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転生特典で貰った精剣に滅茶苦茶可愛い精霊が付いて来て最高って話  作者: 西条汰樹
3章 第三の精剣、或いは迅雷に靡く黒髪
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43話

 ベッドに腰掛けて、俺はため息をつく。

 フィオネさんと話をし終えて、俺たちは宿に戻っていた。明日の朝、ギルドに集合と別れ際に伝えられたので、それに合わせて早く起きなければ。

 色々あって精神的に疲れ切ってしまっていたので、身体が自然とベッドへと吸い寄せられてしまって。

「……よっ」

 そのまま、俺は大きく手を広げ、後ろへ倒れ込んだ。

 ぼふり、と柔らかな音が鳴る。冷えた掛け布団の感触が心地良い。

「はあ……」

「お疲れ様、マスター」

 その様子を見ていたのか、白百合が俺の隣まで来て労いの言葉をかけてくれる。

 そのままひょいとベッドの上に乗って、白百合はベッドの上で女の子座りの形になった。

「白百合もお疲れ様。……というか、全員お疲れ様だよな」

「ほんとにね。お互い、お疲れ様」

 リオはもう一つのベッドに腰掛けると、俯いて息を吐く。

 その様子から、彼女も疲れているのだとよく伝わってきた。

「色々ありすぎたわね」

 アサツキさんはリオの隣へと腰掛けると、彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でる。

 リオはアサツキさんの顔をちらりと見やると、頭上にある手を掴んで。

「あのね、私、これでももうそこそこ成長してるのよ」

「あら。でも、私からすれば、みんな可愛い妹みたいなものだから」

 子供扱いするなと言いたげな彼女の表情に、アサツキさんは笑みをこぼす。

 だがどことなく、余裕そうなアサツキさんにもどこか影があるような気がした。

「…………」

 そりゃ、そうか。

 だって、あんなことがあったんだから。

 倒したはずの魔王が生きていて。原因もわからぬまま、戦って。

 ギリギリ助かったかと思えば、次は今後のことまで考えなければならない状況になってしまって。

 俺も、現実味がなかった。

「本当に、魔王なんだよな」

 なんとなく現実を受け入れられていないような気がして。

 思わず口の端から漏れてしまったその言葉に、白百合はこくりと頷くと。

「うん」

 短く、簡潔にそう言った。

「まあ、そうだよなあ……」

 だからこそ、さっきまで真剣にフィオネさんと話をしていたのだ。

「王都に行って、王様に会うんだっけか」

「ええ。ギルドマスターが言うにはね」

 なんか現実味がないというか、実感が湧いてこないな。

 俺は見ての通り純粋な日本人であるわけなので、どうしても王都だとか、王様だとか、そういうものが遠くの世界のファンタジー的なものに思えて仕方ない。

 それでも明日はやってくるし、俺は王様に会うことになるんだろう。

「……身だしなみ、これでいいのかな」

 王様レベルの偉い人に会ったことなんて、このそこそこ長い人生の上でも一回たりとも経験したことがない。

 知っているマナーといえば、漫画かアニメかその他なにかの媒体でよく見る、地面に足を付き片膝を立てて話をするあれしか知らない。それが本当に礼儀作法として正しいのかすらわからない状況な俺にとっては、服装なんか以ての外だ。

