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ニューゲームはハードモード  作者: 笹葉きなこ
ゲームの世界へようこそ
4/12

クストの村へ

 ラビィを十匹ぐらい倒したところで日が傾き始めた事に気付く。

 日が暮れ切ってからの移動は危ない、とういうことで私たちは移動を再開した。


 ラビィ戦に関しては、私はあの後に一回も戦わず、川田君がずっと戦っていた。川田君は最初のころはむやみやたらに短剣を振り回していた感じだったけど、後半はハウトの助言もあってか、そこそこ形になっていたと思う。……素人目で、だけども。ドロップアイテムはお肉の他にしっかり回復草と毛皮も落としてくれた。よかった。 


 移動を開始してから二十分経たないくらいでクストの村が見えてきた。


「おっ、なんか家が見えてきたぞっ? あれがクストの村か?」

「そうですね、あれがそうです。寄り道をしていたので少し時間がかかってしまいましたが」

「あれはいい経験になったから全然大丈夫だぜっ! 」


 そんな話をしながら村の方を少し見渡してみる。やっぱりといったところか、ベグニの街に比べて建物も低く、木造建築が多い。さすが農村。そして村から少し離れたところにクストの森が見える。ゲームではあそこの森にチュートリアルとして入る。森には村の畑を襲うイノシシのモンスター、『イノイノ』が主に住んでいる。他に村人を困らせる例の猿のモンスター、『マカキル』も住んでいる。

 そのまま周りを見ていると森の入り口あたりに人影が見えた。


「あれ? ちょっとあそこ見て! イノイノに女の子が襲われてるっ! 助けないとっ」

「急ぎましょう!」


 私が大声を上げるとハウトも気が付いたようだ。私たちは少女の方へ駆け寄っていく。

 少女を追いかけるイノイノは1匹、数が多くはないのが幸いだ。ただ、ここからだと若干距離があるのがつらい。少女は走って逃げているが、ぐんぐんと距離を詰められている。追い付かれるのはもうすぐだ。と考えた次の瞬間に少女が転んだ。つまりは、イノイノに追い付かれるわけで……


 もうだめだと私が思った時にはハウトが魔法を唱えていた。


「ディフェンジョンカウンター‼」


 その直後、少女の周辺には薄い膜が張られたのが見えた。イノイノはその薄い膜に直撃し、ダメージを受ける。そしてそのまま薄い光を出し始め、消滅した。


 ディフェンジョンは受けたキャラの物理耐性を上げる魔法、ディフェンジョンカウンターは受けたキャラが物理ダメージを受けずに、攻撃する側がディフェンジョンカウンター貼られた人が本来受けるはずだったダメージを受ける魔法だ。どうやらこの世界でも魔法は使えるらしい。まぁ、ハンターは魔法より物理が多いのであまり関係ないかな。


 それと同時に少しゾッとした。イノイノが一撃で沈むダメージを受けたということはもし少女がそれを受けていたらひとたまりもなかったということだ。恐ろしい。私たちも気を引き締めていかないと危ない。


 私たちは少女のもとへ駆け寄った。少女は髪とおそろいのベージュ色のワンピースを着ていた。ところどころ破けている。森の中で引っ掛けたのだろうか、必死に逃げてきたのがよくわかる。膝にも少し擦り傷がある。これは最後に転んだ時にできたみたいだ。血が軽くにじんでいる。


「よくここまで逃げてこられましたね、もう大丈夫です。ライトヒール」


 ハウトがまた魔法を唱える。ライトヒールは回復系の魔法だ。これは回復量が小さいものの、消費魔力が少なくて済む。擦り傷程度ならこれで十分らしい。


 七色の橋では魔法を使うときにMP(マジックポイント)を消費する。これはポーションなどで回復できるのでそこまで神経質になる必要はないが、取っておくに越したことはない。なのでハウトも弱い回復呪文を使ったのだろう。

 強い魔法ほどMPを多く使う。それはそうといったところだ。このゲームは魔法を使う際にグレードを選ぶことができる。同じ魔法でもMPの消費量を変更することで威力も変更することができるのだ。ただ同じMPを使うのであれば当然上位魔法の方が威力は強い。例えばMPを10使う強めのライトヒールと、MPを10使う通常のヒールでは後者の方が回復量は多くなる。それが上位魔法の強みである。なかなか覚えるまで育てるのが大変だったりするけど。


