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09. 方針

月日は流れ、1つのコアを回収したルカ達は、順調に転移に巻き込まれた冒険者達を保護して回った。


だが、ルカ達が冒険者達を探し、保護している間、王国軍は、地球の権力者達へと次々と接触を図って行った。


王国軍は、ダンジョン転移の被害にあった冒険者達を無視し、この世界の主要機関へとダンジョンの有用性と魔道具の知識や技術を売り込み、この世界の中枢へと取り入り、間接的に世界の権力を手中に収め、牛耳った。


文明が滅びた地球へと、魔石を利用した発電システムや動力機関の利用方法を始め、各種技術において魔石の有用性を広げると共に魔石の回収を急がせた。


王国軍は、各国を競わせる様に、多くの国に従事している軍を使い捨てるかの様にダンジョンへと送り込ませ、スキルを持たない軍隊は全滅し、各国の軍は壊滅的な被害を出した。


こうして王国軍は地球の戦力を削っていき、王国軍へと依存する様な形を作りあげた。


しかし、軍隊の中にも原初のピュアとしてスキルを発現している者達がおり、その事を知った王国軍は、スキルを持った地球の人々を、いい様に使い潰すかの様に次々と数多くあるダンジョンの最前線へと送り出した。


ダンジョンに関しての権力を持った王国軍は、まるで誰かを探すかの様にダンジョンへと潜る者達を徹底的に管理し、この世界にいるスキルが使える者達を監視する為に、ギルドと言う組織を作った。


王国軍は、ダンジョンへと潜る者達の事を冒険者とは呼ばず、魔石を取ってくるだけの存在と言う事でダイバーと呼称した。


それが、今後も続いていくギルドと言う組織であり、ダンジョンへと潜る者達を管理するダイバー制度の発足だった。


こうして、王国軍は、荒廃したこの世界へと異世界の技術の提供と共に、多くの地球人の犠牲と共にこの世界をミディアと同じ環境へと作り変えていき、地球での地位を確固たるものとして築き上げ、全世界の権力の中枢へと入り込んで権力を手中へと収めた。




「王国軍が攻めて来たぞっ!」


「クソっ!此処はもうダメだ!拠点を移すぞ!」


ルカ達は、冒険者を中心とした王国の横暴や犠牲にあった者達を集めて反ギルド組織を作り、王国軍へと反撃を繰り返しながら鍵と1つのコアを死守する為に逃げ延びていた。


流石に勇者パーティーと言ったところか、攻めてくるギルドの軍勢を蹴散らしており、衝突する度に王国軍の兵の数も減らせてはいるものの、どうしてもギルドを、王国軍を指揮している黒幕へと辿り着く事が出来なかった。


「クソっ!指揮官はまたフェイクだ!捕えた途端に自害しやがった!」


「ルカぁ!こちらからも向こうへと攻めるべきだよぉ!これじゃキリがないってぇ!」


「それはできない!我々の目的は鍵とコアを死守し、1人でも多くの冒険者達を元の世界へと帰す事だ!アイツらと死力を尽くして戦う事じゃない!鍵の魔力が溜まるまで逃げ延びて耐えるんだ!」


ルカ達は、1人でも多くの者が生き残る為に、最小限に留めた戦闘を繰り返しながら王国軍から逃げ回った。


だが、魔素が薄い地球では、鍵の魔力が溜まる速度は遅く、多くの魔石を利用しても一向に魔力が溜まっていく気配が無く、1人、また1人と王国軍の手にかかった冒険者達が倒れていき、犠牲者を出しながら時間が過ぎていくばかりであった。


