冒険は突然に
木こりのパンシさんのおかげで、私たちは無事に夜を明かすことができた。火を恐れて野生生物が近寄ってこないのはどこでも共通らしい。ゲームの設定のおかげかもしれないが。
空は青く晴れ渡り、平原に広く、短く生えている草木は朝露に濡れ、光をキラキラと反射している。そういえば、この世界で上り下りしている太陽は、当然ながら私たちが知っているいつも見ている太陽とは違うんだよね。そんなことを考えながら私はポーチの中身をまさぐる。野宿自体の準備は皆無だったけど、路銀を稼ぐためにもたくさんやっつけたラビィのドロップ品が役に立つ。
「やっぱりラビィの肉はうまいねぇ」
私たちはお肉を提供し、代わりにパンシさんには調味料を出してもらう。そのまま焼いて食べても十分食べられるが、やっぱり味付けはするに限る。今度街に寄ったらちゃんと調味料の類も用意しておかないとな、なんて考えながらもぐもぐと食べ進める。
「ところで」
一足早く食べ終わった川田君が串を折って口を開く。
「僕らは昨日も言った通りに北上するんですけど、パンシさんはどうするんですか?」
「ん? 俺か?」
声を掛けれらたパンシさんは、ちょっと待ってくれなと言い、残りのお肉を口に放り込む。何噛みかしたあとゴクンと飲み込み、バッグから水筒を取り出し水分補給。ふぅと一息ついて話出す。
「ちょいとベグニの冒険者ギルドに依頼を出しにな」
「なんでまた」
ギルドの名前を聞いた私は理由を尋ねる。
冒険者ギルド。ゲームの時は単にギルドと呼ばれていた施設かな。単にゲームをしていた時は気にならなかったし、今そういわれるまで気づかなかったけど、きっとこの世界には色んな業種のギルドがあるんだろうな。パンシさんも大工と言っていたし、土木ギルトみたいな団体もあるんだろうか。
「近くの森にマカキルが大量発生しちまってな。少しなら自力でどうにかできるんだが、生憎の数だ。このままだと木こりの作業もままならないってんで討伐依頼を出しにな」
「へー、大変ですね……」
チュートリアルで出会うはずのマカキルの名前をこんなところで聞くとは。リズちゃんがイノイノに襲われているタイミングでクストの村についたからか、マカキルとの戦闘は起こらなかった。この世界に戦闘イベントという概念があるか怪しいけど。どうやら、マカキルが存在しないから戦闘にならなかったわけではなさそうだ。
「噂に聞く限りだとクストの森じゃイノイノが大発生したらしくてな。そこから逃げて来たマカキルが増えちまったんじゃないかって話だよ」
「あのクソでかいイノシシの被害こんなに離れたところにまで届いてんのか」
イノシシの被害の影響を受け続けていたであろうステラが意外という顔で呟く。
「まっ、ナナ達が退治してくれたからそろそろ被害も収まるんじゃないか?」
しかし打って変わって、討伐された事実を認め安堵の表情を示す。家族であるリズが森に入って危険な目に合うという、イノイノの被害が身近にあったステラ。安心感も村の住人の中でも一際大きいんじゃなかなと思う。その時ステラは村にはいなかったんだけどね。
「ナナさんたちが退治……?」
「とは言ってもハウトの助力もあったけどな」
信じられないといった感じで呟くパンセさんに対して、川田君が補足をする。あのハウトさんともお知り合いなんですか……、とさらに驚きの表情を強めるパンセさん。そのまま口に手を当ててて少し考え事をする。
「もしよろしければ、兄ちゃんたちにマカキルの討伐を依頼できないか?」
……どうやらクエストが始まるっぽいぞ。