「ありがとうございますハウトさん、おかげで助かりました。」


 少女はお礼を言うとともに頭を下げた。


「いえいえ、無事で何よりです。それに最初に見つけてくれたのはナナさんですから、彼女にお礼を言って下さい」

「ナナさんもありがとうございました。」

「どういたしまして。ところでなんであんなところでイノイノに襲われていたの? 」

「実は……」


 彼女が森に入ったのは、母親が病床に伏していて薬として使える草がほしかったから、だそうだ。普段は他の女の子と一緒に薬草を取りによく森に行っているが、今日はその子がいないから一人で入ったらイノイノに襲われてしまった、ということらしい。


「いつも二人で行ってるときは安全だったから気を抜いてしまいました……」

「きっとその子が索敵がうまかったんだね。今度から気をつけてね」

「はい、そうします……」


 どうやら私はハンターらしいので、それっぽい言葉をかけておく。


「ではとりあえず村に向かいましょうか」

 ハウトが仕切りなおすと、私たちは村に向かって再び歩を進め始める。

 


 村の入り口についたときに、先ほどの少女が口を開く。


「今日はこの後どこかに向かう予定はありますか? 」

「私は今日はもうどこかに行くつもりはないかな。ところで名前を教えてくれない? わからないとちょっと不便だから」


 私は質問に答えるとともに彼女の名前を聞く。


「あっ、すみません。私はリズ・ベリーと言います。

 それでなんですけど、今日はもうどこにも行かないのでしたらうちに泊まっていきませんか? うち宿屋なんですよ、宿屋ベリー。ぜひ今日のお礼をしたいんです」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」


 私はそう答えるがハウトは、


「申し訳ありませんが、僕はこの後まだやることがあるので。……村にも着いたことですし、ここで失礼しますね」


 と言って断った。そしてそのまま森へ向かって行く。村に行って休む間もなく森に行くだなんて大変だな。というかそんなに忙しいのについてきてくれたことに感謝せねば。


 そこから歩くこと数分、クストの村に着いた。


「こちらが宿屋ベリーです。少々お待ちください。お父さーん」


 リズちゃんはそう言いながら建物へ入っていく。しばらく小声の話声が聞こえてくるが、突然怒号が聞こえてくる。そしてドタドタと走ってくる。


「すみません、うちの娘がお世話になりました。何とお礼を言えばいいのやら。大したおもてなしもできませんがぜひ泊って行ってください」


 さっきまで怒っていたのがよくわかるくらいに真っ赤になっているお父さんが出てくる。その後ろに体を縮こませているリズちゃんもついてきている。


「お言葉に甘えさせていただきますが……。えっとリズちゃんは……」

「あぁ、勝手に一人で森に入っちまったからな。危ないって言ってたのに、全く」

「あはは……、なるほど」

「では疲れてるだろうし、とりあえず部屋に案内する。俺はブルル、ブルル・ベリーだ。改めてうちの娘を救ってくれたことに感謝する」


 私たちは宿の部屋に案内される。気を使ってくれたのか、二部屋用意してくれた。


「夕御飯が用意できたら呼びに来ますので、どうぞごゆっくりして下さい」


 リズちゃんがそう言ってドアを閉める。


 ふぅ。私は一息つきながらベッドに腰を掛け、そのまま寝っ転がる。ふかふかのベッドが私を包み込んでくれる。急に疲れが襲ってくる。今日は色々なことがあった。と言っても一回ベグニの街で寝ていたので一日と言っていいのかわからないが。

 学校帰りにおばあちゃんの手伝いをしたというのが遠い記憶だ。どうせすぐに帰れるとかも考えていたがどっかの誰かさんがペンダントをなくしてしまったおかげでこんな目に……。こっからクリアまでにどれくらいの時間がかかるのか……。自分たちで移動することを考えると一ヶ月くらいかかりそうな予感がする。この先どんなイベントがあるかといったことに思いを巡らせているとウトウトしてきた。


 ──


「失礼します。ナナさん、夕ご飯ができましたよー」


 リズちゃんのその呼びかけで私は目を覚ます。どうやらそのまま寝てしまっていたらしい。


「はーい」


 返事をしながら立ち上がり、部屋の入り口にいるリズちゃんのもとへ向かう。


「今日のご飯は頑張ったんですよー」


 元気にリズちゃんが言ってくる。


「リズちゃんが作ったの?」

「はい! 腕によりをかけて作りましたよ!」

「ふふ、それは楽しみだな」


 食堂に近づくにつれていい匂いがしてくる。これはかなり期待値が上がってくる。


 食堂に着くとすでに隅の席に川田君がついている。テーブルの上にはシチューやパンが並べられている。

 他の席にもちらほら人がいる。クストの村人も夕ご飯だろうか串焼きやピザといった料理を食べているのが目についた。

 私はそのまま川田君が座っているテーブルへ向かう。


「ラビィのお肉のシチューです。どうぞ召し上がれ」

「はい。いただきます」

「いただきまーす」


 私たちはテーブルの上に並べられた料理を口に含む。


「うっまー!!」

「おいしい!」


 私はシチューを、川田君はパンを食べた。柔らかく煮込まれ味も染みていて口に入れるととろけていく。とってもおいしい。パンも焼き立てなのか、カリカリのふわふわでとってもおいしい。




