08. コア回収
なんとか、ゴーレムを倒したルカ達は、全員が眉間にシワを寄せて1箇所へと集まった。
「さっきのゴーレム、普通じゃなかったぞ・・・一体なんだったんだアレは?」
「だよねぇ。全員でスイッチとか、魔王を倒した時以来だよねぇ?」
「だな。もし、アレでも倒し切れていなかったら、今度はどんな個体になっていたか、マジで考えたくねぇわ」
「アレの情報を集める為に、兵の生き残りを探すぞ」
ルカ達は、ゴーレムの情報を集める為に、兵の生き残りを探し始めた。
多くの兵達が居た野営地は、ゴーレムによって潰されて悲惨な状態となっており、これでは生き残りはいないなと思われた矢先、外れの方にあったテントで動く気配があった。
「生き残りがいたぞ!」
「ヤリク!捕まえるんだ!」
「あぁ」
ヤリクはすぐさまテントへと向けて駆け出した。
一際大きいテントの中へと入ったヤリクは、大きな机の下に隠れていた、指揮官の様な格好をし、髭を生やして太っている男を見つけた。
「こ、殺さないでクレェぇぇぇ!!私はただ、命令を受けただけなんだぁぁぁ!私は被害者だぁぁぁ!!」
太った髭は、ヤリクに見つかると、地面に両膝をついて無様に命乞いをし始めた。
「ルカぁ。一人いたぞぉぉ」
ヤリクは太った髭から視線を外さずに、外へと向けて声をあげた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
ヤリクの声によってルカ達はテントへと入り、ヤリクの足下で膝をついて両手を合わせている太った髭へと視線を移した。
「オマエのその格好は、ここの指揮官だな?」
「ひぃぃぃ!た、助けてくれぇぇぇ!」
ルカに視線を向けられた太った髭は、さらに怯えて頭を抱えて蹲った。
「おい。おっさん。さっさと聞かれた事を喋れよ」
ヤリクは蹲っている太った髭の尻を蹴り上げた。
「いだっ!」
「オマエは、ここの指揮官か?」
「は、はいぃぃ。そそそ、そうですぅぅぅ!」
「あのゴーレムは一体なんなんだ?」
「あ、あれは、きゅ、宮廷魔導士が改良した、スロースゴーレムと言うモンスターですぅぅ!」
ルカ達は、初めて聞いたモンスターの名前にピクリと反応した。
「なんなんだそのスロースゴーレムというモンスターは?」
「わ、私もよくは知らないのですが、この場所の守りとして配置されたモンスターです!」
「と言う事は、ここはミディアから転移して来た王国軍の拠点と言う事か?」
「は、はいぃぃぃ。その通りですぅぅ!」
ルカは、髭答えに対して腕を組んで顎に手を当てて考え込んだ。
「おい。おっさん。王国の奴らは他にも大勢いた筈だが、ここが拠点だとしたら、他の奴らはどこに行ったんだ?」
「こ、ここの人員はこれだけですぅぅぅぅ!きょ、拠点は、ここを合わせて6つありますので、他の拠点に分散されてますぅぅぅぅ!」
「それって、特殊なコアがあるダンジョンに拠点があるって事か?」
「そ、そうです!」
髭の男はダラダラと大量に汗をかいており、来ている服はすでにビショビショだった。
「おい。オマエ。オマエ達は何故あのゴーレムと一緒に居たのに襲われなかったんだ?」
「そ、それは・・・こ、コレを使って制御することができるからです!」
男は何かを探す様にゴソゴソと自身の服を弄り出し、10cm程の細長い赤い水晶を取り出した。
「なんだそれ?そんなんでモンスターを制御できるのかよ?」
栄治は、男が取り出した細長い水晶を見て、んな訳あるかっと言った様な胡乱な表情で男を睨んだ。
「っは、はいぃぃぃ!ま、魔導士達が言うには、人工的に造ったスライムを操る魔道具らしいです!そのスライムをモンスターに寄生させ、スライムを介してモンスターを操れる様になるだとかどうとか言ってました!」
「おい、おっさん。って事は、ここの他にある6箇所の拠点にも、その操れる改造されたモンスターがいるってことか?」
「そそそそ、そうですぅぅ!」
ルカ達は、髭男が言っている、他の拠点にも改造されたモンスターが居ると言う事を聞いて眉間にシワを寄せた。
「で、でも、ある、1箇所の拠点には、改造されたモンスターが居るだけで、人員は配備されていないです!」
「あぁ?なんだよそりゃ?」
ヤリクは、何言ってるんだコイツと言う様な目で髭の男を睨んだ。
