第一話 四
五十分って長すぎると思う。
授業が終わればSHRがあって、それから掃除して。
放課後を楽しみにしている俺としては、とてつもなく長い時間を過ごしているわけ。
「じゃあな、竜也。俺は俺の時間を、満喫する!」
「止めても無駄みたいだからな。呪われたって、俺は知らないからな。紫雲さんと楽しい時間を過ごしてくれ。んじゃ、また明日」
教室の掃除が終わり、竜也が教室を出た所で、簡単に挨拶を交わす。
教室の中を見てみると、運良く紫雲さんしかいない。
これなら、誰にも邪魔されずに、あの話を聞ける。
「紫雲さん、ちょっと俺と話さない?」
「ナンパはお断りします」
ナンパかぁ。ナンパじゃないんだよね。
「昼休みの事を聞きたいんだ。霊魔の事を」
「どうして?」
「俺、オカルト好きなんだよ。特に、術師とかその類いが!」
「知ってどうするの?」
簡単には教えてくれないのか。仕方ない。この秘密は使いたくなかったけど、使うしかない!
「俺、実は霊魔が見えるんだよ。霊感が昔からあって、幽霊も霊魔も、見てきた。紫雲さんが『帳が降り始めた』って言ったでしょ。それも見えてた。どす黒い帳だったね」
「まさか、本当に見えるの? 帳の色も見えるなんて、空木君も術師か何か?」
よし。食いついた!
「俺は術師じゃない。ただ、見えるだけ。何も出来ない」
「非術師なのに、帳が見えるなんて、あり得ない。そんな人、会ったことない」
「そっか。俺のことは少し話したから、今度は紫雲さんのことを教えて。術師なの?」
「術師……。見習いは終わったから、一応、術師」
「そうなんだね。あの霊魔はどうなったの? 保健室から戻る時に見たけど、帳は上がってた」
紫雲さんは下を向き、言いたくないのか、喋らなくなった。
これは、長期戦になるか?
「私の式神で祓ったの。窓が割れてすぐに、式神を呼び出して、外に向かわせた。帳は祓った時に、上がった」
「それで、その怪我をしたんだね。ありがとう。俺を守ってくれて」
「守ってない。誰も巻き込みたくなかった。なのに、空木君を巻き込んでしまった」
再び下を向き、喋らなくなった紫雲さん。口を開いたのは、それから五分くらい後。
「空木君。術師になってもらえませんか。今いる術師は、私と兄の二人だけなの」
おおぅ!? まさかのスカウト!? 俺なんかで良いのか!?
「少し考えさせて。術師になれるなら、なりたいけど。姉ちゃんがどう言うか……」
「そんな、すぐじゃなくて良いよ。返事はいつでも。待ってるから」