第三話 六
「香楽ちゃん、何飲む? ウーロン茶と麦茶しか無いけど」
「ウーロン茶ください。あと、お姉さん。黒曜石ありがとうございました。中々買えないので、凄く嬉しいです」
「いえいえ~。喜んでもらえてなによりだよ~。コレクション、後で見せるね。あ、ウーロン茶。どうぞ」
パワーストーン好きで盛り上がる会話。俺と紫雲さんのお兄さんは、ただただ、餃子に夢中。
「そうだ。姉ちゃん。明日、紫雲さん家で、術師になるための儀式を行うから、行ってくる」
「そう。遂に朔がねぇ。晴斗君、香楽ちゃん。朔をお願いします」
そう言って姉ちゃんは、紫雲兄妹にペコリ。連れて、俺も一緒にペコリ。紫雲兄妹が笑っているのは、顔を上げてから知った。
「こちらこそ。お願いします。のぞみん、この家を護るための、護符ってある?」
「護符? あるよ。確か、多角形のやつだよね?」
「そうそう、それ。儀式の間だけ、借りてもいい?」
「どうぞ~」
「ありがとう。のぞみん」
多角形の護符なんて、あったかな? 見たことあるような、無いような。
二月の下旬くらいに、家に神主さんが来てくれて、祝詞をあげてくれるのは、分かるんだけど。
「紫雲さん。ウーロン茶、もう少し飲む?」
「いただきます。この揚げ餃子が美味しくて、何個でもいけちゃう」
「遂に明日かぁ。なんか、楽しみ!」
「それは良かった。ん? お兄、何してんの?」
俺が紫雲さんのコップに、ウーロン茶を注いでいる間、姉ちゃんと紫雲さんのお兄さんは、コソコソと何かを話していたらしい。
「それがさ、今日って満月じゃん。だから、のぞみん、『ポロヌプ』を聴きたいらしくて」
「『ポロヌプ』って吹奏楽の曲ですよね? お姉さん、クラシック音楽はお好きですか?」
「好きだよ~。香楽ちゃんは? クラシック好き?」
「好きです。吹奏楽の曲も何曲か聴いています」
「朔と違って、分かる子だね~」
はいはい。どうせ俺は、分かる子じゃないですよ~。
なんて、内心で思いながら、水餃子をパクっ。熱々のスープが、餃子に染み込んで、口の中で素晴らしいマリアージュ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。ガタガタガタガタ。
いきなり、地響きと共に、家全体が横に大きく揺れる。地震か?
「えっ、地震? 皆、大丈夫?」
「のぞみん、火は消した?」
「消した。キッチンは大丈夫。テレビつけるね」
「姉ちゃん。これ、地震じゃない。緊急地震速報が、スマホに来てない。テレビつけても、地震の情報はないよ」
「嫌な気配がする……。お兄、シャーペン持ってる? かなり近くにいるみたい」
紫雲さんが、霊魔の気配を察知してくれた。俺はまだ術師じゃない。紫雲さんのお兄さんから貰った護符は、もう使えない時間。何も出来ない。ここは、紫雲兄妹にお任せしよう。
「空木君はここで、お姉さんと一緒にいて。何かあったら、連絡して」
「ごめん。何も出来なくて」
「気を強く持って。霊魔は、私たちに任せて」
「紫雲さん……」
満月が照らす今夜。霊魔なんて来ないだろうと、餃子パーティーをしていた俺たち。
霊魔に休みなんてないんだ。術師になるのに、何も知らないで、俺は良いのだろうか。




