10. 新たな拠点
その後、鍵を使って拠点としてのダンジョンを作る事が決まり、ヤリクと栄治は拠点に相応しい場所を見つけてきた。
そこは、ギルド本部がある都心とは反対側にある副都心の中にあり、地下駐車場がある空きビルであった。
表は半地下に店舗がある5階まであるビルであり、裏からは地下の駐車場へと入れる様になっていた。
栄治達は、組織のメンバーのコネを使い、その空きビルを買い取った。
現在、栄治達4人はダンジョンを設置する為に空きビルの地下駐車場へと来ており、駐車場の奥ではルカが鍵で作ったゴルフボール程の大きさのダンジョンコアが握られていた。
「ヤリク・・・本当に良いのだな?」
「あぁ。俺が言い出した事だから遠慮なくやってくれ。それに、これでみんなを守れるんだから、たかがスキルを失うくらいどうって事ないさ。それに、今まで通りに人として生きれるんだろ?」
「そうだな。基本、スキルは失うが、オマエはここの中では好き放題やれるだろう。外へも出れるが、オマエが死ぬと、ここは崩壊すると言う事を忘れるな。中にいる人間から少しずつ魔素を吸い取り、オマエはどんどんレベルが上がっていき、階層を増やす事もできる様になるだろう。この中で人が死ねば、より多くの魔素が手に入る。オマエの寿命が近づいた時は、オマエがソレの継承者を選べ」
「あぁ。分かった。それじゃ、やってくれ」
ヤリクの合図と共に、ルカは手にしていたダンジョンコアを駐車場の地面へとゆっくりと置いた。
すると、ダンジョンコアが置かれた地面から、縦、横、高さが1m程の台座がダンジョンコアを上に乗せる形でせり上がり、駐車場全体を眩い光で覆い尽くした。
「今だ!ヤリク!」
ヤリクはルカの合図と共に獣人の姿となり、激しく光り輝くコアを掴んで飲み込んだ。
「うぐっ!?ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コアを飲み込んだヤリクの身体は、真っ白に激しく輝きだし、一際激しく輝いた後にヤリクを中心に、まるで建物全体をスキャンするかの様に光が走り、建物全体を駆け巡った後にヤリクの身体へと全ての光が吸収されてた。
「「「「・・・・・・」」」」
光が収まると、緑色だったヤリクの髪や尻尾は真っ白になっており、ヤリクは何かを思考しているかの様に天井を見つめて佇んでいた。
「ヤリク!大丈夫か!?」
「ヤリクぅ!大丈夫?」
「オイ!?オマエ、真っ白になってるぞ!?」
天井を見つめていたヤリクは、3人が掛けた声によってピクリと耳を動かし、ゆっくりとルカ達がいる方向へと顔を動かした。
「スゲーや。頭が凄いスッキリし、この建物の事が隅々まで手に取る様に分かる。しかも、その中にいるオマエらの情報も、手に取る様にはっきりと分かるぞ・・・」
ヤリクの眼は、今まで茶色だった瞳の中へと4つの白い四角が現れていた。
「ヤリク・・・成功したのか?」
ルカは、豹変したヤリクの姿に驚きながらも結果を確かめる為に声をかけた。
「あぁ。俺は、ダンジョンマスターになった、らしい」
「大丈夫なのか?スキルはどうなんだ?」
「あぁ。綺麗さっぱり消えたな」
「マジかよ・・・」
「だが、それ以上にヤバイスキルを手に入れたから気にするな」
「なにそのスキルぅ?」
ヤリクは満面の笑みで答えた。
「ダンジョン作成と操作だ」
「マジかよ!?」
「成功したんだな!?」
「すっごぉ〜い!」
ヤリクの答えに3人は驚き、ヤリクと同じ様に笑顔になった。
「あぁ。これでこの拠点を潰されたりギルドの奴らの侵入を防げるぞ!」
「よっしゃぁ!」
「やったな!」
「いやっほ〜い!」
栄治はヤリクとハイタッチをし、ルカはクレシアに抱かれて身体を持ち上げられた。
「そんじゃ、早速始めるから俺の体に触れてくれ」
