11. 橘花 翔吾
翔吾が裏ギルドへと入ってから数日後、翔吾は毎日の様に裏ギルドへと顔を出す様になった。
人の命を救う為に強くなると、栄治へと、ルカへと言った翌日から、翔吾は貪欲に強さを求める様になった。
それも理由としてあるが、実際はルカに会いに来ていると言うのが本当の目的だ。
「おい。ルカ。あいつまた来てるぞ」
「あぁ」
「しかも、めっちゃオマエの事見てるぞ」
「あぁ」
「うわ!?手ぇ振ってるぞ!ホラ!オマエも振り返してやれよ!」
「バカか。死んでも振らぬわ」
栄治とルカは、現在、2層めにある闘技場の壁の上へと並んで腰掛けて座っており、新しく入ってきた者達の戦闘訓練を眺めていた。
「クレシアぁ。ちょっといいかぁ?」
栄治は、新人達へと戦闘訓練を行なっているクレシアへと声をかけた。
「なに?エージ?」
「あの、毎日来ている新人、どんな感じ?」
栄治は翔吾へと視線を向けてクレシアへと翔吾について尋ねた。
「あぁ。彼ね。戦闘訓練にも毎日参加してるし、なかなか筋がいいよ。日に日に強くなっていっている感じがあるね」
「ほぉ。それ程の素材なのか?」
「えぇ。彼は今後、どんどん伸びていくと思うよ。スキルもなかなか面白くて、私も彼と組み手をするのは楽しいかな」
「ルカやオマエにそれほど言わせるなんて、あいつスッゲーんだな」
栄治はルカだけでなくクレシアにまで褒められている翔吾のスキルが気になった。
「クレシア。あいつのスキルは一体どんなスキルなんだ?」
「彼のスキルは、【模倣】って言って、かなりレアなユニークスキルよ」
「【模倣】?」
栄治は聞き慣れないスキル名に首を傾げた。
「彼のスキルは、他人のスキルをそのまま模倣するのよ。威力は彼の実力次第だからまだまだだけど、私でも思いつかなかったスキルの使い方をしてくるから、逆に勉強になるわ」
「・・・そうなのか・・・それじゃぁ、ちっと相手してみるか?」
栄治はクレシアの話を聞くと、腰を下ろしていた壁から地面へと飛び降りた。
「おーい。ちょっといいかぁ?」
闘技場の地面へと降りた栄治は、手を振って翔吾を呼んだ。
「マスター!なんでしょうか!」
翔吾はルカを見ていた事もあって、栄治が自身を呼んだ事にすぐに気がついて栄治の下へと走って来た。
「え〜っと、橘花って言ったっけ?」
「はい!橘花 翔吾です!」
「軽く俺と手合わせしないか?」
「え?」
翔吾はいきなり裏ギルドのマスターである栄治に呼ばれ、しかも手合わせしようと言われた事に対して驚いて軽く硬直した。
「君のスキルが面白いと、そこにいるクレシアから聞いたもんで、少し見てみたくてな」
栄治は横にいるクレシアへと視線を移した後に翔吾視線を向けた。
翔吾は栄治と目が合った後に、栄治の後ろにある壁の上で腰をかけているルカが視界へと入った。
「は、はい!お願いします!」
「それじゃ、君の力を見たいから、スキルを使って全力で攻撃してきてくれ」
「はい!ではいきます!」
翔吾は手にしている訓練用の刃が潰れた剣を構え、栄治へと対峙した。
「【模倣】!」
翔吾は剣を構えながらいきなりスキルを発動した。
すると、翔吾の黒目が血に染まった様な赤眼へと変わり、栄治はまるで得体の知れない何かによって自身の内部をじっくりと見られている様な奇妙な感覚に陥った。
「【絶対防御】!」
すると、栄治の対面にいた翔吾は、栄治のユニークスキルである絶対防御を発現させた。
「なっ!?」
しかし、栄治が発現させる絶対防御とは違い、薄くて黄色く透けている6角形のバリアは2枚だけであり、翔吾は自身の周りで浮遊しながらグルグルと回っている絶対防御を操って栄治へとけしかけて来た。
栄治は驚いた為か、一瞬遅れて翔吾が発現させた飛んでくる2枚の絶対防御をギリギリで躱したのだが、飛んできた絶対防御の後ろからは、翔吾が栄治へと身をかがめて体制を低くしながら栄治の隙をつく様な突きを放って来た。
「クっ!?」
栄治はバックステップで翔吾の突きを躱すも、まるで栄治の動きに合わせるかの様に、2枚の絶対防御が回転しながら栄治へと襲いかかって来た。
正午の攻撃を躱している栄治は、まるで3対1で戦っている様な感覚を感じ、栄治が少しでも隙を見せると、翔吾の剣撃や回転しながら襲ってくる絶対防御が容赦無く攻撃を仕掛けて来た。
栄治と対峙している赤眼の翔吾は、集中している為なのか、一切の感情が見えない様な無表情となって的確に栄治の急所を狙ってきており、その姿を見た栄治は背中へと薄ら冷たい何かを感じた。
栄治は、回転しながら向かってくる絶対防御の中心点へと合わせる様に拳を叩きつけて絶対防御を捌き、右上段から袈裟懸けに斬りつけてくる翔吾を、右足を引いて半身になって躱し、躱すと同時に左膝の蹴りを翔吾の脇腹へと入れて吹き飛ばした。
「ぐはっ!」
栄治から膝蹴りをくらって吹き飛んでいった翔吾は、地面を数回転がってその身を闘技場の地面へと投げ出した。
