第三話 一
一学期の中間テストが終わり、一段落着いた。
晴れ渡る空の下、昼下がりの屋上。輝く太陽が眩しい。
「あー、解放感! 清々しい!」
「落ち着きなよ。空木君」
「すんません。あ、そうそう。姉ちゃんから預かった。紫雲さんに渡すように言われてたやつ」
「何だろう。兄に頼まれたのかな」
「これこれ。香楽ちゃんに。って、言われてたから」
制服のズボンのポケットから、よく分からない、綺麗な黒い石を取り出し、紫雲さんに見せる。
「これって、黒曜石!? お姉さん、あの話覚えててくれたの?!」
「よく分かんないけど、渡して欲しいって」
「ありがとう。お姉さんに、よろしくお伝え下さい!」
「はい」
二人にいつ、何処で、どんな会話があったのか、俺は知るよしもない。
それに、二人に会話があったとしたら、一緒に晩御飯を食べた、あの日だろう。
「いつ話したの?」
「電話で。お姉さんと、好きな事の話で盛り上がったの」
「好きな事の話? 紫雲さんの好きな事って何?」
「パワーストーン。お姉さんも幾つか持ってるみたいだね」
「あー。そう言えば。姉ちゃん、家の至る所に飾ってる」
昼休みの屋上は、俺たち以外に誰もいない。青い空では、白い雲が流れている。
「五行術、そろそろ教えてくれない?」
「空木君にはまだ早い。出来ることなら、今すぐ教えたいけど、君にはまだ教えられない」
「何で?」
「空木君ってさ、非術師の家系でしょ。だから、術を使う力がない。五行術を使うには、新月から満月までの間、月光によって浄化された水を飲む必要があるの。あと、用意して欲しい物があって」
「俺に出来ることがあるなら、やっとくけど?」
「榊の枝を。葉が付いているものを、二本用意して。あと、空木君の血が必要」
血か。榊と血なんて、何かの儀式でも行うのだろうか。黒魔術だと、血を使うって聞くし。
「何かの儀式?」
「そう。血は一滴あれば大丈夫」
「一滴なら、いくらでもどうぞ」
「献血じゃないんだから」
ですよね。一滴なんて、何にも使えない。誰だって知っている話だ。
「紫雲さんは、献血したことある?」
「まだない。いつかはやってみたいよ」
「そっか。俺さ、小さい頃、輸血されてるんだ。両親が亡くなった、交通事故の現場に、俺は居た。俺も事故に巻き込まれてて。運良く俺だけ助かった。危ない状態だったけど、輸血で何とか、今を生きてる」
この話は記憶になくて、じいちゃんから聞いた話だから、偉そうに話せないけれど。でも、知ってて欲しいって思えてしまう。
「じゃあ、空木君の身体には、見ず知らずの人だけど、優しい人の血が入っているんだね。でも、十年以上前の話なら、今、空木君の身体を流れているのは、空木君の血。君の血だよ。儀式を執り行っても、空木君に力が与えられる。その血を大切にして」
晴れ渡る空の下。鳥のさえずりと、草木の香りが、風に乗って俺たちを包み込んだ。




