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転生特典で貰った精剣に滅茶苦茶可愛い精霊が付いて来て最高って話  作者: 西条汰樹
2章 第二の精剣、或いは火炎のツインテール
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9話

 肩で息をする。

 荒れた息を整えながら、地面に残された牙を拾い上げた。

 硬く、鋭い白い牙は、白百合で弾かれたことによる傷がいくつもついている。ズボンのポケットにそれをしまってから、俺は白百合の柄から手を離した。一瞬光が走って、白百合は少女の姿に戻り、俺を見上げて口を開く。

「マスター、大丈夫?」

「ああ、大丈夫……」

 未だに荒い息を必死に押さえつけながら答えた。白百合のおかげで傷一つないが、俺の体力はガッツリと消費され尽きかけている。

 なんというか、情けないというか。こんなことになるなら、前世からしっかりと体力づくりでもしておけばよかった……。

 しばらく、俺は膝に手をついて休憩をとる。

「凄いな、白百合。……マジで無敵だ」

 言えば、白百合は少し照れたように俯いた。

「でも、私だけじゃ倒すことはできなかった。マスターが頑張ってくれた、おかげ」

「はは……そう言ってもらえると嬉しいよ……」

 自分より遥かに背丈が小さく、見た目も幼い女の子に励まされてしまう。恐らく周りから見たら相当情けない姿なのだろうなと思いつつも、いい加減休憩は終わりにしないと、と背筋を伸ばした。

 とりあえず、フェンリルを倒すことには成功した。拾った牙をギルドへと届ければ、クエストは完了だろう。

「……よし。とりあえず、終わったことだし帰るか」

「うん。マスター」

 俺が言えば、白百合は頷いて俺の手を取る。

 その手を引きながら、俺達は森から引き返した。











 ギルドハウスまで戻り受付に歩くと、金髪のお姉さんが顔を上げた。

「あ、さっきの冒険者さん」

 どうやら覚えていてくれたらしい。まあ、クエストを受けた時からそこまで時間もたってないしな。

 ぺこりと会釈をしてから、ポケットからフェンリルの牙を出す。

「クエスト終わったので、報告に来ました」

「かしこまりました。お預かりしますね」

 お姉さんは牙を受け取ると、じいっと牙を見つめ始めた。よく見れば、彼女の瞳には薄く、魔法陣のようなものが浮かび上がっているように見えた。

 多分、魔法なんだろうけど。どういう魔法なんだろうか。この牙が本当にフェンリルの牙なのかが分かるとか、そういう系統の便利魔法なのかな。

 ……どうでもいいことだが。こういう検査? を受けてるときって、何も悪いことをしていなくてもなんかドキドキしてしまう。なんでなんだろうな。ただ小心者でビビってるだけなんだろうか。

 しばらくして、彼女は「うん」と小さく呟き頷いた。

「本物みたいですね。では、これでクエストは完了になります。こちらが報酬になります」

 なんだかちょっとほっとしつつ、差し出された金貨二枚を受け取る。これで20000Gか……なんか、かなり割のいい仕事だなこれ。

 そう思いつつも、命がかかっている仕事なんだし当然か。白百合が居なければ俺も死んでいたのかもしれないし。そう考えれば、妥当な金額である……どころかちょっと安い気もしないでもない。

 そんな、どうでもいいことを考えていると。

「この調子なら、すぐにDランクに上がれそうですね」

 お姉さんがそんなことを言ってくる。

 冒険者ランクのことだろう。現状、俺はランクがEだったはずだ。

 気になって、俺は口を開く。

「冒険者ランクって、クエストをしていけば上がるんですよね……?」

「そうですね」

 お姉さんは頷いて、話を続ける。

「前に説明させていただいた通り、クエストをこなしていくとランクが上がります」

「それって、何個クエストを受けたら上がるとか、そういう条件ってあるんですか?」

 聞けば、お姉さんは首を縦に振った。

「条件、と言いますか、ギルド側がこの人は冒険者ランクを上げても大丈夫かな、って実績を確認した際に、冒険者ランクを昇格させるための昇格クエストを発行するんです」

 聞いたことのない単語に、俺は首を傾げる。

「昇格クエスト、ですか?」

「はい。こちらで指定した魔物を倒していただくクエストです。難易度はそのランクで受けられる中でも一番高くなります」

 要するに。

 ゲームとかでよく見るやつってことか。

「それをクリアすると、冒険者ランクが上がると」

「その通りです」

 お姉さんはにこりと微笑んでそう返す。

 冒険者ランク、か。これが上昇するとクエストの報酬とかが上がるって話を、冒険者になるときにお姉さんから聞いたな。

 こういうのは上げといて損はないだろ。もらえるお金が増えるというものが悪いことであるはずがない。お金は宝である。

 と。

 お姉さんがカウンターの下の方から何やら分厚い本を取り出して、開いた。パラパラとそれをめくりながら、お姉さんは悩んでいるように声を漏らす。

「えーっと……そうですね……」

 本の表紙には、異世界の言語で”冒険者の実績と冒険者ランクの折り合いの付け方大全”と書いてある。

 ……なんか、辞書とか参考書みたいな、そういうもんだろうか。

「冒険者さんって、確か、この前のクエストもクリアしていましたよね?」

 この前のクエスト。ということは、スライムのやつか。

 クエストを受けるときの受付はこのお姉さんだったけど、報告はギルドマスターだった。

「あ、はい。ギルドマスターの方に受付をしてもらったんですけど」

「ありがとうございます。さっきちらっと見えたんですけど、間違いは無いみたいですね……そうなると、ええと」

 また、いくつかページをめくって、じいっとページを見つめる。

 緑色の透き通った瞳が揺れていた。

「そうですね、この感じだと、昇格クエストを発行しても大丈夫かもです」

「え、マジですか?」

 昇格するにはまだ早くない? 俺が冒険者になったの昨日だよ?

 そんなことを内心で思いつつも、報酬が上がるのだからと嬉しい自分もいる。

「倒しているのがスライムとフェンリルなら、支障はないはずです。特にフェンリルは強めの魔物ですから」

「なるほど……」

 強めの魔物を倒せば、評価も上がりやすくなるみたいだ。まあそりゃそうか。

「というわけで、昇格クエストは発行できますけど、どうされますか?」

 言われて、少し考える。

 昇格クエストで倒さなければいけないモンスターは、そのランクで受けられるクエストの中での最難関。ということは、フェンリルよりも強いのは間違いないだろう。

 …………うーん。考えててもしょうがないか。白百合の防御があれば怪我を負うことは無いだろうし、やってみるだけやってみよう。

「じゃあ、できるのなら、お願いします。やれるだけやってみたいので」

 俺がそう言えば、お姉さんはにこりと微笑んで。

「分かりました。ちょっと待ってくださいね……」

 そう言って、お姉さんはまた、カウンターの下をごそごそと漁りだした。

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