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八踏 それぞれの事情

 タイヤーをリーダーとした四人は、壊れて使用出来ない闘技場を諦めて食堂に集まっていた。百人近い生徒が食堂でガヤガヤと騒がしくしている。


 今後の事を話し合おうとタイヤー達は隅のテーブルに四人固まって座ると、改めて一人一人自己紹介していく。


「それじゃ、エルの提案で親睦を深める為に、まずはこの学園に入った動機を話そうか」


 リーダーらしくタイヤーが仕切る。タイヤーは、まずは自分からとこの学園に入った事情を話す。


「俺の父親は魔神ザハートを退けた英雄の一人、タカッタ・フマレだ。けど、別に憧れてなんかいないし家族を裏切った男だ。俺は父親のようになるものかと願い、自ら鍛え上げてきた。

別に国全体を守ると言うほど身の丈に合わないことを言うつもりはない。せめて家族と自分の手が届く範囲だけでもと、力を求めてこの学園に来た。来たのだが……」


 皮肉にも父親と同じフィーチャースキル、と喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。

自分は父親とは違う。『絶対、親父のようになるものか!(三十六回目)』と改めて誓うタイヤーだった。


「家族と自分の手の届く、ねぇ……」

「なんだよ、エル。いいだろうが別に」


 何か言いたげなエル。タイヤーと少し険悪な雰囲気になった時、リックが仲裁代わりに自分の話をし始める。


「俺っちは、自分の身の振り方を決めなきゃならなかったからだな。俺っちはさぁ、いわゆる庶子なんだよ、不貞の子。だから家に居場所がないからな、自分で何とかしないといけないって、ワケ」

「リック……意外とマトモな考えを持っていたんだな」

「どういう意味だよ、タイヤー!」


 存外、重い事情に関わらずリックは、いつものようにヘラッと軽薄そうな笑顔で話す。

他の生徒より一際背の高いタイヤーと遜色ない身長、いつもへらへらと笑っているが、意外に整った顔つきのリック。

大股な歩き方や軽そうな表情を除けば、女の子が放って置かないくらいの容姿はしていた。


「ちょっと、タイヤー。あなた、リックを知らないの?」


 隣に座るエルが神妙な面持ちでタイヤーの服の袖を引っ張る。何のことだか分からないタイヤーは首を傾げるばかり。


「タイヤー、今リックのファーストネーム聞いたでしょう」

「えっと、ランブル……だったっけ? あれ、ランブル……って、何処かで……」

「ランドルよ、ランドル」


 タイヤーには聞き覚えのある名前。決して自分に近くはないが、身近な感じのする名前に、タイヤーは困惑の表情に変わる。


「はぁ。タイヤー、ランドル家よ、ランドル()()。まだ分からないの?」

「おうけ……王家!? リックが? 嘘だろ!?」


 レバティン王国の王家ランドル。この世界でも有数の領土を誇るレバティン王国の王族の名前であり、学園の名前にもなっている。


「リックって……王子様!?」

「ちげぇよ。庶子だって言ったろ。王位相続権なんて、無いにも等しいよ。それに王子は俺っちの父親だ」


 リックの話によると父親は、ランドル王家の長子であり、既に六十過ぎである。

現国王が八十過ぎてもなお存命であるために、未だに王子なのであった。

リックの父親は良いように言えば奔放、悪く言えば無節操でアチコチに女性がいるという。

母親を早くに亡くしたリックは、幼少の時に末席の末席に入ったが居場所は全くなかった。


「お互い父親には苦労させられるな」


 タイヤーとリックは互いに妙な親近感を覚えて、笑う。


 次は、フローラの番だとリックに振られると少し困った顔をする。


「わたしは、もっと単純だから恥ずかしいな……。わたしはね、家が道場やってるのよ。ハッシュ流武道拳気っていうの。父がね、道場の名前を売ってこいって送り出されたの。あとは……恥ずかしいのだけど……跡取りが、わたししか居なくて……その、婿探しをしてこいって」


 最後の方にはフローラは頬に手をあてて、顔を真っ赤に染めると下を向いてしまった。


「三人とも、父親絡みかよ……子供は大変だ、ほんと。最後はエルたな」


 エルはわざとらしく一つ咳払いすると、話を始める。


「私は貴方達とは逆になるのかしら? 私は幸いにも伯爵家で育ったのだけれども。少しでも多くの国民を守るため、かしら。お父様は反対したけれども。昔からそのつもりでいたし鍛えてきたわ」

「なるほど。エルの怪力はそのせいか!」

「なんですって! タイヤー!!」


 顔を片手で押さえつけられて爪がめり込むほどの力で、タイヤーを持ち上げる。「これ、これ、これの事」と言いながらもタイヤーは、抵抗すらせずに吊り上げられていく。

リックは二人を見て腹を抱えて笑っていた。

「エルちゃん」と、フローラの呼び掛けに、エルも吊られたままのタイヤーも、フローラに目線を移す。


「エルちゃん、他にも理由あるんじゃない? 例えば……誰かがこのランドル学園に入学するって聞いたとか?」


 フローラは、そう言うと少し垂れ目がちな目を更に少し下げて、ちょっと意地悪そうな笑顔を見せる。


「な、な、な、な、何言ってるのよ、フローラ!」


 明らかな動揺を見せたエルの顔は真っ赤に染まり、タイヤーを掴んでいた手にも力が益々込められていく。

(もが)き苦しむタイヤーを見て、リックは益々腹を抱えて笑っていた。

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