07. VSゴーレム
ルカ達は、全てのモンスターを殲滅しながら4層と5層の間の階段へと到着した。
「先ずは、私達で敵を引きつける。あんた達は私の合図で階段から出て来てくれ」
冒険者達は、ルカの言葉へと無言で頷いた。
「行くぞ!」
ルカ達は階段を降りて行き、冒険者達が言っていた広大な広場へと降り立った。
「オイオイ。なんなんだよここは」
「広いねぇ〜」
「広いって言うか、アイツらダンジョンを弄りやがったな」
「これは、確実にコアを操作して弄っているわね」
ルカ達は等間隔に柱が立っている広大な空間を見て驚いていた。
「アイツら、マジでいやがるぞ」
ヤリクが見つめている方向には、多くの兵達が野営の様にテントを張って待機しており、階段から降りて来たルカ達の姿に気づいた見張りらしき兵が、大声をあげて他の者達へと知らせていた。
「また誰か来たぞぉぉ!アレを動かせぇぇ!」
兵達が野営をしている箇所は、次第にざわざわと人の声が響き渡り始めた。
「ヤツらヨユーかよ」
「奴らに動かれる前に殺るぞ!【創造】!紅蓮の炎よ!全てを燃やし尽くせっ!爆雨!」
ルカはスキルを使って巨大な火の玉を頭上へと発現させ、上にあげていた右腕を振り下ろして兵達が居る野営地へと向けて放った。
ルカから放たれた2m程の火の玉は、途中で拳程の大きさへと分裂し、兵達のいる箇所へと火の玉の雨を降らせた。
ドドドドドドドドドドドドドドド!!
「マジで容赦ねぇな・・・」
「先手必勝だっ!殺し合いの戦いに容赦もクソもないわっ!」
栄治はルカの相変わらずの容赦のなさにドン引きしており、ルカは「そんなの知るか」と言わんばかりに兵達を殲滅させる勢いでスキルを放った。
「そんじゃ、行きますか」
ヤリクは、腰に挿していた2本の短剣を逆手に持って鞘から抜き、兵達がいる方へと向けて走り出した。
「ルカぁ。援護はまかせたよぉ〜」
クレシアもヤリクの後を追う様に走って兵達へと向けて走って行った。
「何ボサッとしてんだい!ほら!オマエも行くんだよっ!」
「分かってるっつうの!【絶対防御】!」
栄治がスキルを発現させると、黄色く半透明で薄い6角形のバリアの様なものが、7つ栄治の周りへと浮かんで出現し、現れたソレらは、栄治を中心にして栄治の周りをぐるぐると回り始めた。
スキルを発現させた栄治は、ヤリクとクレシアの後を追う様に兵達がいる方向へと走り出そうとすると、ルカが放ったスキルの爆炎の中から、15mはありそうな巨大なゴーレムが爆炎を突き抜けて立ち上がった。
「まじで、デケぇな・・・巨大ロボかよ・・・」
栄治は立ち上がったゴーレムを見て、溜息を吐きながら構えをとった。
「はぁ〜。アレは、手抜きなんてしてられねぇんだろうな・・・【絶対防御】!ソード形態!」
栄治が周りに浮いている絶対防御へと指示を出すと、6角形のバリアはお互いが辺同士をくっつけて剣の形となり、ゴーレムへと鋒を向けながら栄治の右側に滞空した。
「【スラッシュ】!」
そして、栄治が剣技のスキルを発動させると、滞空していた絶対防御から、黄色い巨大な斬撃が放たれた。
放たれた斬撃は、真っ直ぐにゴーレームへと進んでいき、ゴーレムの胸から腹にかけてを斬撃が深く抉り込み、ゴーレムへと浅い傷を負わせた。
「あちゃー。距離が遠かったなコレは・・・」
「なんでここでその技を選んだんだっ!」
斬撃を放った栄治は、ミスったと言う様な顔をし、睨みつけてくるルカと併走しながらゴーレムの元へと走っていった。
栄治とルカがゴーレムに近づいて行くと、クレシアは既にゴーレムの右脚へと肉薄しており、白く光り輝いている右拳をゴーレムの脚へと突き刺した。
「【聖槍】!」
クレシアの拳で殴られたゴーレムの右脚は、クレシアの聖槍によって穴が穿垂れており、聖槍は脚を突き抜けて、そのまま後ろにいる兵達の野営地へと向かって飛んでいった。
クレシアの周りでは、ヤリクがクレシアの戦いをサポートし、クレシアへと兵達を近づけない様に、素早い動きで、一人、また一人と両手に持っている短剣で向かって来る兵達の息の根を止めている。
「エージ。他はヤリクに任せて、あのデカいのから先に殺るぞ!」
「ヘイヘイ。そんじゃセオリー通り、脚から潰していくぜっ!【絶対防御】!大断絶っ!」
栄治がゴーレムの脚へと指を指すと、周りに浮いている7つの6角形のバリアが其々の辺同士を合わせて1枚の板の様になり、板の様になった絶対防御は、電動ノコギリの様に回転を始め、掘削機で岩を削る様な音を連続して立てながらゴーレムの脚へと斜めにその身を食い込ませていった。
「倒れるぞぉぉぉぉ!」
栄治によって脚を切断されたゴーレムは、バランスを失って切断された方へゆっくりと身体が傾きだした。
