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ニューゲームはハードモード  作者: 笹葉きなこ
ゲームの世界へようこそ
2/12

祝福を受けよう

 目が覚めると私は知らないベッドの上にいた。状況を理解するまで少し戸惑ったが、それでもすぐに分かった。七色の橋の始まりの宿のベッドに私はいるんだ。


 始まりの街ベグニ。七色の橋の中でも大きい方であるこの街には、ベグニの大神殿という場所がある。ゲーム開始後に最初に向かうのがこの神殿。で、ここでゲームをサポートしてくれる妖精を召喚できる。妖精には八つの属性があり、その中から一つだけを選べる。

 光属精(こうぞくせい)闇属精(やみぞくせい)炎属精(えんぞくせい)水属精(すいぞくせい)風属精(ふうぞくせい)土属精(どぞくせい)鋼属精(こうぞくせい)・最後に無属精(むぞくせい)の八属精。

 無属精以外の妖精は、基本的にその属性の能力を高めてくれる。炎属精を選ぶと炎タイプの攻撃力や防御力が上がる。その属性の攻防が強くなるってわけだ。


 しっかし、実際にこう宿の中に入ってみると木の香りとか、外の喧騒とか、意外と感じるものが多かった。天井とかも実は見たことがない。

 なぜならゲームは見下ろす形だからだ。ゲームでやっているときは、BGMとコマンドの操作音とコントローラの音しかしないのに対し、自分の五感で世界を感じられるので新鮮でなかなか楽しい。

 学校帰りだった私のバックは無くなり、代わりに腰付けのポーチがあった。中を覗いてみるとかなり広かった。どうやら異空間とつながっているらしい。さすが冒険者のバック。これならいくらでも持ち物を持てるわけだ。ポーチの中にはおばあちゃんから貰ったペンダントが入っている。


 ペンダントを見ながらおばあちゃんに注意されたことを思い返す。


 「じゃあ、注意点だけ説明しておくよ。

 まずは、物語のなかにいるときにしていけないこと。物語を大幅に変えるようなことはしちゃならないよ。 たとえば、赤ずきんちゃんの世界に行ったとする。そうしたら、狼が家に着くより先に赤ずきんちゃんが家に到着しちゃならない、物語が変わってしまうから。これが起こると物語の巻き戻しが発生する、気を付けておくれね。

 二つ目は時間に関して。物語の世界にいるときはこっちの世界の時間は進まない。基本的にいくらいても大丈夫だね。まぁ一度にあんまり長い時間いることはおすすめしないけど。

 最後に物語から出る方法。これは簡単さね。ペンダントを掲げて外に出たいと強く願えばいい。注意点はこれくらいだね」


 とりあえず初回は早めに帰ることだけ覚えておけばいいかな、どうせ短時間で大きく物語が進むとは思えないし。

 楽観的に考えながら、川田君が起きるのを待ちながら、部屋のタンスを調べたり、花瓶の中を見てみたり勇者ごっこをする。

 一通りのことが終わる頃には、寝ていた川田君が起きてきた。彼は寝起きが悪いのか、かなりぼんやりしていた。


「おはよう、川田君」

「あー、おはよ、奈々ちゃん……ここどこ?」


 寝起きでも奈々ちゃん呼びとは何事だ、いつもそれで呼ばれていたのか。

 ……まぁそれは置いといて。


「ここはベグニの街の始まりの宿屋。これから神殿に行って妖精の祝福を受けにいくよ」


 場所とこれからやることを軽く説明する。


「ベグニ……? 宿屋……? 妖精の祝福って……」


 何もわかっていない様子でそう呟きいた直後、やっと現状を理解したのか、


「あー!!分かった!!ゲームの中か!!納得だわ!!これやばいな!!すっごいリアルじゃん、チョー楽しみ」


 と、テンションが爆上げだ。さっきまでのテンションがまるで嘘のよう。


「それじゃ準備したら出発するよ」


 と軽く身なりを整えてから、私たちは宿の外に向かった。


「ところで神殿ってどこにあるの?」


 二人で街を歩いていたら川田君に質問される。


「街の中心だけど……もしかして、川田君七色の橋やったことない?」


 そう、この質問はゲームをやっていたら絶対に出てこない。

 このベグニの街は、始まりの街であると同時に、冒険の拠点になっている。ゲームをやっていれば必ず何回も来るはずだ。それなのに街の構造を知らない。なんなら最初の祝福のことすら知らなかった。


「あー、うん、やったことないだわ、ごめんな」

「ならなんで一緒に来たの……」

「楽しそうだったから?」


 コイツやっぱり適当だな。どうしても少し苦手だ。


「まっ、やってれば何とかなるでしょー」


 そんな私の胸中を知ってか知らずか、こいつは能天気に言い切った。

 まぁ事実でもある。魔法で世界に来ている以上ストーリーはしっかり追えるはず。例えば、ももたろうの世界に入ったのに、鬼を退治できませんでした、なんてあったらたまったもんじゃない。悲しくなっちゃう。

