第一話 二
五時間目の数学の授業は、確か自習。それなら、戻らなくても良いんじゃないかって思うけれど、出席を確認しに来る先生が来る。
それさえなければ、自習をサボれるのに。最悪だ。
「来る。霊魔が、こっちに来る」
紫雲さんと教室に戻る途中のこと。
廊下の窓の外を見ながら、紫雲さんは呟く。
「帳が降り始めてる。空木君は、教室に戻ってて。私は、外に行ってみる」
「えっ? あ、危ない! 紫雲さんが外に出ても、何も出来ないし!」
紫雲さんを止めなきゃいけない。
霊魔がどんな存在なのか、俺は何も知らないけれど、危ない橋を渡ろうとしている紫雲さんを止めなきゃ。
「私の事、何も知らないでしょ。とにかく、霊魔に対抗出来るのは、私しかいない。だから、私の言うことを聞いて」
そう言われてしまうと、止めなきゃいけないけれど、被害が大きくなるよりはマシ。
だけど、紫雲さんを見捨てるわけにはいかない!
「俺も行く。紫雲さんを見捨てるわけにはいかない」
すると、紫雲さんは目を見開き、驚きの表情を見せた。
「何を言っているの?! 空木君は、霊魔に対抗出来ない! 非術師の空木君が来ても……。しゃがんで!」
パリーン!
勢いよく風が吹いたように感じる。
廊下の窓が割れ、割れたガラスの破片が俺に降りかかったけれど、刺さらなかったのが、不幸中の幸い。
丁度、俺達の教室に入る所だった先生が廊下にいて、俺達と異変に気付いてくれた。
「どうしたの!? 窓が割れてる。何があったの?」
「急に強風が吹いて、窓が割れたんです。先生。空木君の背中に、破片が降りかかっています。保健室に行った方が……」
「そうね。立てる? 空木君」
「はい。なんとか」
紫雲さんが説明してくれて、その先生に連れられ、そのまま保健室へ向かうことに。
「紫雲さんは? 顔と手のひら、怪我してるじゃない。貴女もね」
「私は平気です。空木君を優先してください」
「ダーメ。紫雲さんも手当てしなきゃ」
先生はそう言うと、紫雲さんの手を引いて、一緒に保健室へと向かった。
***
「はい。降りかかっただけで良かった。怪我はしてないみたいね」
「ありがとうございました」
「紫雲さんの傷も浅くて良かった。でも、強風が吹いて割れるなんてね。なんかニュースでも、同じこと言ってたよね」
「言ってましたね。まさか、ここで起きるとは思いませんでした」
手当てをしてもらったから、教室へ戻らないと怒られる。
はぁ。サボれると思ったのに。残念。
「ごめんなさい。空木君を守れなかった」
俺の後ろを歩く紫雲さんが、不意に謝罪の言葉を呟いた。
「守ってくれたよ。しゃがまなかったら、俺は大怪我だったと思うけど」
「私は……」
「紫雲さんは、術師か何かなの? 霊魔が見えるって事だよね?」
無言の間。
それから教室に着くまで。いや。着いてからも、紫雲さんは何も話してはくれなかった。