栄治達はヤリクの側へと移動し、ヤリクの身体へと手で触れた。
「いくぞ!【クリエイト】!」
ヤリクがスキルを発動させると、ヤリクへと触れていた栄治達は、ダンジョンの奥で見た様なコアの部屋へと移動していた。
「ここは5層めだな。基本、これからは俺の部屋になる。次行くぞ」
ヤリクが次と言うと、目の前に燦々に輝く太陽と白い砂浜と海が現れた。
「うおぉぉぉぉ!?」
「え?海?」
「綺麗ぇぇぇぇ〜!?」
「ここが4層めだ。とりあえず海にしているが、今後好きに作り変える事ができる。巻いて次行くぞ」
栄治達の視界は、海からミディアで見た事がある様な板張りのフロアとカウンター、掲示板やスタンディングテーブルといった様な景色へと変わった。
「ここが基本的にみんなが集まる場所だ。イメージはミディアのギルドっぽくした。とりあえずだから、不具合がある場合は俺に言ってくれ」
「なんか、懐かしく感じるな・・・」
「そうだな・・・どこか懐かしく感じるな」
「落ちつくぅ〜!」
「それじゃ、次だ」
板張りのフロアだった景色は、どこぞの闘技場の様な場所へと変わった。
「エージ、ここで皆を鍛えられるぞ。必要に応じて広さも変えられる。ほれ」
ヤリクが右手の人差し指を右から左へとスワイプさせると、更に倍以上の広さになった。
「オマエ、神かよ!?」
「あぁ、近ずいたかもなクックックック」
ヤリクは栄治の言葉がツボに入ったのか、楽しそうに笑いだした。
「最後はエントランスだな」
次に移ったのは、まるでダンジョンの様に壁が青く光る薄暗い長い通路だった。
「なんか、ダンジョンみたいな雰囲気だな・・・」
「オマエはバカか?ここはもう、ダンジョンなんだぞ!」
「クックックック。ルカの言う通り、ここはもうダンジョンだな」
「ってことは〜。モンスターもだせるのぉ?」
クレシアはダンジョンと聞いてモンスターを思い出したのか、ヤリクへとモンスターについて尋ねた。
「あぁ。出せるが、その為には魔石が必要になる。オマエらが定期的にダンジョンに行ってモンスターから魔石を取って来てくれれば、オマエらが倒したのと同じモンスターをここにも発生させる事ができる。まぁ、魔石がない場合も、モンスターを発現させられるが、どんどん魔素をため込む必要があるから、魔石を取ってきてもらって、それを使いまわした方が楽だな」
「オマエ、モンスターも生み出せるとか、魔王超えたな!?」
「まぁ、ここだけなんだけどな。そのかわり、今の俺はクレシアの聖槍一発で死ぬぞ。ステータスは一般人と同じくらいにまで下がってしまった。外に出る事もできるが、この拠点の事を考えると、俺はあまり外へと出ない方が良いかもな。まぁ、外に出なくても色々と階層を弄れるから閉じ込められている感もないしな」
「そんじゃ、早速組織のメンバー達を連れてくるか!」
「そうだな。早いに越した事はないな」
「ヤリクぅ!みんなのお部屋作ってぇ!みんなでここに住もうよ!」
「そうだな。4層のビーチ沿いにでも居住区を作っておくわ。その方がゆったりできるだろ?」
「やったぁぁぁぁ!海の見えるお家だぁぁ!!」
クレシアはヤリクの提案に飛び跳ねて喜んだ。
「おっと、そうだ。皆んなにはこれを渡しておく」
ヤリクの掌の上には、真っ黒な3枚のカードがあった。
「なんだコレ?」
3人はいきなりヤリクの掌に現れた真っ黒なカードへと目が釘付けになった。
「コレは、このダンジョンに入る為の証明証だ。このカードは、俺が認めた人間の魔力に反応して利用が可能になる。いわゆる、ここに入る為の鍵だな」
「王国軍やギルドの奴らの対策って事ね?」
