第六話 五
ラーメン屋を出て、これからどうしようか。ゲーセンになると、予知夢の通りになってしまう。
「朔は、ゲーセンとカラオケ、どっちが良い?」
「俺的には、カラオケかな。久しぶりに歌いまくりたい!」
予知夢の通りにはいかせない。あそこにいたら、ゲーセン付近に、霊魔が出現する。竜也を巻き込まないためにも、カラオケにしなければ。
「朔とカラオケとか、いつ振りだっけ?」
「去年だったような……。夏休みに行って以来?」
「もう一年くらい前か。早いな」
「失恋記念に、思う存分歌えよ。聞いてやるから」
「記念ってなんだよ。恋愛未経験の、朔に言われたくねぇ」
ここから歩いて十分くらい。久しぶりのカラオケに、俺は胸踊らせる。
「七海さんには、おめでとうって言ったのか?」
「言えないだろ。言いたくても、言えない」
「傷、深そうだな」
「購買にも、図書室にも、行きにくくなった……」
「きっと、運命の相手が現れるって」
「歌いまくってやる!」
不穏な気配を、近くで感じた。これは、霊魔の気配。カラオケを選んでも、霊魔は現れるらしい。いや、待てよ。予知夢では、ゲーセンの近くだった。それなら、こっちは安全。でも、俺が行かなければ、きっと、後悔したままだ。
「朔? どうした?」
「竜也。先にカラオケに行っててくれるか。霊魔が出たらしい」
帳はここからでも確認できる。紫雲さんは、帳の中にいるだろうか。いないなら、俺が霊魔を退治する事になる。予知夢では倒せなかったけど、今度は絶対。
近づく度に、悲鳴と破壊音が凄まじく響いている。逃げ惑う人々。まだ紫雲さんは来ていないようだ。
帳の中には、巨人並みの霊魔が一体。辺りを破壊し尽くさん勢いで、暴れている。ポケットから扇を取り出し、暴れる霊魔の動きを止めなければ。
「金術、金縛り!」
ヒュルヒュルと、護符の付いた縄が、霊魔に巻き付いていく。
『ギギギギャァ!』
一重では、押さえきれないか? 縛り上げても尚、暴れ続けている。
「金術、金縛り!」
もう一発縛り上げ、押さえつけ……。
ブチン!
「え?」
霊魔を縛り上げていた護符付きの縄が、勢いよく千切られてしまった。霊魔の暴走は激しさを増していく。
「ヤバいじゃん、これ! おわっ! イッテェ」
砂埃とコンクリートの破片が辺りを包み込み、視界が悪くて、息もしづらい。その上、大きな破片が脇腹にヒット。
「空木君! もう大丈夫だよ!」
「紫雲さん!」
「動きは封じた?」
「破られた。縄を切られちゃって」
「任せて。金術、金縛り!」
紫雲さんが繰り出した金縛りは、護符の付いた有刺鉄線。どうして俺のと違うんだろう。力の差なんだろうか。
『ギギギギャァ! ギギギギャァ!』
「木術、花舞!」
動きを封じ、紫雲さんは霊魔目掛けて術を繰り出す。花舞を見たのは初めて。色とりどりの花びらが、霊魔に勢いよく飛んでいった。
霊魔の体は木端微塵。核も破壊され、帳は上がった。
「何、今の」
「木術の、花舞。空木君は、術師になる前に、一度だけ繰り出していたんだけど、その時は気を失う直前だったの」
「もしかして、学校襲撃の時? 全く覚えてないや」
「そうだよね。時戻しをしなきゃ。空木君も手伝って。星蘭を出してくれれば、それでいいよ」
ポケットから紙人形を取り出し、息を吹き掛ける。すると、地面に落ちた紙人形から俺の式神、星蘭が現れた。
紫雲さんも、式神の乱麻を呼び出して。
『時戻しですね? 香楽殿』
「うん。星蘭と一緒にお願い」
『承知しました』
時戻しは、式神と風吹が使える、特別な術なんだそう。遠吠えのように式神たちが吠えると、辺り一面、スローモーションのようにゆっくりと。しかも、破壊された物や場所が、破壊前のように、何もなかったかのように、戻っていく。
「これが、時戻し?」
「そうだよ。あ、そっか。空木君は、初めてだったね」
「俺たちは普通に喋れるんだね」
「時戻しは、無機物にしか効果を発しないの。だけど、被害に遭った人たちの記憶も、書き換えることも出来るの」
『終わりました。華鈴殿』
「ありがとう。戻っていいよ」
『それでは、これで』
記憶も書き換える事が出来るなんて、凄すぎる以外の言葉が見つからない。恐るべし、式神の力。




