第四話 結
紫雲さん家の食堂にやっとの思いで戻ってみると、姉ちゃんの姿がない。
「あの。姉ちゃんは、帰りましたか?」
「のぞみんなら、トイレだと思う。すぐ戻って来るでしょ」
お客さんの姿がない食堂で、姉ちゃんがトイレから戻って来るのを、ただ待つ。
「空木君、これ飲んで。疲れたでしょ」
「ありがとう。紫雲さん」
冷たい麦茶を出してくれた紫雲さん。俺より疲れているはずなのに、申し訳なさが勝ってしまう。
「おやおや。来たようだね。朔きゅん」
「いい加減、酔いは覚めてきたでしょ。その呼び方やめて」
「あ、そろそろ帰らないと。お邪魔しました。晴斗君。風吹さん。香楽ちゃんもありがとね」
「姉ちゃんがご迷惑おかけしました。この借りは必ず、姉ちゃんが返しますので」
「良い感じで締まる所を……」
では。と、紫雲さん家の食堂を出て、保温されていた唐揚げを楽しみに、家路につく。
「霊魔ってどんな見た目なの?」
「全身真っ黒の人型。簡単に言うとそんな感じ。目は無くて、口が裂けていたり、腕が長かったりしてる」
「ふーん。そうなんだ」
「語ったのに、それだけ?」
「四足歩行の奴とか、身長が二メートル位で筋骨隆々の奴とかも居たりするらしい」
「姉ちゃん?」
急に霊魔について聞いて来たり、関心が無いような返事だったり。
悪酔いでもしたのかってくらい、何だか変だ。
大好きなウサギのぬいぐるみと、ゲーセンで掬ってきたパワーストーンが入った小袋を手に持ち、何故か悲しそうな顔をしている。
「あたしが晴斗君と付き合う前に、霊魔に襲われた話はしたね」
「高校の時でしょ。晴斗さんが、シャーペン一本で倒したとか」
「実はね、望さんは中三までは、見えていたのだよ」
「何を? まさか、霊魔?」
「おぉ。正解。受験によるストレスが原因だと思う。三月には見えなくなって、代わりに霊魔の気配を感じるのと、影のようなモノが見えるのだよ」
唐突なカミングアウト。
まさか、姉ちゃんまで見えていたなんて。
「何で言わなかったんだよ」
「言ったところで、朔が信じるとは思わなかったから」
「だからって……」
「あたしは、周りを巻き込みたくないだけ。見えていてもいなくても、襲われるのは変わらない」
霊魔の恐ろしさは、襲われたことのある人にしか、分からない。
見えていない人にとっては、突然何が起きたのか分からないうちに、殺されてしまうのだから。
「もし。姉ちゃんが襲われたなら、俺が守るし。晴斗さんだって、紫雲さんだっている。あと、風吹も」
「頼もしいねぇ。朔が守ってくれるなんて~」
家まであと少し。術の練習をして、実戦で使えるようになりたい。
俺の周りの人たちを守る為にも。