「ルカ。また冒険者が殺られた。魔力が溜まらない鍵の利用を諦めて、ギルドへと攻め込もう!」


「ダメだ!それで冒険者達が全滅したら、本末転倒だ!それに、アイツらは4つの門を所持しているんだぞ!」


「そんじゃ、さっさと門を開いてミディアへと逃げようぜ!魔石をちまちまと利用するんじゃなくて、鍵に人間から魔力を補充する事はできないのかよ?」


「ヤリク。そんな事は私が既に毎日の様にやっている。これを使用可能な迄に魔力を補充する為には、多くの人達の魔力が必要となる。私にアイツらと同じ事をしろと言うのか?今、魔素が薄くても鍵を利用できる様に、新たな術式を考えている。すまないが、もう少し辛抱してくれ・・・頼む・・・」


ルカはあまり寝ていないのか、目の下には隈が濃く現れており、ひどく疲れた様な顔をしていた。


「・・・分かった。だが、オマエもしっかりと睡眠を取るんだ。オマエがいくら不老の身体とは言え、オマエが倒れたら誰がこの組織を纏めるんだ?もし、オマエが倒れでもしたら、皆は確実にギルドと戦う事を選ぶぞ。オマエだけが皆を救える鍵なんだ」


「・・・あぁ。分かった。心配をかけてすまない・・・」




更に数年の月日が流れ、ルカは少ない魔素でも鍵を発動できる術式の開発に成功した。


「皆んな。遂に鍵が使える様になった!コレでミディアへと帰れるぞ!」


だが、皆からの反応は薄く喜ぶ者は殆ど居なかった。


長い月日が流れた結果、多くの者達が地球で家庭や親しい者を作り、ミディアへの帰郷を望む者がいなくなってしまっていた。


その代わりに、ギルドからの度重なる襲撃によって親しい者達を失った憎しみが強くなり、組織の目的はミディアへと帰ると言う事から、奪われた多くの命の為に、ギルドを潰すと言う事へと変わってしまっていた。


「賢者様。悪いが、俺達はミディアへは帰らねぇ。ギルドのヤツらに殺されていった者達の仇を取る。このままミディアへと帰ってしまえば、殺られたヤツらが浮かばれねぇ。それに、ここに家族や仲間ができた。俺達はここでギルドと戦う」


冒険者を代表する男が、ルカへとミディアへは帰らないと伝えた。


「そんなのはダメだ!憎しみの連鎖に囚われるな!家族や仲間がいるのなら、皆んなでミディアへと行けばいい!そんな憎しみの連鎖は断ち切るのだ!」


「賢者様。ミディアへ帰った処であっちにも王国軍はいる。数は此処とは比べ物にはならないだろう。俺達がミディアへと帰ったとしても、王国のヤツらがした事を許す気にはならない。向こうでも同じ事をするのは確実だ。だったら、まだ救いの目処があるこの世界だけでも救ってやりたい」


男の発言に対し、周りの者達も声をあげて男の考えに同調していた。


月日が経ったせいで、組織の者達は、逃れる事のできない憎しみや悲しみの連鎖に囚われてしまっていた。


「クっ・・・」


しかも、この頃から多くの地球人のギルドによる被害者達も組織へと加入し、ギルドとの戦いは避けられないモノとなってしまっていた。


組織へと入って来た地球人の中には、王国軍によって地位と名誉を摂取されたり、家族を奪われた権力者達もおり、組織の者達は権力者達が持つコネを使ってダイバーとなり、その時を待つかの様にギルドの内部を探る為に敵組織へと潜り込んでいった。


「ルカ・・・すまない・・・俺をダンジョンの封印から解放したせいで鍵が使えなくなってしまい、こんな状況になるまで長引かせてしまった。全部、最初にヘマをした俺のせいだ・・・」


「フン。オマエがヘマをする事なんていつもの事だろ。コレは、この世界の魔素の事を計算していなかった私の落ち度だ。気にするな。こうなったら、私は鍵を守り抜くだけだ。だから、私はこの組織から少し距離を置こうと思う。後は勇者のオマエが此処をなんとかしーー」



パンっ!



