02. ダンジョン転移
教会を出発したルカ達は、ルカのスキルによって街の城壁へと扉をつけて、目的地へと向かって王国から足早に去って行った。
「ヤリク!この方角であってるんだろうなっ!」
「あぁ。あってる。あってる」
ルカ達は、城壁の外に駐めてあった、前輪がない後輪でウィリーをした様な1輪のバイクみたいなものに乗っており、ヤリクを先頭に草原をかっ飛ばしていた。
「ヤリクぅ〜。私、ウィーヴァーに乗るのきら〜い!お尻がいた〜い!なんでグルゥヴァーじゃないのぉ〜」
クレシアは、ウィーヴァーと呼ばれる跨っている1輪の魔導バイクについて出発してからずーっとヤリクへと文句を言っている。
「いや、さっきも言ったっしょっ。ルカがグルゥヴァーだと運転してるヤツ以外が寝てしまうからダメだって」
「えぇ〜。ルカのケーチ!グルゥヴァーだったら私が運転してたのにぃ〜!!」
クレシアは頬を膨らませながら横で併走しているルカへと向けて文句を言った。
「いや、アンタの運転が一番危険なんですけど。グルゥヴァー持って来てたら、クレシア、アンタ運転席から絶対どかないだろ?」
「そりゃぁ、もう、グルゥヴァーって言ったら私だからねぇ〜!」
ルカの横でウィーヴァーに跨っている修道女の様な服を前を全開にしながら風にはためかせ、中に白いボディースーツを着ているクレシアは、どうしてもグルゥヴァーに乗りたいと駄々をこね始めた。
「いや、アンタが運転すると、運転が激しすぎて、乗っている皆んなが気絶すんだよ!こんな急いでいる時に気絶とかたまったもんじゃないわっ!」
軽快にウィーヴァーを飛ばして走っているルカ達の前に、小さな小山みたいなものが見えて来た。
「お〜い。目視できたぞ〜。前に見えるあのモッコリしているのが、あのバカが封じ込められたダンジョンだ」
「急いでマークしに行くぞ!そろそろ日の出が近い!ヤリク!索敵して!」
「もうやってるよ。大丈夫だ。周りに人の気配はない」
「さっすがヤリクぅぅぅ!「もうやってるよ」だってぇ〜!ギャッハッハッハッハ」
クレシアはアレクの抑揚のない低い声真似をし、自身の笑いのツボに嵌ったのか、風邪をきって走っているウィーヴァーを運転しながら大声で笑いだした。
「クレシアぁ!バカみたいに笑ってないで、私が指示した通りにダンジョンの外壁に魔石を打ち込んでおいで!アンタの馬鹿力の出番よ!」
「ルカ〜!馬鹿力って言わないでよ〜!私、これでも修道女でヒーラーなんだよ〜!」
「ハイハイ。メスゴリラが人化したんだろ?」
「ヤリクぅ!これ終わったらまりもプチプチの刑してあげるから逃げちゃだめだよ〜!」
「・・・エージ・・・どうやら俺の旅はここまでだったらしい。俺の分も生きろよ!」
ヤリクは、この後に起こるであろう、クレシアによる、まりもプチプチの刑を思い出し、ウィーヴァーのアクセルをめい一杯回した。
「ヤリク。まて〜!ギャハハハハハ!」
クレシアは、現実から逃げる様に思いっきり速度を上げたヤリクの後を楽しそうに追って行った。
「クレシアっ!これっ!」
ルカは横を走り去って行こうとしたクレシアへと向けて魔石が入っている小袋を投げ渡した。
「よっと〜。そんじゃ打ち込んでくるねぇ〜!」
「あぁ!早いとこ終わらせろよ!魔石を打ち込んでも、私達が潜れなかったら意味がないんだからな!」
「は〜い!」
ルカから小袋を受け取ったクレシアは、アクセルを全開にして前方に見える小山になった小さなダンジョンへと走り抜けて行った。
