第三話 三
「朔~。ジュース買いに行かね~?」
「えー、何で?」
「飲みたいからに決まってんだろ。付いてきてくれるだけで、良いからさ」
「寝たい。とにかく、寝かせてくれ。竜也」
あの後、何事もなかったように教室に戻り、何事もなく授業を終えた。とりあえず、何度でも言おう。何事もなかったのだ。そう。何事も。
テストなんてものに、触れないでくれ。俺は寝たいんだ。
「テスト、どうだった? 俺は数学は何とかなったけど、英語が赤点だった。おい、聞いてんのか? 朔? はぁ。あ、あんなとこに、変な動きをしている、飛行物体が!」
「何だと!? 何処だ?!」
「そんなん、現れるわけないだろ。起きたから、ジュース買いに行くぞ」
「立ちたくねぇ。ここから動きたくねぇ」
「それ、最近仲の良い、紫雲さんにも言えんの?」
「あー、それは時と場合によりますね。はい。俺、良い子なんで」
こんなん、竜也には通じるわけもなく。
有無を言わさず、生徒玄関にある自動販売機まで連れて行かれ、竜也の付き添いをするのだった。
「竜也~。俺、オレンジジュースで良いよ。なければ、この高いやつ」
「自分で払え。オレンジジュースだったら払うけど」
「ゴチになります~。竜也さん! 流石、お金がありますね~」
「いえいえ~。この前、温くなったミックスジュースを貰ったので~」
霊魔やら何やらで、最近まともに竜也と話せていない。久しぶりに話すと、やっぱ、親友! わかってくれる!
「さてと。俺、これからバイトだから行くわ。朔、紫雲さんには気を付けろよ」
「何で?」
「この前の窓が割れた時だって、学校襲撃だって、紫雲さんがいた。てことは、紫雲さんと襲撃は何か関係がある」
「それは、霊魔の仕業。紫雲さんは、俺たちを守ってくれてる」
「あのさ、朔」
竜也は、俺の両肩に手を置くと続けた。
「霊魔なんていると思ってんの? あれ、昔話じゃん。そんな魔物が現代にいるわけない」
「でも。もし、本当に霊魔の仕業だったら、どうすんだよ。紫雲さんに謝れ」
「そうなったら、土下座する。でも、紫雲さんの仕業だったら、朔はどうすんの?」
「竜也に土下座する。紫雲さんの分も合わせて」
「この大博打、逃げるなよ?」
「分かってる。男に二言はない」
変な賭けに出てしまった。だけど、竜也は知らないだけで、これは俺の勝ちだ。
こんな事で、親友である竜也を失いたくはない。
「最後に一つだけ。朔、霊魔の話は、もうしない方が良いぞ。小学生の頃から言ってるけど、霊魔を見たことあんのかよ」
オレンジジュースを受け取った俺は、そのまま歩き出せずにいた。




