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06. 冒険者

栄治が目を覚ますのを待って十分に休息を取ったルカ達は、コアへと手を触れてダンジョンから外へと転移し、ルカが作った魔道具を片手にビルの群れの中を歩いていた。


「ルカ。こんなんで本当に冒険者の居場所が分かんのかよ?」


先頭を歩くヤリクの手の上には、板の上に小さな金魚鉢が逆さまに被されている、まるで小さなスノーボールの様な物があった。


「おい。そこの犬。私の技術を疑うのか?」


「いや・・・疑いはしねぇが、って言うか、俺は犬じゃねぇぞ!虎だ!ってか、なんなんだよコレ?板の真ん中に魔石をはめ込んで透明な蓋をかぶせているだけなんだが・・・」


「それはな。ダンジョンから採れた魔石を利用したコンパスだ。これで冒険者達を簡単に見つけることができる!」


「「「おぉ〜!」」」


「冒険者が付近にいる場合は、冒険者のドッグタグに反応してその中に矢印が現れる」


ルカが造った道具の説明に、ヤリク達3人は感心しながら目をキラキラとさせていた。


「スゲーなこれ。って言うか、王国のヤツらも冒険者のドッグタグを持っているんじゃねぇのか?」


「本当にバカかオマエは?兵や王国に従事している者達は、冒険者になるのを禁止されている。そして、王国に従事する際にドッグタグはギルドへと返す決まりだ。オマエが冒険者になった時も説明を受けただろうが」


「でも、ルカは宮廷魔導士で、王国に従事してるんじゃねぇのかよ?」


「私はそんなの知らん!アイツらが勝手に私に称号を付けただけだ!私は誰にも従事などするものか!そもそも、王国の考え方は生理的に合わん!」


ルカは栄治の言葉に怒りを覚えた。


「一つの国に従事したって、何も良い事などないわい。そんな国の奴隷みたいな生活なんて、私には絶対に無理だ!」


「って言うかさぁ、自分は自由を求めているくせに、よく俺を奴隷の様にコキ使えるよな?」


「たわけが!オマエに色々と教えてやったのは誰だ?」


「ふざけんなよ!俺はオマエに勝手にミディアに召喚されたんだぞ!?」


「いや、それはほら。色々と事情もあった訳だし、それに、こうしてオマエも無事に故郷へと帰ってこれたじゃないか」


「確かに、地球に帰れはしたが、帰るまでの5年間は俺に青春なんて全くなかったぞ。しかも、帰り方なんてマジで酷いだろ・・・ダンジョンに飲まず食わずで貼り付けって・・・」


栄治はミディアでのルカにこき使われていた事や無茶振りをさせられていた事、ダンジョンに貼り付けにされて地球へと帰って来た事を思い出した。


栄治とルカが口論をしていると、ヤリクの掌の上にあるコンパスへと緑の矢印が現れた。


「ルカ。矢印が現れたぞ・・・こっちの方向を指しているがどうする?」


「矢印の方向に向かうぞ」


コンパスの中に浮かび上がっている矢印は、ルカ達の前にある5階建の建物を指していた。


「矢印が差しているのってデパートじゃねぇか?」


「エージ、何ぃ〜、そのでぱーとってぇ?」


クレシアは栄治が発した聞き慣れない言葉へと反応した。


「デパートってのはだな、大きな建物の中に色々な店が入っているんだよ。食べ物や雑貨、服等と言った、店が主だな。1箇所でなんでも揃ってるぞ」


「すごいねソレぇ〜!」


「あぁ。確かに便利なとこだよ。って言うか、俺の知っている地球と雰囲気が全く違うんだがどうなってるんだ?ここはオフィス街の筈なのに全く人の気配がないぞ」


栄治は以前、自分がいた活気があった地球と比べ、帰って来た地球には活気がなく、人が居ないと言う事に首を傾げていた。


「信号も止まっているし、街全体に電気がついてねぇ。一体どうなってるんだ?」


栄治達はとりあえず現状について考えるのを止め、ヤリクの手の上にあるコンパスが指し示すデパートへと向かって行った。


到着したデパートは、外と同じ様に電気がついておらず、薄暗く自然光に照らされている状態だった。


「矢印はここの下を指しているぞ。もしかしてこの下にダンジョンがあるんじゃねぇか?」


「多分そうだろうな。冒険者は外の状況をみて、出るに出れないでいるか、未だにダンジョンの中にいるのかだと思う。少し急ぐぞ」


ルカ達は、コンパスを持っているヤリクを先頭に、デパートの地下へと向かっていった。


地下へと降りて来たルカ達は、寂れた真っ暗なデパ地下を緑色に光り輝くコンパスの矢印が指し示す方向へと向けて歩いており、矢印が指し示す暗闇で何かがうごている気配があった。


「【光球】!」


クレシアはスキルを使ってデパ地下を明るく照らすと、デパ地下の廃れ具合がはっきりと分かり、奥にはダンジョンの入り口が大きく口を開けていた。


そのダンジョンの入り口付近では、5名の冒険者が酷く疲れた顔をして座っていた。


「あんた達は冒険者か?私は勇者パーティーのルカと言いう」



おぉぉぉぉぉ!