ダンジョンへと到着したクレシアは、ウィーヴァーから降りてダンジョンの周りを走りながら岩の様な壁へと向かって魔石を埋め込む様に貫を放っていた。
「てや!てや!てや!」
ダンジョンの外殻へと貫を放っているクレシアを見ているヤリクの髪の毛は、アリシアの手の形にベッコリとヘコんでおり、クレシアが素手でダンジョンの外角に対して、まるで豆腐でも突くかの様に貫をしている姿をタバコを吸いながら静かに見守っていた。
「・・・メスゴリラめ・・・」
クレシアが小さな小山を一回りして魔石を埋め込み終えたと同時くらいに、遅れてルカがやって来た。
「ルかぁ〜。終わったよ〜」
「ありがとう。もう少し時間がかかるって思っていたけど、さすがクレシアだ。堅くなかったか?手は大丈夫?」
「ちょっと堅かったけど大丈夫だよ〜。ダンジョンの中の壁と違って、外は普通だったかな?」
横にいたヤリクは、手に持っていたタバコを口に加えて、ダンジョンの外壁を軽くノックをする様に叩いてみると、ガンガンといった、まるで鋼鉄を叩いている様な音が聞こえて来た。
壁を叩いた後、クレシアの方を見て、モジャモジャの前髪で隠れている目が「カッ」と開いた。
「・・・メー」
「ーなぁ〜にぃ〜?ヤリクぅ〜?」
「いえ。まだ何も言っていません・・・」
何かを言いかけたヤリクは、瞬時に己の深い内側へと向けて出すはずの言葉を飲み込んだ。
「ほら。アンタ達ちょっと退いてろっ!今からマークするから!しっしっ!!」
ルカはまるで犬猫を追い払う様に手をひらひらさせてクレシアとヤリクをダンジョンの外壁から遠ざけた。
「そんじゃちゃっちゃとヤルぞ!【創造】マーク!っ勇者!エージっ!」
ルカは、前に伸ばした左の掌を上に向けた状態で人差し指をダンジョンへと向けている右手を乗せながらスキルを発動させた。
すると、ルカの人差し指の爪先が青く染まり、ダンジョンをマークした。
「できたぞ!」
ルカはそう言いながらあらぬ方向へと左手に乗せている突き出している人差し指を向けると、人差し指の先の青く染まっている部分が消え、再度ダンジョンへと向けると、人差し指の先が青く染まった。
「さっすがルカぁ〜!楽勝だねぇ〜!」
「そんな余裕ぶっこいている場合じゃないんだよ!ヤリク!さっさとダンジョンへと案内しな!」
「ヘイヘイ。こちらでございますよ〜っと」
ルカ達は再度ウィーヴァーへと跨り、ヤリクを先頭にして速度を全開にして走り去って行った。
ー数10分後ー
ヤリクを先頭にエージが封印されているダンジョンからまっすぐ進んでいたルカ達は、先ほどのダンジョンと同じ様な規模のダンジョンへと到着した。
「ヤリク!ここの階層数は?」
「15層だな」
「それじゃ、急いで9層と10層の階段の所まで潜るぞ!浅い階層だとどうなるか分かったもんじゃないからな!」
「このウィーヴァーはどうするんだ?」
「アンタの収納にでも入れておきな!あっちの世界で使えたらラッキーくらいで考えておくんだ」
「りょーかーい」
ヤリクはルカに言われた通り、3人が乗って来たウィーヴァーをポーチ型の収納へと詰め込んだ。
「ルカルカ!!あっちからお日様出て来たよ!」
「チッ!アンタ達!モンスターは無視して10層まで一気に走り抜けるぞ!邪魔してくるモンスターは、クレシアの斬撃で切り捨てろ!ヤリク!アンタは後ろを頼む!」
「おっけ〜!」
「へいへい」
「そんじゃ行くよ!【創造】獣の様に駆ける足を!」
ルカがスキルを発動させると、3人の脚はまるで猫化の動物の様に変形した。