「あぁ。そうだ。だが、実際は、このダンジョンに入ってきた全ての人間のステータス情報は俺に筒抜けだ。ここにいる全員のステータスにある名前、年齢、スキルや所属、称号は全て俺が確認できるから、そこにギルドや王国関連の記載があるやつは絶対にここへは入れない。それか、逆に捕まえて情報を吐かせてやる。どこかでこれと同じカードを手に入れても、実際はカードじゃなくそいつ自身を見てるって事だ。いわゆる、ここがダンジョンだと言う事を隠す為のフェイクだな」
「これ以上のセキュリティはないわね・・・」
「オマエに全部知られるとかマジで嫌だな・・・全部分かるんだったら、ルカの年齢教えろよ」
「あ、それ私も気になるかもぉ」
「オマエ、言ったら殺すからな」
ルカは右手に紫電を纏わせてヤリクへと向けた。
「はい。絶対言いません。って言うか、俺を今までと同じノリでど突くのやめろよオマエら!今の俺は一般人と同じくらいなんだからな!俺が死んだら、マジでここ崩壊するからな!」
「クっ・・・それは確かにまずいな。ヤリクがダンジョンマスターになった事は絶対に言うなよオマエら」
「あぁ。分かった」
「そんなの絶対言わないよぉ。ヤリクが死ぬの嫌だし!」
「すまないなヤリク。オマエにだけこんな事をさせてしまって」
ルカはヤリクへと悲しそうな視線を向けた
「そんなしみったれた顔すんなよ。コレは俺が考えた事だし、皆んなを守る役に立てるんだ。それに、俺が誰かにコアの譲渡をすれば俺はダンジョンから解放されるし、何も問題ねぇよ」
「ヤリク、オマエの分まで俺達が暴れてきてやる。だから、オマエはこれからみんなを守ってくれ」
「あぁ。頼んだぜ勇者様」
こうして新たな拠点を手に入れた雄太達は、早急にヤリクのダンジョンへと拠点を移した。
ヤリクがダンジョンマスターになった事により、組織は安全に戦力の拡大ができる様になった。
更に月日が流れ、組織へと王国の犠牲となった新たなメンバーが入ってきた。
「うわっ!?何ここ!?すっげぇな!?」
20代半ばの青年は初めて来た組織の拠点を見て盛大に驚き、見た事がない光景へと楽しそうに声を上げていた。
カウンターには、短い丈の和装の女性達が受付をしており、青年は組織への参加の為に手続きをしていた。
「すみませーん。屋島の爺さんから紹介されてきました」
「では、紹介状の掲示をお願いします」
「あ、はい!コレですコレ!って言うか凄いですねここ!」
青年は受付嬢へと紹介状を渡し、スタンディングテーブルがある大勢の人で賑わっている広大なフロアから目が離せなくなっており、少年の挙動を見ていた受付嬢は青年へと優しく微笑みかけていた。
「はい。確かに我が裏ギルドへの紹介状ですね。お名前は橘花 翔吾様で宜しいでしょうか?」
「あ、はい。橘花 翔吾です!」
「では、当裏ギルドのマスターとの面接がございますので、隣のお部屋へとお向かいください」
和装の受付嬢は、カウンターの右側にある扉を指差し、翔吾へと向かう様に促した。
「了解です!」
翔吾は受付嬢に言われた通り、カウンターの右にある扉を開けて室内へと入っていった。
コンコン
「失礼しまーっす」
翔吾はノックをし室内へと入ると、そこには50代の日に焼けた男と、20代後半に見える若い女性がソファーへと座っていた。
「おお。よくきたね。詳細は屋島から聞いているよ。まぁ、気楽にかけてくれ」
翔吾は日に焼けた男に言われるまま、向かいのソファーへと腰をおろした。
「あなたが屋島の爺さんが言っていた、木下 栄治さんで?」
「あぁ。俺がここのマスターをしている木下 栄治だ。屋島は元気にしてるか?」
「はい!うっとおしい程元気すぎてます!」
「そうか。元気そうでよかった」
「すみませんが、そちらの方は?」
「あぁ。スマンスマン。紹介するのが遅れたな。彼女はルカと言う。俺の補佐的な事をしてもらっている」
「ルカだ。はじめまして」
「あ、はい!はじめまして!」
