03. 勇者がいる場所へ
朝日が上り真っ青な良い天気の中、ルカ達3人は乱立するビルとビルの間を歩いていた。
「ルカぁ〜。本当にここでいいのぉ〜?」
「あぁ。間違いない。この方向で合ってる」
ルカ達は、ルカの左手の上にある右人差指が青く指し示す方向へと向けてひたすら歩き続けていた。
別世界から来た為か、ルカ達は歩道を歩かずに広く頑丈に舗装された道路の真ん中を伸び伸びと歩いていた。
「それにしても、この道すっげーな。なんか、固くもあるし柔らかくもあるぞ」
ヤリクはアスファルトの道路を爪先で蹴りながら歩き、物珍しそうに下を向いていた。
「こんな道が良いところでグルゥヴァー走らせたら、きっと気持ちがいいんだろうぉなぁ〜」
クレシア良い道、イコール、グルゥヴァーを走らせたいと言う願望が出て来ていた。
「ねぇ。ヤリクぅ。グルゥヴァー出して!」
「ルカ様のお許しがでたらな」
ヤリクは右目を瞑って左にいるルカへと顎をしゃくった。
「ルカぁ。ねぇ良いでしょぉ?グルゥヴァー出してもいいでしょぉ?」
「お前らうるさいぞ!少し黙ってろ!この世界、魔素が薄くて、集中してないとあのバカがいる方角がわからなくなる!感じられる魔素を見るに、この世界はダンジョンが現れてから急に魔素が増え出したって感じだなコレは・・・」
「残念だなクレシア。こんな魔素が薄いところじゃ、グルゥヴァーなんて動かないぞ。魔石もそんなに持って来てないしな」
「えぇ〜。じゃぁ、私、さっきのダンジョンに戻ってモンスター狩って魔石沢山取ってくる!そうすればグルゥヴァー乗れるよね?」
「バカかお前は!こんな異世界の魔素の薄いところで皆がバラバラになってみろ!迷子どころじゃなくなるぞ!私はお前らを探しにいくなんて面倒な事はごめん被るからな!しかも、王国の兵まで来てるんだぞ!大人しく私達と一緒に行動しろ!」
「えぇ〜。だって、鍵奪って来たのルカじゃ〜ん。私達関係ないよ〜」
「クレシア、お前もう忘れたのか?エージが俺達を逃す為に捕まったって事を?って事はだな。俺もお前もそこのルカも、王国の兵達に指名手配されているって事なんだぞ?」
「ウッソ!?勇者のパーティーが指名手配とか!?ウッソ!?」
「ウッソ!?じゃねぇよ。マジだ。王国の奴ら、この世界に攻めて来るとかって言っていただろ?その鍵を作った上に勝手に王宮から盗ってきたルカとか、S級で、しかも全大陸で指名手配されてるぜ今頃」
クレシアはヤリクの言うS級の指名手配と言う言葉を聞いて、何かを諦めた様にとぼとぼとルカの後を追って歩き出した。
「ヤリク。一つ言っておくが、私は盗んでなんかいないぞ!自分の物を返してもらっただけだ!むしろ宮廷魔道士共が私から鍵を盗みやがったんだ!」
ルカは後ろにいるヤリクへと顔を向けながらプンスカと怒っていた。
「そりゃぁな。ルカもトサカに来るわな。実際、俺もエージが捕まったとき、クレシアと一緒に王国滅ぼそうかと思ったくらいには頭にキテたからな。折角エージと一緒にアキバってトコ行きたかったのに・・・」
「そうだよねぇ〜。私もアキバってトコ行きたかったぁ〜」
クレシアとヤリクはガックリと肩を落とし、残念がりながら足をズルズルと引きずって歩いていた。
「バカかお前ら?今、エージの世界に来てるんだぞ?行こうと思えば行けるじゃないか!私達では道が分からないから、急いでエージを起こしに行くぞ!」
「「ルカ 天 才!!」」
「いや、お前らがバカなんだろ・・・」
そんなこんなで3人はアキバへと行く為に急ぎ足で栄治が封印されているダンジョンへと向かって行った。
普通の人間が走る速度で歩く事1時間、ルカのスキルでマークした栄治が封印されているダンジョンへと辿り着いた。
しかし、ダンジョンはそこには見当たらず、ルカの指が指し示す方向には地下へと続く階段があった。
「・・・多分ここを降りていけばあのダンジョンがあるはずだ・・・」
「えぇ〜。ルカぁ〜。多分ってどう言う事ぉ〜?」
「ルカも異世界に来て色々と分からないんだろうよ。って事はこの世界では賢者じゃなく、マジ物の魔女って事だな。クックックック」
「ヤリク、今すぐ元の姿に戻してやろうか?」
「すいません。俺が悪かったです!」
ルカをバカにして笑っていたヤリクは、ルカの一言によってその場で綺麗な土下座をし始めた。
「えぇ〜。ヤリク元の姿に戻らないのぉ〜。モフモフ感がマシマシになるのにぃ〜」
「獣人なんて今時はやんねぇよ。ミディアでどれだけの獣人が虐げられていると思ってんだ?ルカのおかげでこうしてスキルそのままで姿を変えられてるんだ。この姿になってからお前らにも迷惑かかってねぇだろ?」
ヤリクは過去を思い出すかの様にクレシアから視線を逸らした。
