第二話 二
「そして、財を成していたメディチ家が……」
何故、こんなにも、世界史の白浜先生の声は、エエ声なんだろう。
心地いいテノールボイスが、睡魔を呼び出し、だんだんと俺を包み込んでいく……。
気がつけば、俺は青空の下、深い森の中にいる。足元を見れば、廃線になったのであろう、線路の上。
ここは、何処だ?
見たことも、来たこともない、この場所。まぁ、夢の中だし、気にすることはない。
いや、待てよ。
これは夢の中、だよな?
何で、意識があるんだよ。夢の中じゃ、俺の意識とは別に、勝手に動くのが普通だろ。
青空は木々の間から見える程度で、何もかもがわからない。
森の中で、無闇に歩き回るわけにはいかないけど、この場所から離れた方が良いと、本能的に考えてしまう。
線路を歩いて行けば、この夢は覚めるだろうか。
ここに居ては危険だ。
本能がそう、叫んでいる。
夢なら覚めてくれ。頼む。覚めてくれ!
――空木君!――
誰だ? 俺を呼ぶのは。
――空木君! 後ろ! 後ろを見て!――
この声は、もしかして。
言われた通りに振り向き、背後を見る。
「紫雲さん! 紫雲さん、何処?! 居ないじゃん!」
――私は、その世界にはいない。そのまま走って! トンネルを抜けるまで、振り向かずにね!――
言われたままに、俺は振り向かずに走り出す。
なんだか風が変わったような気がするけれど、そんなことを気にしている場合じゃない。
バキバキッ。ドサッ。ザザザ。
何処かで木が倒れたようだ。だけど、振り向くことは出来ない。
『振り向いちゃいけない』なんて、テレビで視たことがあるけど、恐らく、ここから出られなくなるんだと思う。
――そのまま。そのまま。走って――
「あと、どれくらい走るの……。ハァハァ。てか、紫雲さん、何処から話してんの。ハァハァ」
――空木君が今いる世界とは、別の世界に私はいるの――
「もしかして、皆別々の世界? だとしたら、竜也は? 竜也も夢の中?」
――今、空木君は。じゃなくて、今、学校全体が霊魔に襲撃されているの。空木君は、眠ってしまったから、わからないだろうけど。これは夢の中じゃなくて、霊魔の見せる幻覚の世界。斉木君も皆も、幻覚の世界で眠っているの――
「霊魔は何をしたいんだ?」
――恐らくだけど、幻覚を見せて魂を奪う……。よくある霊魔の手口――
「紫雲さんは、無事だよね? 俺、紫雲さんの力になりたい!」
――ありがとう。とりあえず、トンネルを抜けて。そうしたら、合流出来るはずだから――
紫雲さんに言われたままに、トンネルに向かって一直線。後ろで木が倒れようと、俺は振り向くことなく。
トンネルがすぐそこに見えた時、地面が強く揺れ、俺はバランスを崩し、うつ伏せの状態で倒れてしまった。