 なんやかんやで歩いていると、ベグニの街の大通りに出た。


「おぉ、あれが神殿か、でっけぇ!!」


 川田君が興奮するのも仕方ない、ベグニの神殿が目の前に見えるから。

 大通りに出ると街の中心にある神殿が見える。

 大通り、といってもこの街は円形になっているからいくつかあるが、そのすべてがあの神殿に続いている。神殿の周りに街が作られた形かな。

 道に沿って白を基調としたレンガで作られた建物が並んでいる。屋根の色は赤や緑、青色と様々な色をしている。ところどころ露店もありかなりにぎわっている。


「なんだあれ! 剣が並んでる! かっこよくね!?」

「あー、あれね、鍛冶屋。ああいう武器を売ってるの」


 川田君が武器が並べられている店を指しながら叫ぶ。


「少し見てく?」

「ちょー見たい」


 一瞬で見ていくことになった、子供か。


 店に向かって歩き始めると、


「おっと、すみません」


 川田君が通行人に当たってしまった。改めてゲームとの違いを認識した。ゲームだったら当たっても特に何もない。しいて言うなら効果音が出るくらいだ。


「あ、いえ、大丈夫です」


 大丈夫とは言っているが、当ってしまった人は川田君側に倒れこむ。川田君がぶつかってしまったのは小柄な人だった。フードをかぶっていたので前が良く見えなかったのだろうか。ぶつかった衝撃でよろめいてしまっていたが川田君がしっかり支えてあげたおかげか、地面に倒れることなく済んだ。その後その人はやや小走りでどこかへ行ってしまった。走り去る途中でフードがめくれ、赤色の髪が目に映る。が、辺りにいる人の髪色も様々な色なので特に珍しくはないのかと思った。


 歩いている時に聞こえる周りの会話。

 少し舞う土煙のにおい。

 太陽の日差し。

 焼き立てのパンのにおい。

 どれもゲームだと感じなかった。改めてゲームの世界に入ることの素晴らしさを実感した。

 

 それはともかく、


「川田君気を付けてよね、危ないんだから」

「おう、すまんすまん」


 ぶつかってケガをしました、なんて事になったらやる気が削がれる。たぶん魔法とか道具とかで治せるだろうけど、まだその段階じゃない。とりあえず妖精の祝福を早く受けに行きたい。


「とりあえず、鍛冶屋をみたらすぐ行くよ」


 それから鍛冶屋を離れるまでには時間がかかった。

 なぜかって? そりゃ川田君が離れないからに決まっている。なかなか離れてくれなかった。今度来るときは一人でこようと決心する程度には。また、それから神殿に行くのにもすっごい時間がかかった。大通りのいたる所に引っかかるからなかなか進まない。祝福を受けたあとでまた来られるって言って何とか真っ直ぐ神殿に向えるようになった。


 神殿が近づいてくると、神聖な雰囲気がガンガン伝わってくる。なにかが居そう、そんな感じだ。

 そして、私は圧倒的な場違い感を覚えている。


 ベグニの神殿は『始まりの神殿』と呼ばれている。すべての冒険者がここで妖精の祝福を受けるから。ここでただの旅人だった人たち、農家だった人たち、兵士だった人たち、そういった人たちが正式に冒険者として認められる。だからそのまま旅に出ても大丈夫な格好をしている。

 それに比べて私は……学校指定の制服だ。


 なんかもう目立つなんてもんじゃないよね。周りはみんな鎧とかローブとかしっかりしたものを着て、剣とか杖とかを持っているのに、私たちは制服。なんなのこれ、嫌がらせ?

 私が今着ているのは学校指定のセーラー服。下は紺を基調としたスカートだ。川田君はというと学ランを着ている。周りの人の髪の色は様々なのに対し、私は真っ黒、これも浮いてしまっている。川田君は染めているのだろうか、茶髪なので悪目立ちはしていない感じでちょっとうらやましい、学校では悪目立ちしているけどさ。

 でもまぁ、そういった浮いている感覚に負けないで神殿に向かう。


 「神殿で祝福されるとどうなるの?」


 途中で川田君に聞かれる。

 神殿で祝福を受けると妖精の補助を受けられるようになる。それで正式な冒険者として認められる。冒険者になると各地で旅の助けになる補助を受けられる。ギルドや宿、馬車を安く利用できる。まぁこれは冒険者としての活動に応じてだけどね。ゲーム後半になるほど色々できるようになる。

 で、一番大きいのが、勇者になる権利を得ることだ。権利を得ると言ってもすぐになれる訳じゃない。一定以上の能力が必要になっている。接近戦から、回復や補助、攻撃の魔法、そして妖精との連携が必要でなかなか大変。すべてをバランスよくこなし、しっかりパーティーを支えられる人が勇者になれる。