「ごちそうさまでした」

「おそまつ様でした」


 食器を下げちゃいますねと言ってリズちゃんは席を立ち、食器を厨房へもっていき、すぐに戻ってくる。


 その後はしばらく雑談をしていた。


「食堂はいつもこんな感じなの?」

「いえ、いつもはもうちょっと村の人や冒険者さんが来てますね。冒険者さんが少ないのはよくわかりませんけど、村の人は母が病気なのを知っているのであんまり来ない感じですね。」

「なるほどね。」

「リズの母さんの容体はどうなんだ?」


 川田君がリズちゃんに突っ込んだことを聞く。


「あんまり芳しくないですね。ステラが居れば森に薬草を取りに行ってもらえるのに」

「ステラ?」

「あぁ、私の妹です。勘と運動神経が結構いいからサクサクっとクストの森に入って薬草採取してこれるんです」

「それはすごいな」

「今はベグニの街に出てていないんで……。だから自分で薬草とれたりしないかなって」

「なるほど……」


 だから一人で森から出てきたのか。普段は大丈夫だったのもステラって子がいたからか。


「まぁ安静にしてればすぐに良くなりますよ」


 立ち上がりながらリズちゃんは、


「辛気臭いお話はこれで終わりにしましょ。お風呂も用意してありますし、お疲れでしょうし、今日はこれくらいで」


 と言ってリズちゃんは私たちに席から立つように促す。


「着替えは部屋においてあるんでそれを使ってください。今着てるものを洗いたかったらお風呂場備え付けの洗濯壺で洗ってください。」

「洗濯壺?」


 初めて聞く単語が出てきたので私は聞き返してしまった。なんだそのアイテムは。


「洗濯と乾燥までしてくれる魔法の壺です。魔石を使って動く魔道具の一種ですね。あんまり人に着てるのもを触ってほしくないって方も多いので設置してます。服自体に秘密を隠してる冒険者さんもいらっしゃいますので」

「そんな便利な道具が」

「ふふ、結構レアなアイテムなんですよー」


 どや顔でリズちゃんがそういう。

 この世界にはゲームにないアイテムもあるらしい。そりゃそうか、いくらゲームの中の世界とは言え生活があるのか。


 その後私たちは洗濯壺の使い方を教わり、お風呂も済ませる。お風呂を上がるタイミングはバラバラだし、部屋もバラバラなのでこの日はもう川田君と会うことはないだろうと思い、一応おやすみなさいも言っておいた。


 一人の時間ができた私はまた思考を巡らせる。洗濯壺か……。この世界は魔石にもいろいろな使い方があるのか。ゲーム内だとモンスターがドロップしたりダンジョン内の宝箱から出てきたりする魔石。そして道具屋で売ったり合成の素材に使ったり、戦闘中に攻撃アイテムとして使ったりすることができる。道具屋に大量に売っても需要とかあんのかなって思ったりしてたが需要はあるらしい。どうやらゲームをしてるだけでは気づけない物事の整合性は意外と取られているかもしれない。これまた複雑なことになっていそうだ。


 等といったことを考える。その間にお風呂からも上がるし、洗濯壺に放り込んだ服も取り出す。寝巻に着替え部屋に戻る。考えなくちゃいけないことが多くて困る。ベッドに戻ってからも私は思考を巡らせる。そして気が付いた頃にはまた眠りに落ちていた……。



 ──


 私はふと目を覚ます。廊下で誰かが歩く音が聞こえてくる。何だろうと思いドアを開け外を見る。すると驚いた顔をしているリズちゃんがいる。


「見つかっちゃいましたか……。この時間ならばれないかなって思ったんですけどね」


 少し残念そうな顔をしてリズちゃんはボソリと呟く。


「薬草取りは諦めますね、あはは」


 リズちゃんはそのまま一人で部屋に戻ろうとする。


「薬草探し、私も付いていこうか?」

「いいんですか?」


 私がそう言うとリズちゃんは嬉しそうに言う。こんなに人目を盗んでまで薬草を取りに行こうとする少女を放っておけるほど薄情者でもない。


 という訳で早朝未明のクストの森探索が始まった。



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