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ニューゲームはハードモード  作者: 笹葉きなこ
第一章 風の神殿
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少女ステラ

 クランさんの回復、巨大イノイノの討伐を祝うパーティーの最中、宿屋のドアについている鈴がカランカラン、と来訪者の存在を告げる。


「ただいまー」


 そう言いながら赤髪の少女が入ってくる。


「あ、お帰りステラ」


 ステラと呼ばれた少女はリズに軽く手を振ると、私たちを見て固まる。


「げ、まさかあんた達ペンダントを取り返しに来たのか?」

「取り返しに来たって?」

「あ、いや知らないならいいや。何でもない、忘れてくれ」


 そういうとその少女は慌てて宿を出ていく。


 あの少女、どこかで見たような……。

 この世界に来てからの少ない記憶をたどる。でもイベントなんて宿を出て神殿に行ってこの村に来たくらいで特にこんな少女が出てくる場面なんて……。


「あー! ベグニの街で川田君と衝突した子だ」


 私は慌てて宿を出て追いかける。


「待って、もしかしてあなたがペンダンt……」

「いいや、アタシじゃないね。赤い花のペンダントなんて知らないね」

「もしかして、バカってよく言われない?」


 私の後に続いてきた川田君があきれた顔でそう言う。コイツにバカ呼ばわりされるなんてかわいそうに。事実だけども。


「なんでそれをっ。はぁ、まぁばれたんなら仕方ないな、あれはもう売っちまったから手元にはないよ」

「どこで売ったの? 取り返しに行くから教えて」

「それは教えられないな」

「なんで、教えてくれないんだよ」


 川田君が少し怒りを込めて言う。あれがないと私たちは途中でその世界に出ることができないのだ。


「いいや、教えられないね」

「そんなこと言わないで教えてあげてよ、ステラ。その人たちは私の恩人なの」


 私たちが騒いでいると、宿から出てきたリズちゃんがステラちゃんに説明を始める。それを聞いたステラちゃんは、


「リズにそう言われちゃな……。わかったよ、明日案内する。ベグニの街の裏店に」


 と案内してくれるらしい。


 その後のパーティーはステラちゃんも参加して行われた。


 次の日の朝、私たちはステラちゃんに連れられてベグニの街へ向かう。ハウトは書類を書くためにもう一度森に行くと言ってついてこなかった。


 道中でステラちゃんが、


「ベリー家のみんなには盗みをやってることは伝えてないんだ、できれば内緒にしていおいてほしい」


 と口を開く。昨日の夜も騒いでいたがリズちゃんが聞いたのは後半からで、前半の部分は聞いていなかったらしい。


「ステラちゃんはなんでそんなことを?」

「ちゃん付けはやめてくれ、気持ちわるい」

「……じゃあなんでステラはそんなことを?」

「アタシはあの家の子じゃないんだよ。自分の金は自分で稼ぎたい。だからだ」

「でもリズは妹って言ってたぞ?」

「……私は拾われっ子なんだ。髪の色も全然違うだろ」


 ステラは短い髪をいじりながら、そのまま続ける。


「アタシは物心ついた時にはもう路地裏に一人だったんだ。そこをベリー一家に助けてもらって今に至るってわけだ。感謝はしてるがこれ以上あの家に迷惑はかけたくないんでな。自立できる分の稼ぎをどうにかしたかったんだ」

「それでそんなことを……」

「昨日のペンダントで必要な資金はたまったからもう家を出ていくつもりだったんだけどな、やっぱ悪いことって上手くいかないんだな」

 乾いた笑い声を出してステラは笑う。


 ──


 私たちはステラの案内の下、裏店に向かう。


「昨日のペンダント返しに貰いにきた」

 

 そういいながらステラが店に入る。

 しばらくした後、


「そんなことは無理だっ」


 と店内から怒号が聞こえてきた。


「なんでだよ、金なら出す」


 ステラが強めに言い返すのが聞こえてくる。ドアが開いたままなので店内に入っていない私達にも会話は聞こえてくる。


「無理なもんは無理だ。どうしてもっていうのなら遥か北の山のクリスタルゴーレムの核でももってこい」

「は? その意味わかってんのか?」

「それくらいあのペンダントに価値があっただけの話だ。昨日の金じゃあのペンダントは返せない。どうしてもというのなら、クリスタルゴーレムの核だ。これだけは譲れない」

「話にならないっ! 」


 言い争いが一段落したタイミングでステラが店を出てくる。


「すまねぇ、どうやらアタシじゃ取り返せそうにない」

「クリスタルゴーレムの核ってなんだ」


 ゲームに詳しくない川田君が聞いてくる。


「この大陸の北にあるクリスト山にいるモンスターが落とすアイテムだね。それもレアドロップ」

「あんなとこにアタシみたいなやつが言っても殺されて終わっちまう。それをあいつはやって来いって言ってきたんだ」

 

 ステラは、つまり返すつもりはないってことだ、と悔しそうにつぶやく。


 クリスト山はベグニの街から遠く、さらに出現するモンスターも強い。ちなみにクリスト山もマップがないダンジョンの一種で、クリスタルゴーレムの核は幻のアイテム扱いをされている。


「うーん……、分かった。ステラ、わざわざここまでありがとう。後は私たちで解決するね」

「は?」

「私たちでクリスタルゴーレムの核を取りに行くから」

「そんな危ないこと他人に任せっきりにできるか、それならアタシもついてく」

「いいの? 危ないんだよ」

「原因はアタシだからな、さすがにここで手をひいたらいけないと思うから」


 根は悪い子じゃないのかな、なんて思う。

 まぁそんなわけで、ステラは私たちと一緒にクリスト山に向かうことになった。

 ……最終的に目指すところはクリスト山ではなく世界を救うことなんだけど、ちゃちゃっとペンダントを取り換えしたタイミングで外に出たいので、一旦の目標としてちょうどいいかもしれない。


「ちょっと待っててくれないか。みんなにしばらく帰らないって伝えて来たいから」

「うん、わかった」


 私が承諾するとステラはクストの村に向かって走っていく。


「いい子だな」

「あの年で自分の言動にあそこまで責任を持てるのは凄いよね、私だったらたぶん無理」

「奈々ちゃんも優しいと思うけどな」

「なんで?」

「あの子に行かせるんじゃなくって。自分で行くって言ったから。危ないんだろ?」

「まぁそうだけど……」

「奈々ちゃんもしっかりしてるよ」

「……なに? ありがとう」


 ずいぶん持ちあげられてので少し気恥しくなってしまう。


「はい、じゃあ折角街に来たわけだし装備でも物色しようか、巨大イノイノ倒した素材もあるし色々買えるんじゃない?」


 ちょっと強引に話題を切り替える。

 うまくいったので、ステラが戻ってくるまでの、きっと積るお話もあるだろうから、待っている時間は装備の物色時間になった。


 女子の服を選ぶ時間は長いって言うけど、男子が武器を選ぶ時間もえらく長かったことだけ言っとくね。

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