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94話

「……マジで?」

 口をついて出たのは、そんな感想だった。

 目の前に現れたのは、所謂洋館って感じの建物だ。黒とか茶色とかを主としたシックかつ落ち着いた色合いで、見た感じでは二階建てっぽい。上下にいくつか窓が開いていて、ちらりとその奥が見える。両端に尖った屋根を持つ塔のような部分もあって、なんだか小さな城みたいだ。

 それに、そこそこの大きさの庭までついている。家を囲むように青々とした草が広がっていて、その一部は舗装され玄関へと繋がっていた。

 端的に纏めるとすれば。

 デカい豪邸が目の前にあった。そういうわけである。

「これ、本当に俺たちの家なのか?」

 なんか信じられないんだけど。

 だってさ、これ相当な家だぞ。俺には持て余すんじゃないかってくらいに。

 ライオットさんの言ったことを思い出して、一人で納得する。確かにこんだけでかけりゃ、全員分の部屋はあるだろうな……。

「俺たちの、というか、正確にはマスターの家だけどね」

 言いながら、リオもまじまじと眺めていた。

「けどまさか、こんなものを貰えるなんて……」

「本当、王様に感謝しなきゃいけないわね」

「そうだな」

 この土地までまるごと貰ったわけだからな。

 いや本当に? これやっぱり詐欺だったりしない?