「オイ!?大丈夫か!?」
栄治は膝蹴りで翔吾を吹き飛ばした後に、少しやりすぎたと思って直ぐに地面で倒れている翔吾の下へと駆け寄った。
翔吾は、蹴られた脇腹を押さえながらフラフラと立ち上がった。
「少しはいけると思ったんですが、やっぱ、マスターにはかなわないですね。ハハハハハハ・・・」
翔吾は悔しそうな顔をしながら栄治へと笑を浮かべた。
「いや、オマエなかなか良かったぞ。って言うか、オマエ、俺のスキルを模倣したのか?」
「はい」
「よく、初見であれだけ動かせられたな?しかも絶対防御って言うくらいだから、普通、俺のスキルをコピーしたとしても、防御に使って攻撃に使えるとかって思わないだろ?」
栄治は防御スキルを自分と同じ様に攻撃へと使って来た翔吾にとても驚いていた。
「いやぁ〜。模倣した相手のスキルの全容や使い方がなんとなく分かるんですよ・・・それで、咄嗟に攻撃へと流用したんですけど、やっぱりマスターには簡単に対応されてしまいましたね・・・ハハハハハハ」
翔吾は負けたのが相当悔しかったのか、目が笑っていいない笑みを栄治へと向けた。
「おまえ、目が笑ってないぞ・・・どんだけ負けず嫌いなんだよ・・・」
栄治は呆れた顔で、脇腹を抑えて中腰になっている翔吾を見下ろした。
「いやぁ〜。ここでイイとこ見せれば、ワンチャンあるかなって真剣に思っていたんで、マジで悔しいです・・・」
栄治と喋りながら、翔吾は壁の上に座っているルカへと視線を向けた。
それに気がついた栄治は、声を小さくして翔吾へと話しだした。
「オマエ、アレはやめといた方がいいぞ。あの見た目に騙されるなよ。ああ言うナリをしているが、実年齢はアイツと付き合いが長い俺でもいくつなのか分からん。しかも性格に難ありだ・・・悪い事は言わねぇ。アレはやめとけ。あんなヤツを好きになるとか、相当のドMか破滅願望の持ち主だな・・・」
栄治はルカには聞こえない様な声で翔吾へと助言をした。
「それでも、気になってしまったんで、俺は諦めないですよ!いつか絶対に振り向かせてみます!」
栄治は額に手を当てて、ダメだこいつと言った様な感じで肩を落とした。
この栄治との模擬戦の後、翔吾は毎日の様にルカへとプロポーズじみた事をしだす様になった。
それから数ヶ月が経ち、翔吾が何度もルカへとプロポーズをしてボコられると言う光景が、裏ギルドの日常となってしまっていた。
「オイ!エージ!あいつなんとかしろ!本当にしつこいぞ!」
外は既に夕暮れ時となっており、栄治とルカは、カウンター前のフロアの隅にあるボックス席でビールを片手に酒盛りをしていた。
一緒に席にいるヤリクとクレシアは、ルカに絡まれている栄治をみて可哀想にと思いながらも、極力関わらない様に影を潜めていた。
「俺が知るかよ!恋愛は自由だろ!しかも、あいつがここに入る時、俺はオマエに聞いたよな?どうするって?」
「うぅっ!?」
ルカは栄治の言葉に対して、ジョッキを片手に固まってしまった。
「しかも、オマエ、ポイント高いだとかなんだとかいってベタ褒めしてたよな?」
「グっ!?」
「あぁ。確かに言っていたな」
「グハっ!?」
横で話を聞いていたヤリクからの付け足しで、ルカは頭を項垂れて下を向いた。
「ルカ。もう付き合っちゃえば?彼、性格も良いし、考え方もポジティブだからルカにぴったりだと思うよ?」
「ななななななな!?何を言っているんだオマエは!?」
ルカは酒のせいなのか、恥ずかしさからなのか、声を盛大に裏返らせて顔を真っ赤にしながらソファーから立ち上がってクレシアを見下ろした。
「お?噂をすれば。キシシシシシ」
クレシアは、ルカの背後からやってくる翔吾を見つけた。
「ルっカさーん!飲んでるんですか!俺も混ぜてくださいよ〜!マスター!俺も混ざってい良いですか!」
翔吾が現れた事で、ルカは顔を真っ赤にしながら俯いており、栄治達は腕で口元を隠して笑えるのを必死で堪えていた。
「おう。いいぞ少年!混ざれ混ざれ!」
ヤリクは今までの恨みを晴らすかの様に悪い笑みを浮かべながら、翔吾の相席を快く許した。
「ヤリクさん!ありがとうございます!そんじゃ俺、飲み物取って来ますね!皆さん、何か頼みますか?ついでに注文して来ますけど!」
「あぁ、そんじゃ、俺ビールで」
「あ、俺もビール」
「私、ワイン。赤で」
「了解です!ルカさんはどうしますか?」
「わわわわわ・・・」
「わ?」
「こいつもビールでいいぞ」
「了解です!」
注文を聞いた翔吾は、カウンターへと向けて走っていった。
「ヤリクぅぅ!貴様ぁぁ!ーー」
「ーーお、帰って来たぞ」
「ーーヒっ!?」
ルカは楽しそうにしているヤリクにキレようとしたところ、栄治の一言で借りて来た猫の様に急に大人しくなった。
「「「ギャハッハッハッハッハッハ」」」
いきなり潮らしくなったルカを見た3人は、腹を抱えて盛大に笑い転げた。