第十話 結
頭を殴られた様な衝撃に襲われ、私は意識を失った。
「それじゃ、あの七将は、分身体って事なんだな?」
『正確には分身体ではなく、低級な霊魔に、自らの力を込めた、複製体だな』
「低級な依り代だったから、朔君の花舞と、風吹さんの鬼刀術が効いたのか」
そんな会話が聞こえ、目を開ける。
「皆、いるの?」
見慣れた天井。机やローテーブル。カバーが掛けてある姿見。
ベッドに横たわる私は、上体を起こした。
「香楽! 良かったっ。生きてる!」
「お兄、泣かないでよ」
今にも泣き出しそうなお兄。そのお兄に声を掛け、風吹さんと空木君に視線を移す。
「気分はどう? 紫雲さん」
「良くはないよ。助けてくれて、ありがと。空木君」
『今回は、少年のお手柄だな。星蘭を飛ばして伝えてくれなければ、香楽は手遅れだったはずだ』
「俺なんて、何も出来なかった。まだまだだよ」
「そんなことないよ。空木君がいなかったら、私はっ」
私は、誰にも頼れなかった。
『しかし。幾重にも結界を張ってくるとは。全ての結界内部に、夢幻を敷き詰めていたな』
「さすがに疲れた。結界破りも、ほどほどにして欲しい。店だってあんのにさ」
「お兄。術師なんだから、弱音はダメ」
「へいへい。それより、腹減ったろ。のぞみんが餃子を作ってくれたんだ!」
「まさか、餃子パーティーなの?」
「その通り。姉ちゃんが、無性に包みたくなったらしくてね。あー、んと、立てる?」
「大丈夫だと思う。いざとなったら、手伝ってもらえるかな? 空木君」
そう言って、ベッドから出てみる。立てたけれど、歩いてみると、生まれたての子鹿。
ガクガク、ブルブル。まともに歩けない。
「ハァア。先に行ってる。行こう、風吹さん」
『そうだな。若い二人に任せるか』
「そういうのは、良いから! 朔君には感謝してるけど! 赦してないから!」
『分かった分かった。妹を持つ兄貴は、大変だな』
風吹さんとともに、部屋を出ていったお兄。
ため息が物凄く大きかったのは、スルーしよう。それより、立っているのも辛い。
「お手をどうぞ。紫雲さん」
「ありがとう。空木君」
空木君に支えられ、一歩ずつゆっくりと歩いていく。
「襲撃は、いつだったの?」
「今日の……。あ、日付変わるから、昨日? いや、今日の昼休み。屋上で」
「もしかして、昼休みから、ずっと戦ってくれてたの?」
「うん。まぁ、そうなるかな。でも、紫雲さんが倒れて、俺しか霊魔と戦えないし。星蘭を飛ばして、晴斗さんと風吹を呼んだから、なんとかなった」
「ありがとう。空木君」
「お礼なんて、いいよ。あ、段差。気をつけて」
空木君が、霊魔の見える特異体質で良かった
空木君が、術師になってくれて良かった。
私を助けてくれたのが、空木君で良かった。
「夢幻の現実味、ヤバかったね。混乱しなかった? 俺は混乱した。何で知らない先生が出てくんの!? とか、俺の血筋に、八雲の血は入ってねぇ。とか」
「混乱したよ。思いっきり、相手の良いように踊らされたから。思考も少し操られたしね。私も、知らない先生が出てくるし、その先生が術師の家系でとか。ワケ分かんなかったよ」
「それでも、俺の、名前を、呼んでくれて。えっと。ありがとう」
空木君の顔を見ると、少し赤らんでいる。
夜と言えど、夏の夜は蒸し暑い。
「今って、何時?」
「夜の、十一時半過ぎたくらいかな。夜中に餃子って、重いけど、俺もペコペコでさ。紫雲さんも、少しでも食べて。この時期、具合が悪いと、倒れやすいからさ」
ダイニングキッチンに近づかなくても、餃子の香りが漂ってくる。
「望さんも来てくれたんだよね。キッチンにいるのかな」
「うん。姉ちゃん曰く、こういう時は、餃子に限る! って、仕事終わってから、一瞬で買い物済ませたって話してた」
「望さんにもお礼言わなきゃ」
「いいよいいよ。姉ちゃんが作りたかっただけだし。今晩は、泊めて頂けるようなので」
「そっか。泊まってくんだ。明日は土曜日だしね。だったら空木君は、私の部屋においでよ」
無言の間。チラッと空木君を見れば、先程よりも赤らんでいて、耳まで真っ赤。
「空木君?」
「あ、えっと。紫雲さん? そういうことは、軽々しく、言っちゃダメなやつ。ね?! 俺だって、男だし……」
「知ってるよ。でも、今日は、一緒にいて欲しい。ダメかな?」
「紫雲さんが、良いなら」




