第一話 結
ふぅ。サッパリした。
濡れた髪をタオルで拭きながら、キッチンへ直行。
冷蔵庫の中から、アルピスの原液と炭酸水を取り出し、少し濃い目に割る。しかも、氷入り。
「朔~。マスタード持ってきて~」
リビングから姉ちゃんの声が。ほろ酔い状態であることが、声だけでわかる。
マスタードを手に取り、リビングで待つ姉ちゃんの元へ。
「ほい。マスタード」
「サンクース。朔の分も食べちゃおうかな~」
「まだ一本目だよね? 早くね?」
「望さんは、まだ酔っていない! まだまだいける!」
今日は酔うのが早いな。
一本目なのに酔うなんて、相当疲れているのか?
「朔~。何か隠していないか~い?」
「別に。何も隠してないけど?」
「それなのに何故、目を逸らすんだぁい?」
酔っているからなのか、それとも、姉ちゃんの潜在能力なのか、恐ろしさを感じる。
言わなきゃな。
「あのさ。今日、俺、ファミレス行ったじゃん。同じクラスの女子と」
「それが、どうしたのだ?」
「その女子さ、術師なんだって」
「ほほぅ? 術師?」
お互い呑みながら、話を進める。
「今日、学校の窓が割れて……」
「学校から連絡貰ってる。破片を浴びたんだって? 近くにいた女子生徒が、咄嗟に声をかけてくれたって」
「うん。おかげで、無傷で済んだ。だけど、その女子は、手に傷を負ってしまって。その後。放課後なんだけど、霊魔に襲われたんだ。その時も、その女子に助けて貰った」
無言の間。
重苦しくはないけれど、居心地のいい空気ではない。
「高校生の時さ、いたんだよね」
姉ちゃんが、空気を変えてくれた気がした。そんな気がしただけかもしれないけれど。
「術師の家系だっていう、男子がいた。名前は確か、紫雲……。晴斗君」
「紫雲晴斗さん? その人に妹いたりする?」
「いるらしいけど。朔と同い年のはず」
「俺、その人の妹に助けて貰ったんだ」
「まさか、そんなことがあるなんてねぇ。ほぼ同じ血が流れているから?」
どういうことなのか、俺は知りたい。
ビールを呑みながら、ポテトを食べている姉ちゃんの手は止まらない様子。
「気になるかい?」
「教えてくれるなら」
姉ちゃんは、再びビールを一口。それにつられ、俺もアルピスを一口。
「実はねぇ、霊魔に襲われたんだよ。一年の夏休み前に。影みたいなやつに襲われてさ、首を絞められた」
「マジで!? そんなこと言わなかったじゃん!」
「別に言わなくても、良いかと思ってたから」
「それで、紫雲さんのお兄さんに助けて貰ったと?」
「そうなんだよ。しかも、シャーペン一本でだよ!? 影の正体が、霊魔だとも教えてくれた」
姉ちゃんは霊魔が見えない。世間一般の、普通の人なのだ。
しかし、同じ親から生まれた俺は、特異体質なのか、霊魔が見えてしまう。
「俺さ、紫雲さんと同じ、術師になろうと思うんだ」
言ってしまった。後戻りは出来ない。
姉ちゃんは相変わらず、ビール片手に、今度は唐揚げをパクッ。
「いつか言うと思ってた。霊感がある人ですら、霊魔が見える人は少ないし」
「うん」
「いつか朔が、晴斗君みたいな人に出会ってしまうことも。考えてた。術師は危険だよ? それを理解した上で、言ってる?」
「うん。それは、もちろん」
「絶対に、あたしより先に死なないでよ。これは、約束ね」
「それは、なんとも……」
「約束出来ないなら、術師は認めません!」
「や、約束します!」
姉ちゃんはビールをゴクリ。
何と言われるのか、怖くて下を向く。
「認める。だから、もう一本飲む!」
「やった! ありがとう、姉ちゃん! 俺の分のポテトと唐揚げ、あげるわ!」
これで、俺は術師になれる!




