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84話

 少し経って。

 ノトと精剣達は楽しく会話をしているわけだが、この状況をそのままにしておくわけにもいかない。なにせ、今回は新顔が二人もいるのだ。

 まあそうは言っても、片方は昔からの仲間だから新顔というのは間違いなような気もするが。いや、というか状況的に言えばどっちも昔から仲間だったわけだから結局新顔って表現が間違いなんじゃ……。

 なんてめんどくさい考えを振り払って、俺は黒百合へと声をかける。

「話は一段落したし、次は黒百合さんと挨拶をしたいんだけど、良いかな」

 俺が聞くと、精剣達はそういえば、みたいな表情を浮かべる。

「そうよね、そうだったわ」

「忘れてた」

「あ、僕も僕も!」

 みんな、俺の周りに再度集合する。

 と。

 一瞬、視界の外が光った。

「うおっ」

 光の発生源は俺の右手から。要するに、持っていた黒百合から発せられたものだ。

 反射的に瞑った目を開くと、俺の右隣に見慣れぬ人が立っていた。

「あの、ちょっと待ってくださる?」

 何やら言いたげな彼女を、俺はまじまじと見てしまう。なにせ、その格好がかなり個性的だったのだ。

 ゴスロリ、と言えば分かりやすいだろうか。黒と白の単色のみで構成された色合いに、袖口や首元、胸元やスカートなど至る所で揺れるフリル。艶のある長い黒髪が腰ほどまで伸びていて、服装とよく合っている。

 小さい体躯とその端正な顔立ちとも相まって、まるで西洋の人形みたいだ。

「えっと……?」

 見下ろすようにして彼女と目を合わせ俺が聞くと、黒百合はどうも苦々しいような表情を浮かべた。黒の瞳の中に沈む刺すような赤が、俺をじっと見つめる。

「出づらいですわ」

「え?」

「ですから、出づらいですわ。ノトさんのインパクトが強すぎて、なんだかわたくしとの再開の感動が薄れているように感じるのですけど!」

「いやそれは……」

 それはそうかも。

 否定できずに俺は口ごもる。

「っていうか、リオさんなんかそうだったわ~とか言ってましたし。白百合なんか忘れてたって言ってましたし!」

「ごめんごめん」

「悪意は無かった」

 擬音で言うとぷんすかとかその辺りだろうな、みたいな雰囲気で黒百合は二人を詰める。言われたリオは笑いながら謝ると、アサツキさんがそれを諌めた。

「まあまあ。今はそんな事良いでしょ。とにかく久しぶり、黒百合」

「……こほん。ええ、お久しぶりです。アサツキさん」

 わかりやすく調子を整えて、黒百合は言った。

 なんか、面白い人だなこの人。この人? 違うか。

 なんか、面白い精剣だなこの精剣。この精剣って表現おかしくない? この精霊とかの方がいい?

