第三話 ニ
紫雲さんと楽しくお喋り中。突然、黒い帳が上空を包み込んだ。帳から現れたのは、二、三メートルはありそうなくらい、大きな霊魔。
「このタイミングで?! 紫雲さん、どうする?」
「空木君、まだ、あの護符持ってる?」
「持ってる。あの護符、まだ使える?」
「使えるはず。扇は?」
「あります~!」
黒曜石が入っていた方と逆のポケットから取り出し、紫雲さんに扇を見せる。
「じゃあ、一緒にやろう」
「ラジャー!」
帳から出てきたのは、霊魔一体だけ。紫雲さんにおまかせすれば、一瞬で終わる。でも紫雲さんは、一緒にやろうと、言ってくれた。
『ギギャァアア!』
「空木君、首の辺りを狙って! 動きは封じなくて良いよ!」
「了解です!」
着地するとすぐに、両手の拳による連擊。俺が術を繰り出す隙がない。そんなことを考えていると、霊魔の連撃が激しさを増す。
「ぐわっ!」
「空木君、大丈夫!?」
紫雲さんは上手く避けたようで、攻撃を受けたのは、俺だけ。
一撃だけ、みぞおちにクリティカルヒット。
膝から崩れ落ち、動けず、何も出来ない。
「空木君は、休んでて。あとは、やっとく」
何も出来ないまま、戦線離脱。術師になる前から、情けなさすぎる。
「水術、水君!」
尚も、拳による連擊を繰り返している霊魔を、紫雲さんは大量の水で包み込んだ。俺たちの倍はありそうな霊魔を、いとも簡単に。
『ギギャァアア! ヒュードゥー!』
水の中から出ようと、攻撃を止め、もがいている霊魔。間髪入れずに、紫雲さんは攻撃を続ける。
「水術、泡沫!」
大量の水の中に、収まりきらんばかりの泡。一斉に弾けると、水は消え、霊魔の姿も消えていた。
俺は痛すぎて、痛覚が麻痺しているのか、分からない。
「空木君!」
霊魔との戦闘を終え、俺の側に来てくれた紫雲さん。今はその顔が霞んで見えない。何か言っているけれど、聞き取りにくくて、何を言っているのか。
「風吹さんが居てくれたら……。ちょっと待ってて。すぐ来てくれるから」
***
「ん……」
目を覚ますと、青い空が目の前に広がっていた。
『気がついたか。少年』
「良かった。ごめんね、私の判断ミスで……」
風吹と、今にも泣きそうな紫雲さんが俺の顔を覗き込んでいる。
何も痛くないから、風吹が治癒してくれたのだろう。
『立てそうか?』
「何とか。ありがとう、風吹。紫雲さんも」
「私は何もしてない。むしろ、空木君を傷つけた。命に別状がなくて良かった」
昼休み終了まで、もう少し時間がある。五時間目から普通に授業が行われる。確か数学。数学か……。
「俺の記憶が正しければ、次ってさ、数学だよね?」
「そうだけど。テスト返されるね」
「自信ある?」
「全く。二年になってから、かなり難しくなったと思う」
「紫雲さんって、一年の時の学年順位、何位だった?」
「教えなきゃダメ?」
「気になるので」
えっとね。と、紫雲さんは一言置いて、教えてくれた。とても、小声で。
「七位」
「はい?」
「だから、七位」
「七位? マジで?」
「マジで」
成績優秀で、術師をやっているなんて、どんな奴が来ても無双出来るくらい、強いな。俺も、無双出来る男になりたい。