ゴーレムの足下にいたクレシアとヤリクは、倒れていく反対方向へと移動し、ゴーレムが倒れていく様子を周りを警戒しつつ眺めていた。
「ホント、いつ見ても、ウチの勇者様のスキルはイカれてるよな」
「だよねぇ〜。何がどうなって防御のスキルで攻撃できてるんだろうねぇ?」
ゴーレムが倒れていく方向にいる王国の兵達は、自陣へと倒れて来るゴーレムに驚き、アリの様にワラワラと逃げ回っており、指揮官らしき者が、逃げるなだとか、陣を崩すなだとかを大声で叫んでいた。
ズ、ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
片脚失って兵達の野営地の上へと倒れたゴーレムは、必死に起きあがろうと身体をゴロゴロと踠き始め、野営地ではゴロゴロと踠いている巨大なゴーレムによって潰されている者達の悲鳴が飛び交い、酷い状態になっていた。
「・・・私も容赦しないと言ったが、オマエ、勇者の癖に酷い事を考えるな・・・」
ルカは横にいる大惨事を起こした栄治を、冷ややかな目で見つめた。
「・・・イヤ、こんな事になるとは全く思ってなかった・・・」
ゴーレムによって潰された野営地は、ほぼ全壊しており、立つ事ができなくなったゴーレムは、立ち上がる事を諦めたのか、ピクリとも動かなくなった。
「意外に呆気なかったな・・・」
「私、殴り足りないんですけどぉ〜」
「どんだけ物騒なんだよオマエは!?」
「イヤ、この惨劇を起こしたエージにそれを言う資格はないぞ」
と、順にヤリク、クレシア、エージ、ルカは、目の前の呆気ない戦いに軽く驚いていた。
「それじゃ、さっさとゴーレムにトドメを刺して、コアがある部屋へと向かうぞ」
ルカの発した言葉と共に、みんなでトドメを刺すためにゴーレムへと近付こうとした瞬間、ゴーレムの岩の様な身体が岩同士が擦れる様な音と共に波打ちだした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「オイ・・・なんかヤベーんじゃねぇかコレ?」
「私も、なんか嫌な予感がするぅ」
「フン!何が始まろうとも、一々待ってやる筋合いなんてないっ!【創造】!弾けて砕け散れ!連爆!」
ルカは、頭上へと向けて掌を掲げ、バチバチ帯電した赤い球体を無数に発現させた。
「行け!」
ルカが、上げている腕の手首を動かすと、帯電した赤い球体はゴーレムへと向かって飛んでいき、着弾と同時に無数の爆発を連続して起こした。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!
着弾したゴーレムの周りは、連続した爆発によって白い煙が上がっており、煙によってゴーレムの姿が見えなくなった。
「ダメだな」
「「「え?」」」
「殺りきれてない。物理的な攻撃にしとけばよかったわ・・・」
「「「・・・・・・」」」
3人は、ルカの殺りきれてないと言う言葉を聞いて、眼前にて舞い上がっている煙りへと向けて視線を固定しながら警戒し、戦闘態勢をとって其々が武器を構えた。
瞬間、煙りの中からルカ達へと向かって何かが伸びて来た。
「うお!?」
「うわっ!?」
「きゃぁ!?」
「クッ!?」
ルカ達は、ギリギリのところで伸びて来たソレを躱したが、伸びて来たソレの先端は、まるで針の様に鋭利に尖っており、深々と地面へと突き刺さった。
「なんだよコレ!?」
地面へと突き刺さったソレは、先端を地面から引き抜くと同時に、煙りを散らしながら煙りの中へと戻っていった。
煙が晴れたそこには、巨大な岩でできた蠍が、厳つい針が着いた2つの尻尾をルカ達へと向けていた。
蠍の周りには、まるで脱ぎ捨てられたかの様な大小様々な岩がゴロゴロと転がっており、蠍は、先程のゴーレムと違ってサイズが一回り程小さくなっていた。
「あのゴーレム、脱皮しやがったのか!?」
「イヤ、余分なモノを削ぎ落とし、私達に対応する為に形状を作り変えたのだろう。これまた厄介な相手だな。早く倒さないと、私達の攻撃に適応する為に、更に進化するかもしれんぞ」
「マジかよ・・・」
ルカは、形状を変えたゴーレムを分析し、メンバーへと早期に決着をつける様に伝えた。
「そんじゃ全力で行くぞ!【絶対防御】!絶剣!」
栄治がスキルを発動させると、栄治の周りに浮いていた6枚のバリアが栄治の右手へと集まり、黄色く光り輝く鍔のない直刀の形へと姿を変えた。
「【身体強化】!」
栄治は黄色い直刀を片手に、身体強化を発動させて岩の様な蠍へと肉薄した。
蠍は、急に肉薄して来た栄治へと目掛けて両手のデカいハサミを突き出して来た。