ルカは言葉を言い切る事なくクレシアによって頬を叩かれた。


「ルカっ!そうやって1人で王国軍を引きつけるつもりでしょ!?ずぅっと前にもヤリクが言ったよね!私達は家族だって!助けが必要な時は助けを求めろって!何かあれば迷わず頼れって!私達にもルカが背負っているモノを一緒に背負う覚悟くらいあるわよ!だから、こうして異世界にもやって来たしっ!もし、ルカが王国軍の犠牲になったら、ルカが言う様に、私達まで復讐の連鎖に囚われて、私達は絶対に止まらなくなるよ!栄治やヤリクなんて、ギルドを潰した後にミディアへ行って王国を潰しに行くよ!絶対私も行くけど!っていうか、冒険者達の事は彼らが決めた事なんだからルカが最後まで責任を取る事なんてないよ!知らない世界でここまでやれているだけでも、ルカは皆んなを十分に助けたよ!コレから私達は、私達の戦いをしようよ!」


ルカはクレシアによって頬を叩かれ、疲労や重くのし掛かる責任や罪悪感によって今まで忘れていた言葉を思い出し、ボロボロと涙を流し始めた。


ルカは、今までの責任や罪悪感といった抱え込んでいたモノが辛く耐えきれなかったのか、まるで感情が決壊したかの様に大声をあげて泣き出した。


「あぁ〜あ。泣かしちまったな・・・」


ルカにはいつもの気丈な姿はなく、まるで子供の様に大声を上げて泣いており、ルカが子供の様に泣く姿を初めて見たクレシアは、ヤリクの言葉を聞いてビクビク、オロオロとしながらルカの頭を優しく摩りながら胸へと抱きしめた。


「そんじゃ、これからはクレシアが言う様に俺達は俺達の戦いをするぞ。って事で、取り敢えず、エージはこの組織の頭になれ」


「へ?俺?」


栄治はいきなりヤリクに組織の頭になれと言われ、腑抜けた表情で自身の顔へと指を差した。


「エージとクレシアで組織の者達を徹底的に鍛え、戦力アップを図れ。戦力がアップすれば、犠牲者も少なくなるだろう」


「分かったぁ〜」


「戦力を上げるのは分かったが、それと、俺が頭になるはなんでだ?」


「オマエは、ミディアもこの世界も知っている。今の組織にはミディアの人間もこの世界の人間も混ざっている状態だ。しかも、オマエはミディアで勇者としてルカと同じくらいに名が通っている。ミディアの奴らはオマエが鍛えるとなったら喜んでついていくだろう。そして、この世界の人達も、同じ世界の人間としてのオマエのイカれた力を見れば、より高みを目指すだろう。って事で頭はルカ以上にオマエが適任だ」


「・・・マジかよ・・・」


栄治が面倒臭そうに明後日の方向を見つめていると、泣いていたルカがクレシアの胸の中から顔をあげた。


「グスっ。エージ。スマンが私からも頼む。ヤリクが言う様に、この組織にはオマエが頭として適任だ。これからよろしく頼むぞ。マスター」


「ま、マスター!?」


「あぁ。オマエはこの組織のマスターだ。クックックックック」


「キシシシシ。よろしくねぇ。マスタぁー!」


栄治は皆んなにマスター呼ばわりされ、方をガックリと落として俯いた。


「それで、俺とルカは、ギルドの奴らへと偽の情報を拡散して行動を操作する。どんどん偽の情報をばら撒いたり、襲撃予告等を送りつけて、奴らを常に足止めするんだ。その間にエージとクレシアで組織の戦力を上げていき、組織を拡大していく。大分遅くなっちまったが、これからヤツらに反撃していくぞ」


「あぁ。分かった」


「倍返しね。倍返しぃ!」


「どうなっても知らねぇぞ?自重なしでガンガン鍛えまくってやるからな!」


ルカは何かが吹っ切れたのか、ヤリクの言うこれからの行動に対し、楽しそうな笑みを浮かべていた。


「それと、ルカ」


「ん?なんだ?」


「これからの為にやって欲しい事がある」


「ん?」


ルカはヤリクのやって欲しいと言う言葉に少し身構えた。


「鍵を使って拠点を作って欲しい。防衛や隠れる為のセキュリティはもちろん、これからの戦力の底上げの為には、訓練ができる広い場所が必要だ。それで、鍵を使って拠点を作ってくれ」


