第三話 結
かれこれ一時間くらい、お邪魔した。
帰り際、紫雲さんから渡されたのは、一枚の紙。
「空木君、これに術を全て書いておいたから。特別な動きはないけれど、術を唱えるときは、五行の力を感じながら唱えて。分からないことがあったら、連絡して」
「ありがとう。紫雲さん。お邪魔しました。晴斗さんと風吹によろしくお伝えください」
玄関のドアを開けると、来たときには晴れていた空が、今にも雨が降りだしそうな雨雲に、覆われていた。
「うわぁ。降りだしそう。兄に送らせようか」
「晴斗さん、お店あるでしょ」
「風吹さんがいるから、なんとかなる。呼んでくるから、下に行こ」
言うが早いか、紫雲さんはスニーカーを履いて、一緒に階段を降りる。
「お兄! どうせ暇でしょ! 空木君送って!」
店の扉を開けると、紫雲さんは厨房に届く声で、晴斗さんを呼んだ。
「何で俺が、朔君を送らなきゃなんだよ~。それに、俺は暇じゃない。見てみろ」
『香楽。晴斗は暇だから、好きにしろ』
「風吹さん!? 俺、暇じゃないでしょ!! 見て!」
「お兄。この天気を見ても、それ言える? かなり降るよ。それにほら、元カノさんに会えるかもしれないし」
「行こうか! 朔君、乗りたまえ!」
***
「フフフーン。フフン」
「ご機嫌ですね。晴斗さん」
「そりゃあ、のぞみんに会えるなら、いつでも空木家に行く!」
「もう、付き合っちゃえば良いのでは?」
うーん。と、晴斗さんは考えている様子。これは、俺が口を出す事ではないし、当事者二人の問題。
「前に話したじゃんか。のぞみんを泣かしたくなくて、俺たちは、別れを選んだ」
「でもそれって、過去の話ですよね。今なら、邪魔者はいない。姉ちゃんと付き合ってください。晴斗さん」
「俺はそうしたい。だけど、のぞみんは? 俺をどう思ってるのか、分かんなくない?」
それは確かに。家族ぐるみで会ったとしても、二人きりで会ってはいない。
それに、姉ちゃんはどうしたいんだろう。毎晩、「彼氏が欲しいいいいぃ!」なんて、酔っぱらいながら話しているけど、晴斗さんをどう思っているのか、それは分からないんだ。
「それより! どうだった? 香楽の巫女コスは」
「可愛かったですよ。普段、制服でしか会っていないので、新鮮でした。あ、もちろん手は出していません!」
「本当にぃ? 後で香楽に確認するからな?」
「身の潔白は、紫雲さんも認めてくれますよ」
そして無言の間。
何か話さなきゃと思っても、何も出てこない。
「ありがとう。術師になってくれて」
「い、いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます。頑張ります」
「着いたよ。のぞみん、いる?」
「自転車無いので、多分出掛けてます」
「あー、マジで? 待ってたいけど、店あるからな……。香楽に絶対怒られる」
「アハハ。ありがとうございました。お気をつけて」
車から降りたら、空から雨粒が。本降りになりそうだし、早く中に入ろう。
それより早く、術を練習したい!