ルカが冒険者達へと名を名乗ると、冒険者達は歓喜の声を上げた。


「賢者様!我々を助けに来てくれたんですね!」


「やった!勇者パーティーが来てくれたぞ!」


冒険者達は、ルカの後ろにいた栄治達を見てさらに喜びを強めた。


「あんた達はこのダンジョンに潜っていたのか?」


「はい。俺達はこのダンジョンに潜っていたんですが、突然、ダンジョンが揺れ出し、揺れが治って外へと出たら、こんな訳の分からない場所にいました」


「このダンジョンの最下層にとんでもない化け物が居て、仲間が2人殺られてしまい、急いでギルドへと報告に行こうとした矢先にダンジョンが揺れ出して・・・」


「それで、揺れが止んで、外へと出てみればこの有り様で、どうしたものかと途方に暮れていました」


クレシアの光球に照らされている冒険者達は、怪我をしている様で酷くボロボロになっており、心身ともに力尽きた様子でデパ地下の冷たいフロアへと腰を下ろしていた。


「クレシア。この人達を回復してあげて」


「りょうか〜い。【エリアヒール】」


クレシアが冒険者達へと手をかざしてエリアヒールを使うと、怪我をしている冒険者達を中心に、薄暗いデパ地下が明るくなった。


「聖女様!ありがとうございます!」



ありがとうございます!!



「いえいえぇ〜」


クレシアは冒険者から言われたお礼に対して、気にするなと言う様に微笑み返した。


「ところで、さっき、このダンジョンの最下層に化け物がいたって言っていたけど、ソレはどんな化け物だったんだ?」


冒険者達は、化物を思い出したのか、全員が顔を下に向けて無言になった。


「・・・最下層には、今まで見たこともない様なデカいゴーレムがいた・・・」


「以前、俺達がこの5層しかないランクの低いダンジョンに来た時は、最下層にあんな化け物なんていなかった」


「しかも最下層の作りが変わっていて、馬鹿でかい神殿の様な柱が立っているかなり広い空間になっていた」


「それと、ゴーレムの後ろには沢山の王国の兵達がいて、兵達は、上層から降りて来た俺達に気づいた瞬間、そのデカいゴーレムに指示をだして俺達へとけしかけやがった。ヤバイと思ってすぐに逃げたんだが、逃げ遅れた後衛の2人はゴーレムに潰されてしまった・・・」


「「「「・・・・・・」」」」


ルカ達は、冒険者達から聞いた話に無言となった。


「・・・あんた達、ダンジョンの最奥で王国の兵を見たのか?」


「はい。5、60人くらいは居たかと・・・」


「ルカ、ここは当たりだな。浅い階層と言い、王国の兵と言い、アレがあるダンジョンで間違いなさそうだ」


ヤリクはルカに近寄ってルカの耳元で小声で話し、ヤリクの声を聞いたルカは、小さく頷いた。


「どうやら私達は、急いでこのダンジョンの最奥へといかなければならないようだな。とりあえず、あんた達に今の状況を教える」


ルカは冒険者達へと手短に、ダンジョンが異世界へと転移し、王国がやろうとしている事を伝えた。


「・・・そ、そんな・・・」


「ここがその、異世界、なのか?・・・」


「王国のヤツらなんて事を・・・」


「クソがっ!ミディアでは嫁と子供が俺の帰りを待ってるんだぞ!」


「こんなところでどうすればいいんだよ・・・」


ルカの話を聞いた冒険者達は、怒り、困惑、絶望、と言った複数の感情によって顔を歪めていた。


「私達は、そんな王国の異世界侵略の思惑を止める為にこの世界へと来た。それで、今はあんた達の様なダンジョンの転移に巻き込まれた人達を探している。もしよかったら、私達と一緒に来ないか?」


「賢者様達と一緒に行きます!このまま、この何も知らない世界で野垂れ死ぬのは嫌です。それに、王国の奴らをぶん殴らねぇと気が済まねぇ」


「俺も行きます。こいつと同じ気持ちです」


ルカの話を聞いた冒険者達は、ルカ達と一緒に巻き込まれた他の冒険者達を探しに行くことになった。


「奴らからコアを奪って一緒にミディアへと帰るぞ!」



おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!



「あなた達には悪いけど、もう一度、私達と一緒にこのダンジョンの最奥へと行くわよ。王国の兵達も、転移して来たばかりだから、暫くは最下層で待機している筈よ。あなた達の言うゴーレムは私達に任せて。あなた達は兵達の相手をお願い。厳しくなったら私達の後ろに下がっていいから」


「そんじゃ、コア争奪戦の開始だな。エージ、ホラよっ」


ヤリクはポーチから栄治の武器や防具を取り出した。


「ありがとうヤリク」


エージはヤリクから受け取った防具を身に纏い、ロングソードを背中に挿した。


「それじゃ、先頭はヤリクとクレシア、真ん中に冒険者達、後ろは私とエージで行くぞっ!」



おう!



「手の空いている者は、クレシアとヤリクが倒したモンスターの魔石を拾い集めてくれ!この異世界には魔素が少ないから、魔石はできる限り集めたい」



分かりました!



「そんじゃぁ、しゅっぱ〜つ!」


ルカ達は、クレシアの気の抜けた掛け声と共にダンジョンへと向けて走っていった。

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