「走れ!」
脚が変形した3人は、まるで風の様にその場から姿を消し、ダンジョンの奥へと向かって走り去って行った。
遭遇したモンスター達は、走り去るルカ達の姿を捉える事ができずに、ただただ突っ立ているだけだった。
9層めまでを一気に駆け抜けたルカ達は、ダンジョンが振動していることに気がついた。
「ルカ!」
「あぁ。どうやら始まったみたいだな!」ここまで振動がくるとは、上の階層はひどいことになってそうだな!」
ルカはヤリクの言葉に応答し、上の階層の被害を予想していた。
「クレシア!階段に着いたら私と一緒に結界を張るぞ!」
「あいあいさ〜!」
9層を走っているルカ達は、程なくして10層へと続く階段へと到着し、階段の中頃まで穂を進めた。
「クレシア結界いくぞ!」
「わかった〜!聖なる主よ!我らを護りたまへ!【光壁】!」
クレシアは言葉を紡ぎながら頭上へと両手をあげると、両掌からサッカーボールほどの大きさの光の珠が発現し、3人の周りを光輝く薄い膜の様なものがドーム状に覆った。
「【創造】!物を拒し魔を断ち切れ!隔壁!」
ルカはスキルを発現させる為にサムズアップさせた左右の手の、拳と親指をつけた後に親指をくるりと下へと向けた。
すると、クレシアの光壁を覆う様にして、6角形で構成された黄色いドーム状の結界が現れた。
「クレシア!来るぞ!」
「了解!」
まるで、ルカの言葉が合図となった様に、ダンジョン全体が縦に激しく揺れ出し、ルカ達3人は、まるでエレベーターが下へと降りていく様な軽い浮遊感に襲われた。
1時間程、下へと向かっていく浮遊間に襲われた後、今度は上へと向かっていく浮遊感がやって来た。
上へと向かっていく浮遊間の際に、揺れがさらに激しくなり、ヤリクが左にクレシア、右にルカを抱える形で立っている体制を留めていた。
1時間後、激しい揺れと共に上へと向かう浮遊感がなくなった。
「「「・・・・・・」」」
揺れが収まると同時に、3人はスキルを解いてペタリと階段へと腰を下ろし、顔には疲労の色が見て取れた。
「着いたのか?」
「あぁ。多分着いたな・・・」
「って事は、ここはもう異世界って事?」
「それは外に出てみて確かめるしかないな」
ルカ達は重い腰を上げて階段を上って行った。
とりあえずと言う事で、ダンジョンへと潜って来たときとは違い、それぞれが身体強化を使ってモンスターを軽く蹴散らしながら、ダンジョンの外へと向かって走り出した。
3人はものの1時間弱程でダンジョンの出入り口前まで来ており、ダンジョンの中からは外は眩い光によって窺えない状態だった。
3人は横に一列に並び、薄暗いダンジョンから外へと向けて歩き出した。
「なっ!?」
「え?」
「うお!?」
ダンジョンから出て来た3人は、3者3様に外の景色に驚いていた。
ダンジョンの外は、下から見上げてもてっぺんが見えない程の高さがある建物が乱立しており、一見して高度な文明を持っている世界ということが見て取れた。
しかし、アスファルトで舗装されている道路上には人の影が見当たらず、乗り捨てられて壊れた車がいたるところに見て取れた。
「誰もいないね・・・」
「あぁ。いないな・・・」
「ここがエージの世界なのか?」
ダンジョンから出て来た3人は、初めて見る異世界の光景に対して脳然と立ち尽くしており、少しの間思考が停止してしまった。
「エージ・・・そうだ!エージなら何かわかるかもしれない!」
「そ、そうだね!」
「そんじゃ、あのバカを起こしにいくとしますか」