第一話 五
放課後の屋上は、昼間と違い、オレンジに染まっている。
立ち入り禁止な訳ではないのに、どうして皆来ないのか、そこが気になってしまう。
あの後、俺は紫雲さんを誘って、屋上に来ている。ただ、空を見るためだけに。
「夕陽が眩しい」
紫雲さんは、早く帰りたがっていたけど、俺が無理やり連れてきた。
「術師ってさ、人を呪ったりするの?」
純粋な疑問。竜也に言われたからとかじゃなくて、俺が思ったことを聞く。
「呪わない。変な噂があることは知ってる。だけど、人を呪うようなことはしない。霊魔は、人を呪ったり、襲ったりするけど」
「陰陽師っているじゃん。今は、いないのかもしれないけど、紫雲さんも、陰陽師ってこと?」
「陰陽師じゃない。五行と呼ばれる力を使って、霊魔と対抗してる。陰陽師みたいに、歴史に名前は残らない術師なの。大昔から、霊魔は陰陽師によって封じられたって云われてるくらい」
ある意味、悲運な術師なんだと思う。そんな術師がいるなんて、可哀想としか言いようがない。
「でも、私たちと同じ術を使う術師を、『五行術師』って呼ぶらしい」
「へぇ。五行術師。なんか、ダサカッコいい」
「ディスってるのか、どっちかはっきりして」
「ごめんごめん。でも、五行術師ってさ、聞かないから、なってみたいけどね。でも、姉ちゃんに文句を言われそうで、なんかねぇ」
「それ、さっきも聞いたけど、普通は、ご両親なのでは?」
それは確かに。大体の人たちが知ってるから、知らない人がいるなんて思ってもみなかった。
「俺の両親は、俺が三歳くらいで他界したんだ。確か、交通事故。記憶がなくて、姉ちゃんから聞いた話なんだけどさ。その後は、姉ちゃんと一緒に、じいちゃん家で暮らして。今、身寄りは姉ちゃんしかいない」
紫雲さんは、フェンスにもたれ、下を向いている。
「ごめんなさい。変なことを聞いちゃって」
「良いよ。もう、慣れてるし」
南の方角から、何やら嫌な気配。
昼間に感じたような気配を、感じている。
「紫雲さん、これって、霊魔だよね。なんか、昼間の気配と似てる」
「同じ。もう一体、いたみたい。空木君は逃げて。ここは、私でなんとかする」
「でも……」
紫雲さんは少し微笑んで、続けた。
「大丈夫。私、意外と強いから」
その言葉を信じよう。
俺は非術師だから、紫雲さんの足手まといになってしまう。
「紫雲さん、無事でいてよ」
俺は、紫雲さんに言われた通り、逃げるしかない。屋上の出入り口に向かって走り、階段を降りていく。
どんな霊魔が来たのか、俺はその正体を知らない。
「女子に守ってもらうとか、情けねぇぞ。俺」