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紫雲のカグラ  作者: 天城なぎさ
第三話 授術ノ儀(じゅじゅつのぎ)
30/102

第三話 結

 かれこれ一時間くらい、お邪魔した。

 帰り際、紫雲さんから渡されたのは、一枚の紙。


「空木君、これに術を全て書いておいたから。特別な動きはないけれど、術を唱えるときは、五行の力を感じながら唱えて。分からないことがあったら、連絡して」

「ありがとう。紫雲さん。お邪魔しました。晴斗さんと風吹によろしくお伝えください」


 玄関のドアを開けると、来たときには晴れていた空が、今にも雨が降りだしそうな雨雲に、覆われていた。


「うわぁ。降りだしそう。兄に送らせようか」

「晴斗さん、お店あるでしょ」

「風吹さんがいるから、なんとかなる。呼んでくるから、下に行こ」


 言うが早いか、紫雲さんはスニーカーを履いて、一緒に階段を降りる。


「お(にい)! どうせ暇でしょ! 空木君送って!」


 店の扉を開けると、紫雲さんは厨房に届く声で、晴斗さんを呼んだ。


「何で俺が、朔君を送らなきゃなんだよ~。それに、俺は暇じゃない。見てみろ」

『香楽。晴斗は暇だから、好きにしろ』

「風吹さん!? 俺、暇じゃないでしょ!! 見て!」

「お(にい)。この天気を見ても、それ言える? かなり降るよ。それにほら、元カノさんに会えるかもしれないし」

「行こうか! 朔君、乗りたまえ!」


 ***


「フフフーン。フフン」

「ご機嫌ですね。晴斗さん」

「そりゃあ、のぞみんに会えるなら、いつでも空木家に行く!」

「もう、付き合っちゃえば良いのでは?」


 うーん。と、晴斗さんは考えている様子。これは、俺が口を出す事ではないし、当事者二人の問題。


「前に話したじゃんか。のぞみんを泣かしたくなくて、俺たちは、別れを選んだ」

「でもそれって、過去の話ですよね。今なら、邪魔者はいない。姉ちゃんと付き合ってください。晴斗さん」

「俺はそうしたい。だけど、のぞみんは? 俺をどう思ってるのか、分かんなくない?」


 それは確かに。家族ぐるみで会ったとしても、二人きりで会ってはいない。

 それに、姉ちゃんはどうしたいんだろう。毎晩、「彼氏が欲しいいいいぃ!」なんて、酔っぱらいながら話しているけど、晴斗さんをどう思っているのか、それは分からないんだ。


「それより! どうだった? 香楽の巫女コスは」

「可愛かったですよ。普段、制服でしか会っていないので、新鮮でした。あ、もちろん手は出していません!」

「本当にぃ? 後で香楽に確認するからな?」

「身の潔白は、紫雲さんも認めてくれますよ」


 そして無言の間。

 何か話さなきゃと思っても、何も出てこない。


「ありがとう。術師になってくれて」

「い、いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます。頑張ります」

「着いたよ。のぞみん、いる?」

「自転車無いので、多分出掛けてます」

「あー、マジで? 待ってたいけど、店あるからな……。香楽に絶対怒られる」

「アハハ。ありがとうございました。お気をつけて」


 車から降りたら、空から雨粒が。本降りになりそうだし、早く中に入ろう。

 それより早く、術を練習したい!

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