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05. 動き出す者達

栄治を楔から解放してから約1時間後、栄治は自身の腹の音と共に目を覚ました。


グゥ〜


「腹減った」


「オイ!ルカぁ!エージが目を覚ましたぞ!?」


現在ルカ達は、食事を取った後に其々が休息を取っていた。


栄治の横でゴロゴロしていたヤリクが、目を覚ました栄治に気付いてルカ達へと声をかけた。


「エージ!大丈夫か?どこか不具合とかあるか?」


ヤリクが栄治へと声をかけたが、栄治は仰向けから上体を起こして座り、まだ寝ぼけているのか、虚空の一点を見つめてボーっとしていた。


そんなのボーっと座っている栄治の下へと、クレシアがスープを持って来ると、栄治は匂いに釣られるかの様にクレシアへと顔を向けた。


「エージぃ。スープだよ〜。アーンしたげよっかぁ〜?」


クレシアがスープの入った木の器を持って来ると、栄治は早くスープを寄越せと言わんばかりに、無言で両手をクレシアへと向けて伸ばした。


クレシアは持って来たスープが入った器とスプーンを栄治へと手渡した瞬間、栄治はスープを使わずに器へと口をつけてガブガブと凄い勢いで飲み出した。


「おかわりぃ!」


余程お腹が空いていたのか、一瞬でスープを飲み干した栄治は、クレシアへと器を差し出し、おかわりを要求した。


「そんなに急いで飲まなくても、まだまだ沢山あるから。ちょっと待っててねぇ〜」


クレシアは器へとスープのおかわりを入れた後、今度はパンも一緒に持って来た。


栄治はクレシアからパンを受け取ると、無心でむしゃむしゃと食べだして即座にパンを口の中へと突っ込んで、手にしていたスープで流し込んだ。


「おかわりぃ!」


こうしてパンとスープを何度かおかわりし、たまに干し肉をガシガシと嚙っていた栄治は、ある程度腹が満たされて満足してきたのか、くすんでいた瞳へと輝きが現れた。


「ふぅ〜。死ぬかと思ったわ」


栄治が勢い良く食べているのを無言で見ていたルカは、復活した栄治へと向けて声をかけた。


「オイ。バカ勇者。何か言う事はないか?」


ルカは栄治の横で腕を組んで栄治を見下ろす形で仁王立ちしており、栄治はルカの顔を見上げながら口を開いた。


「おかわりぃ!」


「違うだろぉ?それはクレシアへと言いな。私が聞きたい事は、このクソ忙しかった時に、何故、オマエは、『勇者の癖に王国に捕まってこうなったのか』と言う事なんだがねぇ?」


「・・・・・・」


栄治はルカを見上げながら段々と状況が分かってきたのか、目がキョロキョロと泳ぎ出し、ルカから視線を外した。


「オイ。早く言え。時間は有限なんだよ!」


「・・・え〜っとですねぇ〜」


栄治は仁王立ちしているルカに恐怖し、オドオドしながら重い口を開いた。


「ヤリクがガラの悪い冒険者に因縁をかけられてボコボコにされていた獣人を助けたところ、ちょっとした騒ぎになって、それを俺が仲裁しようとしたら騒ぎを聞きつけた兵が来た」


「それで」


「兵が来た瞬間、ガラの悪い冒険者のヤツらが兵に媚を売ってペコペコしやがって、そんで、兵はなんて言ったと思う」


「なんて言ったんだ?」


「『なぁんだ。ペットを躾けていただけじゃないか』って言った瞬間、ヤリクが兵へと襲いかかろうとしたのをクレシアが止めたんだよ」


「それでなんでオマエが捕まった?」


ルカは、コレは王国に嵌められたなと思いながらも栄治の話しを聞いており、話の中では栄治は関係がないのに捕まってしまった事に疑問を持った。


「え?だって、俺がヤリクの代わりに兵を殴ったから?」


「はぁぁぁぁぁぁぁ〜」


ルカは盛大に溜息を吐き、いい様に王国側の掌の上で踊らされていた栄治達に対して頭が痛くなってきた。


「それでオマエは王国に捕まりダンジョンに封印され、挙句の果てにはオマエに預けていた私の鍵も王国に奪われたと・・・」


「です」


「ですじゃねぇだろ!ゴラぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ルカは地面に座っている栄治へと向かって蹴りの嵐をお見舞いしだした。


「いたっ!?イタタタタタタ!?ちょっと!?なんで俺が蹴られてるの!?痛いって!?」


「オマエがバカだからだよっ!ヤリクぅ!オマエもコッチ来て、このバカの横に座れっ!」


栄治が蹴られているのを見ていたヤリクは、いきなりルカに自分が呼ばれたので吃驚して自分を指差した


「え?俺?」


「あぁ。オマエだ」


「なんで俺がー」


「ーあぁ?」


ルカはヤリクを睨みつけながら、掌からバチバッチと紫電を発現させた。


「はい!ただいま!」


ヤリクと栄治は、現在、ルカの前で正座しており、ルカは正座しているヤリクと栄治を上から睨みつけていた。


「このバカ共が!私が少し居なかった間にまんまと王国の罠にハマりやがって!いや、分かるよ!オマエらのその正義感は私も分かるよ!だけどねぇ、私は出かける前にオマエらに言ったよね?今は軽率に動くなと。王国が不穏な動きをしているから極力関わるなと。確かに言ったよねぇぇぇぇ?」


