第四話 五
「姉ちゃん、そろそろ戻らないと!」
「もう少しだけ、遊びたい!」
「ダーメ。時間だから! 約束の時間!」
まだまだ遊びたい姉ちゃんを無理矢理連れて、ゲーセンから出たのは、約束の時間の十分前。今から行かないと、間に合わない。
「姉ちゃん走れる?!」
「よ、酔っぱらいを走らせるのかい? 朔きゅん、悪魔だ」
「あー、もう! 姉ちゃんは歩いて来て!」
酔っ払った姉ちゃんを一人にしてはいけないけど、今回だけは別。一大事だ。
ゲーセンを出て、最初の交差点の信号は、赤。
なんでこんな時に。ついてない。
とりあえず、青の方の横断歩道を走って渡っていく。
点滅が始まったから、すぐに赤だった方も青になるだろう。
とにかく、走るしかない。
「紫雲さーん! お待たせしました! 遅くなってごめーん!」
食堂が見えてきた頃、外に出ていた紫雲さんの姿も見えた。
近くまで行くと、何故か笑っている。
「アハハ。空木君。髪、ボサボサになってる」
「えっ、あ、走って来たから」
「そっか。早速だけどやろうか。住居の方でやろう」
「お願いします。紫雲さんは、ご飯食べた?」
「食べたよ。大丈夫だから。お姉さんは? 帰った?」
「姉ちゃんなら、歩いて来る……。はず」
階段を上がり、紫雲さん家にお邪魔する。休憩時間は限られているから、早くやらねば。
「じゃあ、こっちの部屋で。扇は持って来てるよね?」
「あるよ」
「術は出るようになった? 五行を感じないと、術は出ないんだけど、何も知らないままでも、何か感じた?」
「それが、何も。ベートーベンの『田園』ってあるじゃん。それを聞聴きながら、火術の火炎が出たくらいかな」
「そっか。どうぞ、入って」
「お邪魔しまーす」
入った部屋は、儀式を行った部屋。
祭壇が無いのは、儀式が終わった後に、片付けたんだろう。
「見せてもらえるかな。火炎を」
「はい」
デニムのポケットから扇を取り出し、目を瞑る。さっき、俺が出した火炎みたいに、同じように出したい。
目を開け、唱える。
「火術、火炎!」
扇の先に出来た、火の輪。
扇を動かすと、火の輪がついてくる。
「うーん。違うね。まだ未完成だね。本来の火炎は、こんな感じなの。見てて。火術、火炎!」
紫雲さんの扇から出た火炎は、火炎放射器から出てくる炎を見ているような、感覚にさせられる、勢いのある炎。
「これが火炎ね。空木君の場合、自然を感じていると思うんだけど、それぞれの力を感じてみて。火術なら、燃え盛る炎や小さな灯火。水術なら、流れる川の水とか、滝のように流れ落ちる激流。ちゃんと説明したいんだけど、私も教わったのは、五行の力を感じること。だけ。どう感じたら良いのか分からなくて、それぞれの術をイメージしてる」
イメージ。火炎なら、紫雲さんのように、火炎放射を。
「やってみる」
「頑張って」
「火術、火炎!」
扇の先から、勢い良く炎が出てきた。しかも、火炎放射のように。
これが、火炎。初めて五行術を、自分の力だけで、出せた。
「やった……」
「凄いよ! 空木君! このまま、烈火と業火もやってみようか」
「出来るかな。烈火」
「大丈夫。出来るよ」
紫雲さんの言葉に、何故か安心した俺がいる。第一歩を踏み出せたんだ。他の術だって出来るはず。




