第二話 一
不思議な夢を見た。
ちゃんと覚えているわけじゃないから、「見た」と言い切れないけれど。
「空木君。どうしたの?」
いつも昼休みは、屋上に行くのが、俺のルーティーン。
最近は、紫雲さんも来るようになって、よく二人で話している。
「さっきからずっと、ため息ばかり」
「マジで? そんなに、ため息なんてしてないんだけど」
「してた。何かあった?」
「術師になることを、姉ちゃんが許してくれた。それは嬉しいんだけど、術を媒介する道具を、まだ決めてないんだよね」
「それだけの事で、ため息を?」
まぁ、そんな事なんだけど。
紫雲さんのお兄さんみたいに、シャーペンにしようか。
でも、なんかダサいな。
「深く考えなくて大丈夫。シャーペンはオススメしないから」
「だよね。何が良いんだろ……」
「でも良かった。空木君が術師になってくれて」
「でもさ、俺の家は、術師の家系じゃない。俺でも術を使えるの?」
「ご心配なく。霊魔が見えるなら、術を使える」
「そっか……。使えるんだ」
もう一度言おう。不思議な夢を見た。
「俺さ、不思議な夢を見た気がすんだよね」
「どんな夢?」
「それが、よく分かんなくて、思い出そうにも、思い出せない夢」
「不思議なのは、空木君の方なのでは?」
意外と話が続く。
紫雲さんが、話にのってくれるからなんだけど、聞いてくれるだけでも、ありがたい。
「そうなんだろうけど、俺は不思議ではないのだよ」
「夢が霊魔と関係する可能性は、ゼロだから。心配ない。でも夢って、予知夢の類もあるから、危機感は捨てない方が良い」
「意外と辛口ですね。紫雲さん」
他愛のない会話で、最近の昼休みは終わる。
俺が、五行術師になると決めてから、霊魔の気配は感じられない。
「俺も、扇にしようかな~」
「ご自由にどうぞ。修行は、道具を決めたら、始めるから」
「よろしくお願いします。師匠」
「あ、今日の放課後、空いてる?」
「空いてる。何かある?」
青空の下、俺たちの間には、無言の風が吹いている。
「家に……」
「へ?」
「家に、来て欲しい」
おおぅ!?
マジですか!? 紫雲さん!?
「紫雲さんの、家に?」
「うん」
「放課後、だよね?」
「うん」
空木朔、十七歳。女子の家に行ったことのない人生を、歩んできた。
モテ期なのか? モテ期が、到来してしまったのか?!
「兄に紹介したくて。空木君の事、気になってるみたい」
「そうですか……」
ですよね~。
モテ期なんて、来るわけないし。てか、モテ期の意味違うし。
「兄が。空木君が術師になってくれること、喜んでた。兄が中学生の頃に使ってた扇なんだけど、良ければ、使ってくれないかな?」
「あー、うん。ありがと。簡単に決めちゃったけど、扇にするわけだし。買わなきゃいけないとこまで、考えてなかった」
「それじゃあ、放課後。教室で待ってて」
キーンコーンカーンコーン。
なんと言うタイミングなんだ。チャイムが鳴ったから、昼休みは終了。
「楽しみにしてます! 紫雲さん!」
「テンション上がりすぎ。すぐそこだから、気楽にね」