「はい。言われました」


「言われましたです」


「それで、軽率に動いた結果、オマエはどうなった?」


ルカは栄治へと視線を移した。


「はい・・・鍵を奪われ、ダンジョンに封印されました・・・」


「だろ?しかもそれだけじゃない!王国は!私の鍵を使って!ダンジョンを異世界へと転移させやがった!終いには異世界を侵略しようと動きやがった!違うか?」


「はい・・・おっしゃる通りです・・・」


ヤリクと栄治は、ルカの状況把握と言う名の尋問に対し、借りて来た猫の様に大人しくなっていた。


「アイツらは最初っからコレを狙っていたんだよ!だから私がいない時に仕掛けてきたのさ!しかも、こうも簡単に事が進んで、アイツらは笑いが止まらずウハウハだったろうよ!何処かのバカ達のおかげでなぁ!」


ドカっ!


「「ヒィっ!?」」


ルカは感情に任せてダンジョンコアが置いてある台座を蹴った。


「アイツらは、先ずはヤリクの弱い部分を使ってエージを誘き出し、次はエージの正義感を逆手に取って罪を作る様に誘発させた。お前が罪を犯せば、法の名の下に勇者だろうが捕まえられるよなぁ?・・・ったく、こんな単純な手に引っかかるとか、オマエらはガキか?一体、いつになったら大人になるんだ?」


「今、ですかね?」


「俺はもうボウボウだけど?」


「「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!?」」


ルカは両手に紫電を発現させ、正座している二人の肩に触れた。


「クレシア。こっちおいで。今後のことを話すぞ」


「は〜い」


ルカは食器などを片付けていたクレシアを呼んだ。


「これからは、ダンジョン転移に巻き込まれた冒険者達を保護していく。そして、エージ。お前がその冒険者達の面倒を見るんだ」


「え?俺?」


「あぁ。オマエだ。この世界についてオマエしか知らないだろう?だからオマエなんだよ。腑抜けた事を言うなバカ者」


「マジかよ・・・」


「それで、次は、門となる特殊なコアを探す!最悪、1つでも我々が確保できれば良い。これは、鍵の他にも王国のヤツらの思惑を阻害する為だ」


ルカは右手の人差し指を立てて左手で右手の人差し指を握った。


「だが、一番重要な事は、鍵を守り抜く事だ。コレだけは王国のヤツらから必死に守り抜くのだ。分かったな」


「あぁ」


「おう」


「わかったぁ〜」


ルカの話を聞き、3人はそれぞれが頷いた。


「それじゃ、ヤリク。さっき集めた魔石を頂戴」


ヤリクは、栄治が寝ている間に上の階層からモンスターを倒して取って来た、大小様々な沢山の魔石をポーチから取り出してルカへと渡した。










ー同時刻 都内某所のダンジョン内ー


暗く広大な神殿の様な場所で、鎧やローブを着た男達が装備を脱ぎ捨て、王国の民の様な格好へと着替えていた。


着替えている屈強な男達の中、1人、雰囲気の違う20代半ばの男が、肘掛に片方の肘をもたれさせながら優雅に椅子へと腰をおろしていた。


「エルロック様、準備が整いました」


「うむ。して、その者がこの世界の者か?」


「はっ」


エルロックと名乗る椅子に座る男の前に現れた若い男は、エルロックの前で片膝をついており、男の横には周りにいる男達とは明らかに違う格好をしている、ジーンズにネルシャツといった地球の格好をした男性が横たわっていた。


「おい。エルロック様の御前であるぞ!起きぬか!」


片膝をついている若い男は、横たわっている男の髪を掴んで無理やり顔を持ち上げた。


「うぅっ・・・」


顔を持ち上げられた男の顔は、何度も殴られた後の様に酷く腫れ上がっており、鼻や口からは血が垂れ落ちていた。


「そいつをここへ」


「はっ!」


エルロックは右手を前へと突き出し、若い男によって髪を掴まれ引きずられて来た血だらけの男の頭を触った。


「【搾取】」


エルロックが血だらけの男の頭を触ってスキルを発動すると、頭を触られている男は悲鳴を上げて喚き出した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ほう。この世界は地球というのか。どうやら5年前に文明が崩壊した様だな。これは好都合だ。クックックックック」


エルロックに頭を触られている男は、段々と身体が痩せ細って干からび始め、終いには、まるで骨に皮が張り付いている様な状態となった。


「この世界の者は生命力も魔力も少ないな・・・知識以外はなんの足しにもならん・・・ゴミ以下だな」


片膝をついている男は慣れているかの様に骨と皮だけになった男には見向きもせずに顔を俯かせていた。


「ギルフォードよ。貴様は私についてこい」


「はっ!」


「他の者共はあの忌々しい魔女を探し出せ」



はっ!



エルロックの言葉に、片膝をついている60人程はいる男達が声を揃えて一斉に返事をした。


「フフフフフフ。さぁ、どうやってこの世界の者共を飼い慣らしていこうか。今から楽しみで仕方がないな」


エルロックは椅子の肘掛へと右肘をついて体重をかけ、おもちゃを前にした子供の様な笑みを浮かべながら左手を前へと掲げた。


「者共。出陣だ。新世界を蹂躙するぞ」



はっ!



エルロックの言葉と同時に、男達は次々にコアの部屋へと入っていった。


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