「そ、その1箇所に配備されているモンスターは、初期に造られたテスト用のモンスターだったらしく、モンスターの種類的に寄生スライムを植え付ける事ができなかったらしいです!な、なので、そのモンスターを拠点へと配置をしたものの、寄生スライムで操る事ができず、敵味方の区別が付かない為、その拠点にだけは兵は配備されていないです!」
「はぁ?どんな種類のモンスターなんだそりゃ?」
「わ、私には、それがどんな種類のモンスターなのかの情報は全く知らされていないです!」
「んだよ、使えねぇな」
「いだっ!?」
ヤリクは肝心な情報を知らない髭の男の尻を蹴った。
「オイ、オマエ。その改造モンスターがここに居たと言う事は、ここには門があると言う事で間違いないか?」
ルカは尻を摩っている男へと質問をした。
「は、はぃぃぃ!そそそそ、その通りですぅぅぅ!ど、どうか、命だけはぁぁぁぁ!」
「って事は、改造されたモンスターが居るダンジョンには門と拠点があって、1箇所除いた拠点には、王国の兵供が転移して来ていると。そう言う事だな?」
「そ、その通りです!」
「その拠点があるダンジョン以外には兵は居ないのか?」
「は、はい!拠点以外のダンジョンには兵はいないですぅぅ!」
「なんでだ?」
栄治は拠点以外に兵がいないと言うことに対して疑問が出てきた。
「そ、それはー」
「拠点になっている階層は、ダンジョンコアを弄ってモンスターが出ない様にしているから安全であり、拠点じゃない階層や他のダンジョンは、コアを弄ってない為に通常通りモンスターが発生するから拠点として成り立たない。そうだろ?」
「そ、その通りですぅぅ!」
髭の男はルカの解説に対して、よくお分かりでとか、さすが賢者様とかと言ったヨイショを言い出し始めた。
「と言う事は、転移して来た王国の兵は、そのコアを弄られた特殊なダンジョンにしか居なくて、そこには門があり、改造されたモンスターが門を守っているって事か?」
「そうだな。この男の言っている事が正しければ、そう言う事だな。1箇所は除くらしいが」
ルカは髭の男を睨んだ。
「ひぃぃぃぃ!嘘じゃないですぅぅ!信じてくださいぃぃぃ!」
冒険者を保護する為に探していたが、運良くこのダンジョンを見つけ、拠点を一つ潰せた事で、ルカ達の今後の動き方が見えてきだした。
「おい、オマエ。他の特殊なダンジョンがどこにあるか知っているか?」
「し、知らないです・・・」
「嘘じゃないだろぉな?」
「ほほほ、本当です!ぶぶぶ、部隊が配置されている特殊なダンジョンは、お、お互いの部隊が遭遇しやすくする為に、それぞれが近くに固まっていると言う事しか知らないですぅぅぅぅ!」
「って言うか、オマエらはどうやって連絡を取ったり落ち合う予定だったんだ?」
「か、各部隊から、小隊を組んで、コアの部屋からダンジョン外へと転移し、付近を探索しつつ、他の部隊の者達を見つけて合流する手筈でした・・・一度、ダンジョン外へ出ますと、ここへと戻って来るには、また、1層からここへ向かうしか方法がないので、ダンジョンの難易度によって、拠点にいる部隊の強さも違っております・・・」
「って事は、ダンジョンの難易度を見るに、ここの部隊は最弱って事か?」
「さ、最弱かどうかは分かりかねますが、ほ、他の部隊には、ダンジョンの難易度に合わせた将軍や宮廷魔導士様と言った方々が配備されていました・・・一応、私も将軍なのですが・・・」
栄治は胡乱気に髭の男を睨むも、男はこれ以上の情報は持っていない様子だった。
「ルカ。こいつどうする?これ以上の情報は聞き出せないと思うぞ?」
「その辺に動けない様に縛っておけ。こう言うヤツらは生かす必要も殺す必要もない。縛ってここに放置だ」
「そ、そんなぁ!?」
「黙れ!殺さないだけマシだと思え!彼らを見ろ!」
ルカが指を差した方向には、階段から出てきた冒険者達がこちらへと向かって来ていた。
「オマエらは彼らの仲間を殺したんだ。本来ならば報復されて然るべきだ。分かったな!」
「クっ・・・」
髭の男は大人しくヤリクに手足を縛られ、広い空間へと放り出された。
「さぁ、コアの部屋へ行くぞ。さっさと門を回収する」
ルカ達は、広い空間の奥にある白い扉へと入って行った。
「コアの部屋は同じ作りなんだな?」
青白く光る廊下を真っ直ぐにいくと、コアのある台座へとたどり着いた。
「ルカ。あのコアが門になるのか?」
