第六話 六
紫雲さんが駆けつけてくれなかったら、俺は完全に殺られていただろう。
「怪我してない?」
「大きな破片が、脇腹に当たったけど、大丈夫。これくらい、何てことない」
「アザになってたら、大変だよ。手当てしないと」
「ありがとう。でも、ホント大丈夫。それに、竜也を待たせてるから、行かないと。じゃ、また」
竜也を忘れていたら、何をされるか分かったもんじゃない。めちゃくちゃ脇腹が痛いけど、早く行かないと、竜也が怒って大変。
「ハァ。ハァ。カラオケに行っても、霊魔の襲撃って。どっち選んでも、結果はほぼ同じかよ」
それにしても、脇腹が痛い。何なんだよ。骨が折れているんじゃないかってくらいの、この激痛。
脱いだら絶対、青アザになってるやつじゃん。
カラオケ店までの距離が、とてつもなく長い。これ、永遠に、辿り着けないんじゃないか。これもまた、霊魔の幻覚だったりして。
脂汗が出てくるし、呼吸もしづらい。歩くことも、ままならない程、体力が消耗されていく。
「やっぱり、紫雲さんに……」
カラオケ店の看板が見えてきた。竜也はもう歌っているだろう。あと少し。あと少しで。
「これも、幻覚だったらな……」
カラオケ店の、入り口の段差につまずいた俺。綺麗に倒れてしまい、全身に痛みが駆け巡っている。
あぁ。これもきっと、幻覚だ
***
目を覚ますと、自室の天井が、視界いっぱいに広がっている。俺は一体、どうなってしまったんだ?
既に日は昇っていて、枕元の目覚まし時計は、八時半を示している。曜日の表示は、日曜日。そうか。今日は日曜日。俺は、また幻覚を見せられていたんだ。
「さ~く~! 起きろぉ!」
一階から聞こえてくる、姉ちゃんの声。早く行かないと、うるさい声が続いてしまう。
ベッドから出て、階段を降りて、キッチンへ。
今日が日曜日の朝なら、昨夜の唐揚げが残っているはず。
「朔は、お昼いらないんだよね?」
「いらない。竜也とラーメン」
「それなら、晴斗君家で食べてこれる。うん。そうしよう」
残り物の唐揚げをレンジで温めながら、姉ちゃんはお昼の計画を練っていて、これが初見なのか既に見たものなのか。
つまり、カラオケでもゲーセンでも、結果として霊魔の幻覚。それなら、竜也とラーメンはどうなる? あの後すぐに帰ってくれば、幻覚から脱け出せる? どうなんだ? 俺の頭じゃ、判断出来ねぇ。
「朔、どした?」
「え? 何が?」
「ボーッとしてたぞ? 何かあったのかい?」
「なんでもない。ホント、なんでもないから」
「それなら良いけど。思春期ならではのお悩みなら、いつでも聞くぞ!」
姉ちゃんに話して解決出来る話なら、誰の助けもいらないような気がする。