「ダメだったら、ギルドマスターがどうにかしてくれるんじゃないしら」

「まあ、そりゃそうか」

 尤もな意見だった。

 納得した俺だったが、ふと、別の部分に疑問が湧いてくる。

「そういえばさ、黒百合? って精剣のことだけど」

「ええ」

「その精剣って、あのまんまにしてるわけにはいかないよな」

 あのまんま、とは要するに、魔王の手に渡ったままということだ。

 あいつが精剣を持っているというのは、俺みたいなのでもおかしいことだと分かる。

「そうね」

 リオは頷くと、少し思案した後に口を開いた。

「魔王の攻撃が、白百合の防御を破ったのは覚えてるでしょ?」

「ああ、覚えてるよ」

 正直、かなり衝撃的だったからな。

 今まで絶対だった白百合の防御が破られた。そして、死にかけた。忘れるわけがない。

「以前魔王と戦ったときは、ギリギリだったけど白百合の防御が完全に破られることはなかったわ」

「え、そうなのか?」

「ええ。つまり、白百合の防御が破られてしまったのは、黒百合の力が合わさったことによるものだと思ってるわ」

「……そういや、魔王と戦ってた時、黒百合のことを超攻撃的な精剣だって言ってたよな」

「覚えてたのね」

 リオは頷くと、話を続ける。

「その通りよ。黒百合の攻撃は圧倒的なものだから、白百合の防御ですら破ってしまうの」

「あれは魔王の力じゃ無かったってことか」

「まあ、ゼロとは言えないけど。魔王は主に魔法で戦ってたから、大半は黒百合の力じゃないかしら」

 なるほどな。

 なんとなく話が掴めてきた。

「魔王が黒百合を持っている状態だと、まともに戦っても勝ち目はないわ。だからまずは、黒百合をどうにかして奪いたいってのが私の意見ね」

「私も、そう思う」

 ずっと黙って話を聞いていた白百合が、口を開いた。

 彼女の目は俺を見つめている。明らかに申し訳無さそうな表情で。

「魔王の魔法なら大丈夫だけど、黒百合の攻撃だけは守りきれないと思う。きちんと戦うなら、黒百合を奪うのが先決」

「そっか。分かった」

 とはいえ、はっきりとした結論が出るわけでもない。

 現状俺にできることは、明日の朝にちゃんと起きることくらいだ。

 ふと、アサツキさんに目を向ける。

「…………」

 彼女は俯いていて、どこか影があるような気がした。

「……アサツキさん?」

 俺が言うと、はっと顔を上げて。

「ごめんなさい、疲れてるみたいで」

「ま、そりゃそうよね。とりあえず今日はもう寝て、明日に備えましょ」

 リオはそう言うと、ベッドから立ち上がって部屋の電気を消す。

 ……なんか、アサツキさんの様子がおかしいような気がしたけど。まあ、今日は色々あったことだし、疲れていたのだろう。

「おやすみ、みんな」

 布団に入りながら俺が言うと、みんなもいそいそと入り込みながら。

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみなさい、マスター」

 と、白百合はなぜだか俺のベッドから動こうとしなかった。

 女の子座りのまま、俯いている。暗くて表情が読めないから、俺は声をかけた。

「白百合?」

 ベッドの都合上、二つあるもののどちらも大きさは変わらないので、別にこっちで寝てもらっても構わないのだけど。

 今まで隣のベッドでみんな仲良く寝ていたもんだから、珍しいな、と。

 俺が呼ぶと、白百合はちょこちょこと俺の方に寄ってきて。

 そのまま、俺の隣へごそごそと入ってきた。

「……白百合? どうした?」

「マスター、ごめんなさい」

 彼女は俺の服をぎゅっと掴むと、胸に頭を寄せてくる。

「ちょ、どうした……!?」

「……守れなかった、から」

 あ、なるほど。

 どうやら彼女は、魔王と戦っている時に自身が守りきれなかったことを悔いているらしい。

「いや、大丈夫だよ。仕方ないって」

 なんだか弱っている彼女の頭を、思わず撫でてしまう。

 さらさらと透き通る髪の手触りを感じながら、慰めるように撫でる。

「……マスターが、居なくなっちゃうかと思った」

「まあ、確かに死にかけたけど。全然ピンピンしてるしさ、大丈夫だって」

 めちゃくちゃ落ち込んでるな、白百合。

 どう慰めて良いのかも分からず、ただ、白百合の頭を撫でる。

「また、頼むよ。俺には白百合が必要だからさ」

「うん」

「よし。なら、とりあえず今日は寝ようぜ。白百合も、疲れてるだろうし」

 白百合がこくりと頷いたのを確認して、俺はバレないように緊張で強張っていた身体から力を抜いていく。

 …………なんか、大変な一日だったな。

 胸の中で眠りにつこうとしている白百合の頭を撫でながら、俺も目を瞑った。

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