「えぇ〜。私、元のヤリク好きだよぉ〜。耳とか尻尾とか可愛いし、モフモフ感マシマシだしぃ」
「んん。ゴホンっ。この際だからはっきり言うが、お前らがイチャイチャするのは見るに耐えん!私がいないところでやれ!」
「「イチャイチャ (してねぇよ!) (してないよ!)」」
「ハイハイ。さっさと行くぞ」
二人がイチャイチャし出した為、ルカはさっさと先へ進む様に促した。
ルカ達が降りて行った地下へと続く階段は、地下鉄の乗り場であり、駅の構内は電化がついておらず真っ暗な状態だった。
「なんなんだろうな。この建物は」
「本当、なんか良く分かんないよねぇ〜この世界」
「確かに。色々とちぐはぐな部分が多いな。見たことのない器具が多いが、今は動いている様子が全く見られないな・・・」
ルカ達は駅の構内をキョロキョロと見渡しながら栄治がいるダンジョンへと向けて歩を進めた。
改札を跨いで超えて、さらに地下へと進むルカ達は、線路へと降りて、線路に沿って歩いて行った。
「この下にあるヤツも何に使うんだろうな?」
「あぁ。まるで大きな坑道の様にもみえるな?」
レールの上を歩いているルカ達は、遂に栄治がいるダンジョンを発見した。
「なんで地上に入口があったダンジョンが地下にあるんだ?」
「多分、異世界に転移した時のズレか何かだろう。と言う事は、他のダンジョンもここと同じ様に何かの建物の下に発現している可能性が高いな」
「うわぁ〜。そんなの探すとかホント面倒臭いねぇ〜」
「お前ら、よかったな。先にエージがいるダンジョンをマークしておいて。もし、マークが間に合わなかったら、探すのにどれだけ時間がかかっていたか分からなかったぞ」
「ホント、ソレな・・・こんな右も左も分からないデカい塔が建ちまくっている異世界で、エージがいるダンジョンを探すとか、俺には絶対無理だわ・・・」
ルカ達は事前にマークが間に合って良かったと胸を撫で下ろした。
「それじゃ、入り口を解錠するぞ」
ルカは襷掛けにしている白いワンショルダーから禍々しい装飾がされた珠を取り出した。
「ルカぁ〜。それって門の鍵だよねぇ?これでここの不委員も解けるの?」
クレシアはルカが徐に取り出した珠を見てコテンと首を横に傾げた。
「あぁ。コレは異世界の門を開く為の鍵だが、私が使う事によって、どんな封印でも解除する鍵にもなる。この珠の中には、私が長年研究して生み出した”賢者の石”と言う形を持たない石が入っている。私のスキルは、この石を介する事で一歩上のレベルの事ができる様になる。門の鍵と言ってはいるが、実際は私の為の魔道具だな。コレは私に限らず、他の者が使っても、その者のスキルや能力を限界以上に上げれるだろう。しかし、この世界の魔素の量では、1回使えば魔素の補充に多くの時間がかかりそうだ。まぁ、どうせ、コレは王国の兵共から隠すことになるから、ここで使って補充に時間がかかっても問題あるまい」
「なんだその便利すぎるものは!?そりゃ、王国の宮廷魔道士が盗むわけだぜ・・・この世界より魔素の濃いミディアで使えば、ほぼ使い放題じゃねぇか!?」
「そうなるな。異世界の門を開く鍵としても能力値を限界を超えてあげる兵器としても利用可能だな」
ルカはヤリクに答えながら珠をダンジョンへと向けて翳した。
「【創造】!開錠!口を閉じし封印よ消滅せよ!」
ルカが珠を介してスキルを使うと、珠の中にあった赤い年生のある液体が光だし、ダンジョンの入り口からはパキパキピキピキとガラスが割れる様な音がなり響いた。
そして、珠が一際光り輝くと、パリンと言う音と共に、ダンジョンの結界が消え去った。
「宮廷魔道士共め!エージを閉じ込めるだけで一体どれだけの魔石や魔力を利用したんだ!?こんな量は一丁一石で貯めれる量ではないぞ!?」
「マジかよ!?って事は、あいつら、エージを封じ込めるのをずっと狙ってたって事か?・・・」
「勇者を閉じ込めるとか、一体何かんがえてるんだろうねぇ!」
「ほら、コレ見てみろ」
ルカは手の上にある鍵をヤリクとクレシアへと見せた。
「色が変わってる?」
「なんでなんで?」
ルカが見せた珠の中にある賢者の石は、真っ赤だったものが真っ青へと色が変わっていた。
「魔力を使い切ったからだな。まぁ、時間をおけばまた元に戻るが。この世界だとどれくらいの時間がかかるか私にも分からん・・・」
ルカはヤリクとクレシアに珠を見せた後にショルダーバッグの中へと珠を戻した。
「さぁ、我らがバカ勇者とご対面といきますか」
「私はアイツを殴らないと気が済まないぞ」
「えぇ〜。じゃぁ、私もエージ殴るね!」
「「なんで!?」」
「んん?なんとなく?」
「「・・・・・・」」
ダンジョンの封印を開錠したルカ達は、栄治の下へと向けてダンジョンへと潜って行った。