翔吾は栄治の横に座っている色白でキリッとした目つきのルカへと目が釘付けになってしまっていた。
「話は屋島から聞いているよ。災難だったな」
「・・・はい。ギルドの指名依頼によってダンジョンの最奥まで調査に行かされた挙句、モンスターを引きつける為のお取りにされてパーティーメンバーを全員失いました・・・アイツら・・・仲間を助ける素振りもなく、1人になった俺をダンジョンに置き去りにして逃げやがって・・・」
翔吾はギルドにやられた事や死んでいった仲間の事を思い出したのか、握りしめる拳からは血が滴り落ちていた。
「それで、ギルドへと復讐をしたいと?」
「それもありますが、ダンジョンに置き去りにされて1人になったところを屋島の爺さんに助けられ、俺は、屋島の爺さんに恩返しがしたいです!もっともっと力をつけて、俺を助けてくれた屋島の爺さんの様に誰かを助ける役に立ちたいです!」
「・・・そうか」
栄治は翔吾を見ながらルカへと声をかけた。
「どうする?」
「私は良いと思うが?彼、面白いスキルも持っている様だし」
栄治はフゥ〜っと鼻から息をはいて口を開いた。
「まぁ、オマエがそう言うんなら良いだろう。よしっ!君をこの組織へと歓迎しよう」
「あ、ありがとうございます!俺、もっともっと強くなるんで!」
「それじゃ、君へと一つ秘密を教えよう」
「え?秘密?」
栄治は、翔吾へと屋島は異世界から来た人間と言う事を告げた。
「・・・本当ですかそれ?確かに、あの歳でありえない動きしてるし、って、え?嘘ですよね?」
「まぁ、今後君が強くなってくれれば他にも色々と我々の秘密を話すだろう。それまで、屋島を超えれる様に頑張ってくれたまえ。はっはっはっは」
「えーっと、橘花、さん?」
「は、はい!」
「それじゃ、表の受付にこれを渡してくれるか?」
ルカはテーブルの上へと黒いカードを置いた。
「え?これは?」
「コレはメンバーに渡している裏ギルドのメンバーカードだ。受付に渡せば君を登録してくれる。コレがないとここへは入れないからなくすんじゃんないぞ?」
「は、はい!コレからお世話になります!」
翔吾は部屋から退室した後、カウンターで受付嬢へとカードを渡し、裏ギルドの依頼の受け方や仕事についての説明を受けた。
翔吾が部屋から出た後、栄治はルカと話をしていた。
「どうだった」
「コレから伸びていくと思う。それと、復讐じゃなくて、強くなって人を助けたいって言うところはポイント高いな」
「おぉ!?ルカが人を褒めたの初めて見たぞ!?オイ!ヤリクぅ!今の聞いたか!ルカが初めて人を褒めよったぞ!」
「あぁ。俺もびっくりしたわ・・・明日、この世界が終わるんじゃねぇか?明日は気をつけろってクレシアにも伝えないとな・・・」
栄治が虚空へと声を上げると、どこから現れたのか、1人の白髪の線の細い男が栄治の対面のソファーへと腰を下ろしていた。
「オマエら、そんなに死にたいのか?」
ルカは右手へと紫電を発現させてソファーから立ち上がった。
「ヤリク!逃げろ!急げ!」
栄治の言葉を聞いたヤリクはソファーから瞬時にその姿を消した。
「ほう、なかなかの仲間思いだな。勇者よ。と言う事は、オマエがヤリクの分も受けると言う事で良いんだな?」
「いや、マジで落ち着け!そんなもんーーあばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!」
栄治はルカの電撃が迸る右手によって肩を触れられ、盛大に感電し、栄治の声は部屋の外へと盛大に響き渡った。
「な、なんなんですかあの声は!?」
受付嬢と話をしていた翔吾は、いきなり聞こえてきた栄治の大声へと吃驚していた。
「なんでもないのよ。いつもの事だから。マスター、またルカ様に悪さしたのね・・・」
こうして翔吾は栄治率いる裏ギルドへと入ることになった。