第一話 三
教室に戻った俺達は、先生からプリントを受け取り、そのまま自分の席へ。
同級生たちの視線がチラホラ。心の傷が出来てしまう。
一列挟んで隣の列の紫雲さんは何も気にせず、もう既に、プリントの問題を解いている。
プリントは表裏両方に印刷されていて、内容は『一年生の復習』ってことで、三角関数、因数分解エトセトラ。
えっと、この式は……。あれ? サインを求める時はこの辺とこの辺を使って……。
チラッと、同じ時間から始めた紫雲さんを見やると、もう終わったのか、ふぅ。と一息ついて、窓の外を心配そうに見ている。
俺はあと裏面のラスト一問。時間は残り三分だから、余裕で終われるはず。
***
キーンコーンカーンコーン。
五時間目終了のチャイムが鳴り響く。
「後ろの席の人は、プリントを回収してきて」
一番後ろの席は俺だから、前の席の人たちのプリントを回収。
偉いぞ、俺。
「空木君、怪我は大丈夫だった?」
「はい。おかげさまで。怪我はしてなかったみたいです」
「それは良かった」
回収したプリントを先生に渡して、自分の席に戻る。
次は世界史か。
「朔、災難だったな」
話しかけてきたのは、俺の小学校からの友人である、斉木竜也。
「災難だけど、破片が刺さってなかったのが、不幸中の幸い」
「てかさ、朔。よく紫雲さんと話せたな。色々ヤバい奴らしいじゃん」
「紫雲さんが? 普通に話したけど、何の違和感もなかった」
「鈍感なんだろ。朔自身が。名前からしてヤバいって。紫雲香楽なんてさ。しかも陰陽師だかなんかの術師の家系らしい」
「へぇ。紫雲さんの家って、術師の家なんだ。実に興味深い」
やっぱり、術師なんだ。だから、霊魔が見えたんだ。
実に興味深い!
「あー、そうだった。朔はそういう系好きだったな」
「ちょっと話してくるわ!」
「あ、おい。紫雲さんと話すと呪われるって、噂を聞いた。やめておけ」
「話しただけなら、俺、昼休みに話してるから。何もなかったし」
「あっただろ。窓が割れて、降りかかっただろ」
「それなら、紫雲さんだって怪我をしてる。俺は無傷だ」
竜也に手を掴まれ、泣く泣く諦めることに。
でも気になる。さっきの事が、どうなったのか。
知りたい。知りた過ぎる。
「竜也。この未開封の、ぬるいミックスジュースをやるから、見逃してくれ」
鞄の中から、朝買ったパックのミックスジュースを、取り出す。
ちゃんとストローも付けて。
「無理だ。友人を、危険な目に遇わせたくない」
「もしさ、竜也に好きな人が出来たとして。俺が、その女の子と話すなって言ったら、竜也はどうする? その子と話すと呪われるからって」
「諦める。キッパリ諦める。人生がかかっているなら、尚更」
そうか。通じないか。
ならば、放課後まで我慢しよう。