国の法律では、俺たちはまだ結婚できない。どう足掻いても、無理なこと。
竜也だって、その事は分かっている。だからこそ、「あと一年」って。
「祓って良いのか……?」
七海さんを好きって気持ちを祓ったとして、竜也はどうなる? 竜也の気持ちは、救われるのか? 竜也を救う方法は、祓うだけじゃないだろ。
「見つけた」
暗闇に目が慣れてきたら、目の前には、黒い煙のような物体が、浮かんでいた。
――七海さん……。どうして、待ってくれなかったんだ。どうして――
「竜也。俺は、応援してた。七海さんの結婚が決まった時は、正直驚いたよ」
――朔には、俺の気持ちなんて、分かるわけない! 同情なんて、してほしくない!――
「そうだな。俺は、恋なんてしたことない。だから、お前の今の気持ちは、俺は知らない。だから、後で、たっぷり話を聞くよ」
ごめんな。竜也の気持ち、どうしても分かんねぇ。
ラーメン食いながら、聞いてやるよ。
「火術、烈火!」
扇をポケットから取り出し、呪いに向かって、勢い良く振り下ろす。手応えが無いのは、実体がないからか。
――七海さんを、好きになるんじゃなかった――
「そんなこと、絶対に思うな。失恋は、次の恋への寄り道なんだってさ」
姉ちゃんから聞いた話だけど、姉ちゃんは名言だと言っていた。
この呪いは、竜也の思い。竜也の恋心。七海さんに対する想いは、誰にも負けていなかった。
だから、『好きになるんじゃなかった』なんて、言わないで欲しい。




