第五話 六
――ここは、何処だ? 真っ暗だし、何も見えない――
何処までも拡がる、真っ暗な空間。その一部分に、俺は立っている。
声を出そうにも、空気が抜けていくような感覚だし。
――何なんだよ。風吹が、何とかしてくれるんじゃないのかよ――
両手で壁を探してみても、何処にも壁が無い。足元の感覚はあるから、底面はある。分かるのは、それだけの空間。
歩くにも立っているだけで精一杯。進むことも出来ず、戻ることも出来ないでいる。
急に激しい耳鳴りに襲われた俺は、意識が飛びそう。と、考えている間もなく、身体中の力が抜けていった。
***
目が覚めると、景色は一変。以前、初めて風吹と出会ったあの場所。離れたところには、トンネルがある。そんな場所に、俺は立っている。
澄んだ青空が、木々の隙間から見えるこの空間は、なんだか落ち着く。
『空木朔』
不意に背後から、聞き覚えの無い女の子の声が。
振り返ってみると、少し離れたところに、朱色袴の巫女姿の女の子が立っていた。
『空木朔。貴方のことは、風吹様をはじめ、紫雲家の者たちから、聞いています』
――君は誰? 紫雲さんを知っているの?――
声にならない声で、女の子に聞いてみる。通じる確証なんて、何処にもないけれど。
『申し遅れました。私の名は、葉李。紫雲家のことは、古くから知っています』
通じている!? 凄いな、この女の子。ただ、俺の名前を知っていることに、疑問を抱く。
そんなことを考えている俺を、完全無視の葉李。表情ひとつ変えず、無表情で淡々と言葉を続ける。
『私に、ついてきて下さい。こちらです』
俺の横を通り過ぎ、トンネルの方へと歩いていく。
以前、トンネルの中にいたのは、風吹だった。今回は、誰の声も聞こえず、唯一の話し相手は葉李だけ。
『風吹様は、いませんよ。残念ですが』
こちらを振り向くことなく、温かみなど無い声。どんどん歩みを進めていく。
――風吹が助けてくれるんだとばっかり、思ってたなぁ。可愛げないし――
『空木朔。私に、可愛げ等は無用です。不必要なことは、棄てています』
そうだ。忘れてた。葉李には、声に出さなくても聞こえているんだ。
『トンネルを通ります。絶対に振り向くことは、なさらないで下さい。まぁ、貴方のことです。以前来たことのある場所なのですから。香楽から聞いているのでしょう』
トンネルに入って行くと、広く暗い。いつの間にか葉李の手には、火のついた蝋燭を載せた燭台が。
蝋燭の火が、僅かに内部を照らし、以前と違った雰囲気を醸し出している。
期待と不安が、俺を支配していて、頭の中はゴチャゴチャ。
『空木朔。これから貴方には、試練を与えます。無事に向こうの出口に向かわれますこと、祈っております』
俺の方を向いて、意味深な言葉を残した葉李は、フゥと蝋燭の火を消してしまった。