しかし、栄治は避ける素振りもせずに手にしている直刀でもって向かって来るハサミの一つをしたから上へと切り上げて斬り捨てた。
向かって来たもう一つのハサミは、空中に滞空していた6角形の絶対防御によって動きを止めた。
蠍は栄治に片方のハサミを斬られ、片方の動きを止められた事で、棘の着いている2本の尻尾を栄治へと伸ばした。
だが、伸ばした2本の尻尾は、1本はクレシアに殴り飛ばされ、1本はヤリクの2本の短刀によって止められた。
「どきな!」
ルカの合図と同時に、栄治、クレシア、ヤリクは蠍から距離をとって離れた。
「【創造】!大地の牙!牙牢!」
ルカがスキルを発現させると、蠍の足元から無数の円錐状の棘が現れ、蠍は無数の穴を開けて串刺しになった。
「さすがにこれだけやられれば、次はないだろ・・・」
「さぁ、どうだかね。まだ身体が消えてないから、死んではいないよ」
「とりあえず、斬っておくわ・・・」
「なんなんだろぉね。このゴーレム」
栄治は串刺しになっている蠍を、手にしている直刀でバラバラに斬り刻んだ。
しかし、バラバラになった岩は消える気配がなく、逆にバラバラになった岩同士がくっつく様に動き出した。
「まだくっつくのかよ!?」
「アンタ達!くっつくのを早く阻止して!」
ルカは焦る様にゴーレムの残骸の近くにいる栄治達へと声を上げた。
「クソっ!」
「マジかよ!?」
「きりないよぉ〜」
栄治、ヤリク、クレシアは、一ヶ所へと集まり出している岩の塊をそれぞれ破壊しているが、岩の塊はさらに速度を上げて集まり出し、何かの形を作り始めた。
「ルカ!すまん!間に合わねぇ!」
集まった岩は当初と同じ様に人型を形成しているが、大きさが2m程と小柄になり、身体の色が黒に近い灰色と濃くなっていた。
「【スラッシュ】!」
栄治は手にしている直刀で無防備に立っているゴーレムへと斬撃を放ったが、ゴーレムにはかすり傷しか付いていなかった。
「【聖痕】!」
クレシアは栄治がスラッシュを放ったすぐに、ゴーレムへと肉薄してゴーレムの腹へとスキルを乗せた拳を突き出すも、ゴーレムは少し後ろに下がるだけで致命傷にはなっておらず、続けてヤリクが短刀で斬りつけるも全く効いてなかった。
「なんなんだ!?アイツの硬さは!?」
「これは本当にマジでやるしかねぇな」
ヤリクは手にしていた2本の短刀を腰へと仕舞い、両腕をクロスさせた。
「【獣化】腕!雷虎!」
ヤリクがスキルを発現させると、ヤリクの腕は、黄色い毛に包まれた獣の様な腕となった。
「雷爪!」
ゴーレムへと向けられたヤリクの手から伸びている爪は、バチバチと黄色い雷を纏っており、ヤリクはゴーレムへと向かって爪による連撃を放った。
ヤリクの連撃を受けているゴーレムは、全身が爪でひっかかれた様な抉れている傷ができており、ひっかかれて抉れている箇所からはバチバチと雷が帯電していた。
「ヤリク!スイッチ!」
ヤリクは後ろから聞こえたクレシアの言葉と共に、サイドステップで右へと移動した。
ヤリクが右へとずれた瞬間、今までヤリクがいた位置から、クレシアがゴーレムへと向けて右拳を突き出した。
「連撃!二段!」
クレシアは、光る拳でゴーレムの胸へとストレートを放った後に、右脇腹へと左のフックを連続して放った。
「四段!」
続けて腹部へと右のアッパーと左の膝蹴り。
「六段!」
腹部への右のミドルキックから頭部へとハイキック。
「八段!」
右腕へと左のハイキックからの左腕への右のハイキック。
「十段!」
右肩への左のかかと落としからの右脚への左の水面蹴り。
クレシアが連続して技を放つ度に威力がどんどんと上がって行き、ゴーレムの身体へと小さな日々が現れ始めた。
「クレシア!スイッチ!」
ゴーレムはクレシアが最後にはなった水面蹴りで体勢を崩して倒れ、栄治はクレシアの頭上から飛び上がって倒れているゴーレムの上へとのしかかり、手にしている直刀を逆手に持ってスキルを発動させながらゴーレムの胸へと突き刺した。
「【刺突】!」
栄治は直刀をゴーレムの胸へと突き刺すと、さらに力を入れて追加でスキルを発現させた。
「【刺散】!」
ゴーレムは栄治が追加で発現させたスキルによって、突き刺された箇所を中心に、身体の内側から外側へと大量の黄色い刀身を生やした。
「エージ!スイッチ!」
栄治はルカの言葉と共に上へと飛び上がり、ルカがゴーレムへと向かってスキルを発現させた。
「【創造】!溶解せよ!鎖解!」
ゴーレムは地面から現れた緑色の鎖によって全身を隙間なく束縛され、その身を溶かされた。
身体を溶かされたゴーレムは、周りに散っている岩と共に黒い粒子となってその身を消滅させた。