「あぁ。鍵を使って門を開ける事ができる。門は一つでも開ける事ができるが、鍵が使えない今は無理だな。鍵の魔力が回復次第、みんなで冒険者達を向こうの世界へと送ろー」
ルカは台座にあるコアへと手をかけようとしたところで動きが止まった。
「ーこれは!?」
台座の裏側には、身体中を鎖に繋がれた女性が横たわっていた。
「「「!?」」」
ルカに遅れてクサリに繋がれている女性を見た栄治達もその光景に目を見開いて驚いた。
「アイツらぁぁぁ!やってはいけない事をやりやがったなぁぁぁぁぁ!」
鎖に繋がれている女性を見たルカは、怒りを顕に激昂し、コアがある台座の横を怒りに任せて殴った。
「ちょっ!?ルカぁ!なに?どう言う事ぉ?」
「アイツら、人間にダンジョンコアを植え付けてダンジョンを操作するだけでなく、ダンジョン転移の為の動力にしやがった!」
「なにそれぇ?」
「どう言う事だ?」
ルカは、横たわる女性の鎖を見て酷くイライラしていた。
「魔力の多い者をこの鎖で縛り、ダンジョンを転移させる為の動力にしたのだ。この鎖に縛られた者は魂がダンジョンへと縛られ、永遠にダンジョンの動力源となって魂を解放される事がない。このクサリの量だと、他の多くのダンジョンへも魔力の供給源にされてるな・・・」
「え?このダンジョンだけじゃないのか?」
「あぁ。このクサリの数をみてみろ。これ1本につき1つのダンジョンと繋がっている。この量だと、5、60はこの人だけで繋がっている筈だ」
「一体なんなんだよ・・・王国のヤツら、人をなんだと思ってやがるんだ!?」
「ルカ、この人をこの鎖から解き放つ事はできないのか?」
「できるとは思うが・・・鍵の魔力がない今は無理だな・・・」
「こんなクサリ、俺が叩き斬ってやる!【絶対防御】!絶剣!」
栄治はスキルを発現させ、鎖へと直刀を振り下ろした。
スカっ
「あれ?」
栄治が斬った筈の鎖は、斬れずにそのままクサリをすり抜けていった。
「この!この!このっ!」
栄治は何度もクサリへと斬りつけるが、鎖は、まるでそこに実態が無いかの様に全てすり抜けて斬る事ができなかった。
「どうなってんだ一体・・・」
栄治が切れない鎖を不思議に思って手で触れようとするが、鎖や倒れている女性を触る事ができなかった。
「この鎖は、この女性の魂と魔力を縛っている。物理的に断ち切ろうとしても無理だ。この鎖に縛られた事で、この女性の肉体は消滅し、魂と魔力だけの存在になってしまっている」
「マジかよ・・・」
栄治は斬る事ができない鎖を前にして、悔しそうに鎖を睨みつけた。
「なんでルカはこの鎖の事をそんなに知ってるのぉ?」
クレシアの質問に対し、ルカは眉間にシワを寄せながら答えた。
「これは・・・私が考えたモノだからだ・・・」
「「「えぇ!?」」」
ルカの答えに3人は驚いてルカを見つめた。
「正確には、私達だな・・・これは、勇者の召喚ができなかった時の為に、魔王を封印しようとして考えられた禁呪だ・・・」
「それが、なんでここで使われているんだ?」
ルカは俯きながら口を開いた。
「コレを知っている者は、私と、ごく一部の宮廷魔導士だけだ・・・アイツら、本当に色々とやってくれる・・・」
ルカは思い詰めた様んあ顔をして鎖に繋がれている女性へと視線を向けた。
「じゃぁ、ルカが作ったんなら、解呪の方法も分かるんじゃねぇのか?」
「これは、永遠に魔王を閉じ込める為に作ったモノだから、そもそも解呪の方法なんて無い。だから禁呪なのだ。鍵を使えば無理やり解呪はできるが、鍵がこの状態じゃ、他に方法は無いな・・・」
ルカは肩から下げているショルダーバッグを触ってヤリクへと視線を移した。
「本当に、この世界でやる事が多くなっていくな・・・この人達も、ここから解放してあげなければ・・・」
ルカは下を向いて方を震わせていた。
「と、とりあえずぅ、門を回収しましょっ!!私達もルカの力になるからぁ、できる事から1つずつやっていきましょ!」
クレシアは落ち込んでいるルカの肩へと手を当て、元気付ける様に声をかけた。
「やる事は増えたが、ここまで来たら、全部まとめてやっちまおうぜ!」
「だとよルカ。勇者様から有難いお言葉を頂けたぜ」
ルカは、クレシアの胸へと顔を埋め、静かに泣き出した。
「皆んな・・・すまんな・・・ありがとう・・・」
その後、栄治達は門のコアを回収し、コアがあった台座の上へと触れて地上へと転移した。