「やってもいいが、良いのか?鍵は少ない魔素でも使える様になったとは言え、それなりにまた魔素を貯めるのに時間がかかるぞ?」


「あぁ。構わない。冒険者達もギルドを潰すまではミディアへは帰らないだろうし、それに、鍵はあっても使えなければ、もし、鍵が奪われた場合もギルドに一泡吹かせられる」


「オマエ達も本当にそれで良いのか?」


「ヤリクがそう言うんだからそれでいいんじゃねぇの?」


「エージに同じくぅ」


ルカの確認に対して、栄治とクレシアはそれで良いと頷いた。


「・・・分かった。それで、場所はどうする?」


「そうだな・・・場所は・・・ダンジョンを改良するってのはどうだ?」


「はぁ?」


「あぁ?」


「え?」


ヤリクの拠点についての提案に対し、3人は呆気に取られた。


「オマエ、バカなのか?」


「無茶言うなよ!?ダンジョンは全てギルドによって管理されてるんだぞ!?」


「ヤリクぅ?変なモノ食べたのぉ?」


「・・・いや、至って真面目なんだが・・・ルカの鍵を使ってダンジョンを作る事ってできるか?」


「・・・階層の少ない小規模のダンジョンならできなくは無いと思うが、その為にはダンジョンコアの情報が必要になるな・・・」


「だったら、既にあるじゃねぇか?」


「あっ」


「「「「門!」」」」


ルカ達はヤリクのポーチへと視線を移した。


「そうだな。これをコピーすれば簡単にできそうだな・・・」


「え?それをそのまま使うんじゃねぇのか?」


「無理だ。これは、ダンジョンコアの情報を持っているだけの門だ。本当のダンジョンコアは、あのクサリで繋がれていた女性に移植されている。この門は、鎖で縛られている女性を介して精製されたものだ。だから、これを解析してコピーすれば、ダンジョンコアを作る事ができる筈だ」


「え?って事は、ダンジョンコアを使って門を増やせるって事なのか?」


栄治はルカの説明を聞いて思った事を口に出した。


「可能だな。しかし、門を作る為には、操作が可能な人間へとコアを埋め込まなければならないし、そのコアを埋め込まれる人間は、大量の魔力を保持した者でないとコアを操る事ができない。魔力がコアより少ない者は、逆にコアに支配されて、単なるダンジョンコアの栄養分にしかならないな」


「って事は、俺達4人は可能って事だよな?」


「可能かどうかで言ったら可能だが・・・そうか・・・アレはそう言う事だったのだな・・・」


「え?何?」


ルカは栄治の質問に対して何かを思ったのか眉間にシワを寄せて険しい表情となった。


「以前、オマエは王国によってダンジョンに封印されただろ?」


「・・・あぁ」


「あれは、予備の門を作る為にオマエをダンジョンへと封印していたのかもな・・・」


「マジかよ・・・」


「邪魔者のオマエを封印し、ついでに門の予備となる様にしていたのだろう。もし、オマエがあのまま餓死や老衰で死んだとしても、ダンジョンに封じ込められたオマエの身体は魔力の塊になる。何かあった際は、タイミングよくダンジョンの封印を解き、その干からびた身体を媒体として使って、予備の門を作ろうとしていたのだろう・・・クソっ!そう言う事か!?何故今まで気がつかなかったのだ・・・人をモノの様に扱うギルドの設立といい、いきなり発展したこの世界といい、予備の門の事といい、どうやらこの世界には上位の王宮魔導士が来ている様だな・・・こんな非人道的な事ができるのは私が知っている限りでは2人程いるが、一体どっちが来たんだ?」


ルカは栄治へと説明をしながら顎に手を当てて考え出した。

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