 まぁつまり神殿に行くと色々できるようになるってこと。だから早く神殿に行きたい。ゲームだったらチュートリアルもかねて最初に行くところだ。


 神殿に入るとチンピラみたいなやつらに声をかけられた。


「おいおい、今の時代、あんたらみたいなのでも冒険者になれるのか? 流石にやめとけよ」

「あぁー、やっぱこうなるか……」


 私はあきらめたように呟いた。こんな格好をしていたらこうなってもおかしくない。


「何言ってんだ嬢ちゃん、そんなことより俺たちとお茶でもしないか?」


 また、後ろから新しい奴らが来た。めんどくさいんだから。


「遠慮しときます、行こう、川田君」

「えっ、あぁ、おう」


 そう言って川田君を連れて行こうとした。

「おい、俺たちとお茶しないでこんな奴と行こうってのか!? バカにしやがって‼」


 すると後から来た奴らが川田君に殴り掛かった。

 川田君は吹っ飛んでしまった。痛そうに、大丈夫かな。なんて他人事考えていると、


「じゃぁ嬢ちゃん行こうぜ」


 と、今度は私の手を引っ張り始めた。いや、全然他人事じゃなかった。


「やめてよ」


 そう言って私が手を払うと、今度は手を取ってきたチンピラが吹っ飛んだ。


「え?」


 何だこいつら、大げさだな。これでいちゃもんを付けてくるのか、なんて考えていると、


「コ、コイツ化け物だ!こんなの相手にしてられねぇ、逃げろっ」


 なんて言いながらすごい勢いで去っていった。

 まじで何だったんだろ、あいつら。


「すまねぇな、変に声かけちまったせいで、面倒な奴らに絡まれてよ」


 最初に声を掛けてきた男がまた語り掛けてきた。


「俺はノイーグ。最近大した覚悟もないのに冒険者になろうとしている輩が多いからよ、声を掛けて回る役割を頼まれていてな。下手なのが冒険者になると困るからな。あんたは肝が据わってそうだから大丈夫だったぜ。そのまま奥まで行って来て大丈夫だ。」

「はぁ、ありがとうございます。色々あるんですね、お疲れ様です、お仕事頑張ってください。それじゃ行ってきます」

「おうよ、行ってらっしゃい。あの伸びてるあんちゃんにもよろしくな」

 

 そう言ってノイーグは去っていく。

 ゲームにあんなキャラいたっけな、なんて思考を巡らせていると、吹っ飛ばされた川田君によろしく言われる。あっ、川田君のとこに行かないと、彼、大丈夫かな。


「大丈夫?」

「いってぇ……、けどまぁ何とか大丈夫」


 川田君がそう言ったから大丈夫っぽい。


「それより、さっきのあいつ等が吹っ飛んだのはなんだ? わざと吹っ飛んだように見えなかったが」


 川田君にもつっこまれた。それでも私はよくわからない。チンピラたちが勝手に吹っ飛んだだけだもの。


「よくわからない。手を払ったら吹っ飛んで。ほんとに何だったんだろ?」

「わからないのか……。まぁいいや、それじゃ奥に行って祝福? ってやつを受けようぜ」


 そうして私たちはついに祝福を受ける神殿最奥部についた。


「おぉ、新たな加護を求めるものですか、さぁどうぞこちらへ」


 神官様に案内されて台座に通される。


「古の豊けき世を取り戻さんとす、世界を救わんとすこの者たちに精霊様の加護よあれ!精霊様、世界の果てより出でて、かの者たちに加護を与えたまえ!」


 そうして先ほどの神官様に加護を貰う。私は無属性、川田君は風属性の祝福を得た。


「そなたらの旅路に幸あらん事を」


 そう言って私たちは見送られた。


「無属精の加護を得るものがいたとは、これは驚きですな」


 神官様はそう小さく呟いたような気がしたけどあまり気にしなかった。


「ねぇ、奈々ちゃん、妖精って自分で選べるんじゃなかったの?」

「え、川田君風属精がよかったんじゃないの?」

「ううん、炎のほうがかっこいいからそっちが良かった」


 川田君は希望通りにいかなかったらしい。私が希望通りに行ったから上手くいかない可能性を失念していた。


「どっかで風がいいとか思ってたんじゃないの?」

「そうかなぁ……、よくわかんねぇわ。そうなのかな」

「多分そうだよ」

「そうか。わかったわ。で、この後はどうするの?」

「んー、このまま旅に出てもいいけど一回ゲームの外に戻らない? ちょっと疲れたからさ」

「オッケー。じゃぁ一回外に出よう」


 実際かなり疲れた。街の喧騒とか、コイツの相手とか。意外と歩き回ったてのもある。

 私は腰付けポーチの中からペンダントを取り出し、川田君がペンダントを取り出すのを待った。


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