「白百合も、リオさんも。それに……マスター様とノト様も。お二人は初めましてですね」

 黒百合は俺とノトに順番に目線を合わせる。そのまままぺこりと、お腹に手を当てた綺麗な所作で頭を下げた。

「これからよろしくお願い致します」

「ああ、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくね!」

 俺たちの一行に二人も新メンバーが加入してしまった。アイドルとかなら大ニュースもんである。

 これで、精剣は計五人。始めは白百合だけだったのに、いつの間にやら大所帯になっちゃったな。

 そんな事を考えていると、フィオネさんが場を仕切り直す。

「さて、積もる話はあるだろうけど――」

 彼女は森の方を指さして。

「とりあえず、帰ってからにしない?」

「それもそうですね」

 確かにその通りだな。借りにも魔王と戦った場所だ、なんとなくこの場に居たくないし。

 その言葉に頷いた俺たちは来た道を引き返し、馬車で王都へと戻った。







 扉が開いて、俺たちは王城の客室へと通される。これももう何度目だろうか、始めは緊張したものの今はそうでもなくなってしまった。

 俺たちは横並びにソファへと腰掛ける。フィオネさんは向かいに腰を落ち着けると、一つ息を吐いてようやく落ち着けたといった様子。

 こっち側は、六人も座ればいくら大きいといえどスペースが無くなってしまって、座れずに白百合が一人溢れてしまった。どうしようかと迷っていると。

「マスター」

 そう言って、白百合はとんとんと俺の膝を叩く。要するにそういうことだろう。

「ああ、いいぞ」

 すとんと俺の膝の上に座って、問題は無事解決。

 ふと、何やら視線を感じて横を見ると、こちらをじいっと見つめる黒百合と目が合った。

「あら、白百合は随分懐いているみたいですのね」

「ああ、ありがたいことに」

 俺が言うと、膝の上で白百合は俺を見上げる。彼女の綺麗な目に見つめられれば、そう悪い気はしない。

「マスターはいい人」

 間近でそうはっきりと言われてしまうと、流石にちょっと照れるな。いや、さっきも言った通り、信用してくれてるのはありがたいんですけれども。

 そんなこんなしていると、ライオットさんが部屋に入ってきた。ガチャリと扉が開く音がして、視線がそこに集まる。

「すまない、仕事が重なっていてな。遅れてしまった」

 毎度恒例だな、こうやってライオットさんが遅れて入ってくるの。

 彼は向かいのソファにフィオネさんと隣り合って座ると、そのまますぐ頭を下げた。

「まずは、ありがとう。よくやってくれた」

「いえ、やるべきことをやっただけなので」

 俺が言うと、ライオットさんは顔を上げる。

「まずは、何があったのか聞いてもいいだろうか。でないと……きっと、新しく増えたお二人のことも分からないだろうから」

 新しく増えた――というと、やはりノトと黒百合のことだろう。

 彼女たちの説明をするには、一番最初から流れに沿って説明するのが楽そうだ。

「そう、ですね。了解です」

 まず、森に行って魔王と出会ったところから、順々に起こったことを話していく。

 その過程で、ノトが現れ、黒百合を取り返し。二人の説明と、ライオットさんとの挨拶まで軽く済ませたところで、彼は深く息を吐いた。

「やはり。魔力の異常発生は、魔王によるものだったのだな」

「そうみたいですね」

「原因は分かってるのか?」

 ライオットさんから聞かれて、そういえばと思い至る。

 魔王を見つけることが出来たのは、ある意味魔力の異常発生が起こってくれたからだ。では果たして、それは何が原因で起こっていたのだろうか?

 俺が思うのと同時に、黒百合が口を開いた。

「恐らくですが、わたくしが抵抗をしていたからだと」

「抵抗?」

 そういえば。

 戦いの最中、魔王が言っていた気がする。こいつが原因だ、とか、黒百合が暴れたせいでこんなことに、とか。

「わたくし、これでも精剣ですので、魔王に使われるのはどうしても嫌でしたの。ですから、こちらから魔王に向けて少々負担をかけていたのです。それを嫌がって、魔王がわたくしを手放してくれないだろうかと思ったのですが……」

「だが、今回の戦いには君が居たと聞く」

「ええ」

 黒百合が頷くと、艶のある黒髪がさらりと揺れる。

「魔王はわたくしに向けて強力な魔法を使用し、それごと抑え込もうとしたのです」

「なるほどねえ。今回の魔力の異常発生の原因は、黒百合ちゃんの抵抗を抑え込もうとして使った魔法によるものだったってことか」

「ええ」

 フィオネさんの言葉に、黒百合はまたも頷いて返した。

 そういうことだったのか、と俺は内心で呟く。魔王の発言にも、その裏側を知れば自然と納得できた。

「ありがとう。君が抗ってくれたおかげで、私達は魔王を見つけることが出来た」

「いえ、お礼は結構ですわ。むしろわたくしが言わないといけない立場ですので」

「そう言ってくれるとありがたいよ」

 さて、こうして一つの謎が解けたわけだが。

 まだ気にすべき事は他にもある。まさに、本題と言ってもいいくらいのものが。

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