第ニ話 四
「んっ……」
暗い所から一気に明るい所へ。
目が明るさに慣れていないから、少し待つことに。
はっきりと見えるようになった景色は、辺り一面靄か霧で、真っ白な世界。足元を見て見ると、フワフワな感触で、真っ白だ。
「紫雲さん、聞こえる?」
いくら待っても、返事がない。
きっと、霊魔と戦っているんだ。
俺に構わず、戦闘に集中して欲しい。
『ギギャァ!』
気がつかなかった。ギョロ目で口が裂けている霊魔が、目の前に現れた。
どうする。どうするどうする。
俺はまだ術を使えない。逃げても、この世界が何処まで広がっているのか分からないし、霊魔に追いつかれたら、待っているのは……。
あー、もう! 考えている余裕なんてない。
動くしかないじゃないか!
「ぐあっ!」
一瞬の隙をつかれた。俺の首を、片手で絞めようとしている。
「は、なし、やがれ……」
霊魔が強く絞めてくるせいで、息が出来ない。
「ぁぐゎ……」
手足を動かそうにも、力が入らないし、息が出来ないから意識が……。
やべぇ。これ、幻覚の中で死ぬやつじゃん。
『無力とは、時として、自らの命を犠牲にする。助けてやっても良いのだぞ? 少年』
この声は、トンネルの中で会った、あいつか。でも、振り向けないし、顔を見ていないから、よく分からない。
ヤバい。意識が完全に……。
「ぁぁくっ……」
か細く出た声は、声と呼ぶには程遠いものだった。
きっと姉ちゃんも、こんな感じだったのだろう。苦しかったんだろう。
術師になりたいと、姉ちゃんに話した時、約束したこと。それは、姉ちゃんよりも先に死なない。
『やれやれ。助けてやろう』
その声が聞こえた時、俺の意識は、遥か彼方へ飛んでいたのだった。
***
「空木君! 大丈夫?!」
聞き慣れた声に、俺の意識は引き戻された。そんな気がする。
「紫雲さん……?」
冷たい地面に横たわって、真っ白な空を見上げる俺の顔を、心配そうに、覗き込む紫雲さん。
「良かった。霊魔に首を絞められて、意識がないって、風吹さんから聞いたの」
「ふぶきって、誰?」
「あっ、もしかして、名前を名乗らなかったの?」
「誰の事?」
『ふぶき』と名乗る人物に、会った事はない。もしかしたら、会っているのかもしれないけれど、記憶にない。
『俺様の事だ。少年』
トンネルで出会ったあいつが、俺の顔を覗き込んできた。
薄暗くて、顔を見ていなかったが、よく見ると、額の辺りに角が二本。
人間と同じ皮膚の色で、角以外は全て人間。
「お前が、ふぶきなのか?」
『そうだ。驚いたか? 風が吹くと書いて、ふぶきだ』
「鬼だよな?」
『鬼が、霊魔を退治してはいけないのか?』
「ただ、紫雲さんが鬼と繋がりがあることに、俺は驚いている」
「まぁ、驚くよね。起き上がれる? ここから出よう」
紫雲さんと風吹が手伝ってくれて。と言うより、半ば無理矢理、風吹に背負われ、濃霧の中を進んで行く。