 俺が豪邸を眺めながら、内心で全てを疑っていると。いつの間にか隣にいた白百合が、俺の手を引いて言う。

「マスター、行こ」

 白百合は感情がストレートに出るタイプじゃ無いけど、それでも分かる。

 どうやら、彼女的にもかなり楽しみらしい。目が輝いているような気すらした。

「ああ、そうだな……ずっとここに居るわけにもいかないし」

 せっかく家があるというのに、その目の前で突っ立っているってのもおかしな話だ。

「わたくしも、早く見たいですわ」

『僕も僕も!』

 それじゃあ行こうかと思った矢先、フィオネさんが後ろから声をかけてくる。

「じゃ、とりあえずみんなだけで楽しんで」

 振り返れば、彼女は馬車の御者席に乗って手綱を握っていた。

「あれ、フィオネさんは来ないんですか?」

「馬車を放置するわけにもいかないからね」

 確かに。家を見ている間、この高そうな馬車を放置しておくってのは流石に無いな。

「馬車を預けてから徒歩でこっちに戻ってくるよ。軽く説明があるからさ」

「分かりました。ありがとうございます」

 俺が言うと、フィオネさんはにこりと笑みを浮かべた。

「うん。それじゃ、また後でね」

 彼女が手綱を引けば、馬は元気よく足を上げ走り出す。

 ガラガラと馬車が去っていくのを見送ってから、俺は再度家に向き直った。

「よし。それじゃ、行くか」

「……マスター、なんか緊張してない?」

 リオが隣から顔を覗き込んでくる。彼女の綺麗な瞳がじいっと俺を見つめてきて、なんだか居心地が悪い。

 いや、ていうか。

「そりゃ緊張するだろ。だって家だぞ、家。俺家なんか持ったことないし」

 家家連呼しすぎてなんかあれなんだけど。ともあれ、素直に思っていることである。

 俺はまだ年齢的には高校生だし、一軒家、ましてはこんな豪邸を持てるほど人間的に出来上がっていないのだ。

 いや、そりゃ当然嬉しいし、ライオットさんから受け取った時はなんとなく覚悟を決めたつもりだったけど。

 やっぱこう、目の前にすると。言いようのない緊張が。

「マスター、大丈夫。もし何かあっても、私が守るから」

 俺の手をぎゅっと掴んで、白百合は自信有りげにそんなことを言ってくる。

 と、何故か黒百合まで、空いていた俺の左手を握ってきて。

「わたくしが壊して差し上げてもよろしいんですのよ?」

「いや、それはまずいけどさ」

 黒百合なら本気でぶっ壊せそうなのもまずいし。何よりこの豪邸を壊しちゃったら多分とんでもないことになるだろうから。

「ほら、ビビってないで行くわよ」

「ちょ、分かった、分かったって」

 ぐいぐいとリオに背中を押されて歩き出した俺は、石畳で舗装された道をみんなと歩いていく。

 扉の前まで来ると、余計にこの家のサイズを実感させられた。日本にいた時に暮らしていた家と比べると、威圧感が違いすぎる。

「……よし」

 上の方にガラス細工が施されていている、焦げ茶の扉が2つ。金色のノブと相まって高級感が半端じゃない。

 とはいえ。散々言っている通り、ここで立ち止まっているわけにもいかないということで。

 黒百合と白百合、二人の手を解くと両方の扉に手をかける。

「開けるぞ」

「ええ」

「……失礼します」

 言ってから、ドアを押す。

 静かに開ききった扉から中に入ると、俺は思わず言葉を失ってしまった。

「おお……!」

 まず感じたのは、奥行きの広さだ。大きくゆとりを持った空間が広々と広がっていて、まさに金持ちの家って感じがする。

 上を見れば、高い天井に豪華なシャンデリアが吊り下がっていて、それが部屋全体を明るく照らしていた。

 俺たちが立つ玄関も、俺が住んでいたところとはだいぶ大きさが違う。もし片付けるのがめんどくさくて靴を放置したとしても、玄関が埋まることは一向に無いだろう。

 さらに、こっから見えるだけでもヤバイ点が一つ。目の前にリビングと思われる空間があるのだが、そこに階段が二つあるのだ。多分二階に上がるようだと思うんだけど。

 階段、二個もいるか? 偏見だが、すごい家って階段もすごい気がする。

「これはやばそうだな」

「流石に、すごいわね」

 思わず、呟く。

 はやる気持ちを抑えて、まず俺は背負っていた入れ物を降ろす。蓋を開けてノトを出してやると、彼女は嬉しそうに声を上げた。

「よおし! 探検するぞ!」

 ゲームじゃないんだから。

 なんて思いながらみんなで靴を脱ぎ、扉のすぐ近くにあった収納に靴を入れ、ついでにそこに入れ物も置いておいて、俺たちは家に上がった。

 まずは目の前のリビングのような場所に向かってみる。

 近づいてみると、暖炉があることに気がついた。壁に接地されているそれはまだ火がついていないものの、冬場なんかは大活躍してくれることだろう。その前には机があって、さらに机を囲むよう暖炉側を除く三方向にソファが置かれている。

 そして、それを挟むように両脇に階段。しかもただ真っ直ぐ上に登るタイプじゃなくて、コの字っぽくなってるやつだ。

「見た感じじゃリビングっぽいけど」

「多分そうじゃないかしら?」

「すごいね、ふかふかだよ」

 ノトが早速ソファに腰掛けて、そんな感想を話す。

 そう言われると俄然気になってきた。俺も座ってみよう。

「おお、これは確かに……」

 はしゃいでいるノトの隣に座ってみると、確かにと納得できた。柔らかなクッションが俺の体を包み込んでくれてるようだ。

 みんなも座って、口々に感想を述べる。

「ベッドも期待できそう」

 白百合が呟いて、内心で確かになあと思う。だいぶ期待大だ。

「あとで暖炉の火の付け方を習わないとな」

 よく見ると中に木はくべられているんだけど。やり方を知らないから試しにつけるってのができないのが残念だ。

 きっと温かいんだろうなあと思いながら俺が言うと、リオが何故か自信有りげに口角を上げた。

「マスター、忘れてない? 私、魔法が使えるのよ」

「……あ、そういえば」

 彼女は右手を前に出すと、呟くように何かを唱えた。赤いツインテールがふわりと揺れて、突き出された手に小さく魔法陣が浮かぶ。

 直後、暖炉からパチパチと音が鳴った。木々の隙間から立ち上がってきた炎は、すぐに勢いを増してくる。

「どう?」

「すごいよ。これあれば大丈夫っぽいな」

「ふふ、当然ね」

 リオ様々だな。冬場になったら何回も魔法を使ってもらうことになるだろう。

 彼女がもう一度唱えると、炎はすぐに消えていった。便利なオンオフ機能付きである。

「ねえねえ、マサヒト」

 ノトにぽんぽんと肩を叩かれて、彼女は向こうの方を指差す。

「次、あっちに行ってみない?」

 リビングからは左右に廊下が伸びていて、ノトが指しているのは右の方だった。

 左右になんの部屋があるのか気になってはいたが、ノトも同じだったらしい。

「ああ、いいぞ」

 順々に全部回っていくわけだし、順番は誰かに任せようかな。

 俺たちは立ち上がると、ノトを先頭にして歩を進めた。

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