第ニ話 五
濃霧を抜けた先には、見覚えのある景色が広がっていた。
だけど、無惨に荒らされ、机や椅子は散乱し、窓は割れて、荒れ放題。
「ここ、教室だよね?」
「そう。黒板を見れば、ここが私たちの教室であることは、分かると思う」
「皆は? 無事なんだよね?」
「うん。無事。体育館にいるから、皆の所にいて。大丈夫。兄が来てくれたから、安心して」
「紫雲さんは? どうするの?」
「この惨状を無視出来ない。風吹さんと一緒に、元通りにするから、離れてて」
『とりあえず、俺様が連れていくから、安心しろ。少年』
「お願いします。風吹さん」
風吹に背負われたまま、体育館に連れていかれることに。
紫雲さんがいない所で、俺は、風吹に聞きたい事を聞く。
「あのさ。何で、五行術師になったんだ?」
『それは、俺様がお前に聞きたい事だ。何故、なろうと思った?』
「昔から幽霊とは違う者たちを見ていたんだ。妖怪とも違う、残虐な奴ら。図書館の本で調べたり、ネットで調べて、見てるそれが、霊魔だと知った」
『特異体質だな。非術師の家系なんだろ? お前、珍しい奴だな。それで、術師になる事との関係は?』
理由。単純な理由しかないけれど、風吹は納得してくれるだろうか。
「紫雲さんに助けてもらったから。あと、五行術師を後世に残したいから。霊魔が見える俺に、出来ることをやりたいと思ったから。動機としては弱いけど、これが理由」
『単純だな。まぁ。その方が、何の縛りも無しに、自由に出来る。紫雲兄妹と違う』
「それで、お前は? 鬼が霊魔退治とか、珍しい奴だぞ」
『鬼が皆、悪者だと思うな。人間の読み物に、「泣いた赤鬼」などと言う書物があるだろ。俺様は、良い鬼だ。着いたぞ、少年』
あっという間に、体育館に到着。風吹の五行術師になった理由を聞くことは出来なかった。
『お前が、五行術全てを覚えたら、教えてやる』
「俺、恥ずかしげもなく、語ったのに!?」
『助けてやっただろ。それくらいの報酬は、貰わないとな』
「うぅ……。反論出来ねぇ」
『俺様は、香楽の元へ戻る。じゃあな。少年』
「ありがとう。風吹」
風吹の背中から降り、体育館の扉を開け、無事であろう皆の元へ。
臨時の全校集会をしていたようで、俺の登場に、ほぼ全員が振り返った。恥ずかしさが俺をつつみこむ。
扉の近くにいた、担任の新藤先生が、俺に気づくとすぐに、話しかけてきた。
「空木。とりあえず、五組の列の一番後ろに座って」
「はい」
「これで全員だな。五組は」
「あれ? 紫雲さんがまだです」
「紫雲なら、もういるぞ。気にすることはない」
どういう事なんだ。何も分からない。紫雲さんなら、まだ教室にいる。
全校集会と言っても、ただ、今回の騒動に関する話をしているだけ。
霊魔の仕業なのだと、校長先生は話している。
皆が信じるだろうか。ただの戯言だと、皆は思うだろう。
俺が集会に合流してから約五分。
何事もなく、終わりを迎えると思った矢先。嫌な気配が近づいて来るのを、俺は感じ取った。




