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六踏 ゼロ

 鑑定室から帰ってきたタイヤーは、着席するなり木製の机に額を擦り付けて顔を伏せる。

教室に着くまでの間、ずっとエルが罵倒九割を含めた言葉で励ましてくれたお陰もあり、ここまで戻っては来ることは出来た。だが問題はまだ残っており、それに頭を悩ませる。

それは、タイヤーのスキルにとっては最重要事項。


 自分を踏んでくれそうな女性に心当たりがないことに。


 フローラなら、優しいから踏んでくれそうだなとは思いつつも、あの優しそうな笑顔で「無理、変態」と一蹴された日には立ち直れそうにないと懸念してしまっていた。


 ところが教室に戻ってくると他のクラスメイトが、「同じチーム組めるといいな」とか「チームどうやって分けるのだろうな」とかの話題で盛り上がっていた。


 タイヤーは昨日、保健室にいた為に聞いていなかったが、その時、先生が話でもしたのだろう、この後クラス内でチーム分けをするみたいであった。

つまり、最悪のパターンがチームが男子一色だと、タイヤーはスキルが使えないのだ。


 これはもう絶望的な問題で、タイヤーは、どんなチームでもいいから女子生徒が入ってくれと願う。


「チーム分け……盾とか囮とかの扱いでいいから、頼む!」

「そんな扱いは、ならないと思うけど……」


 机に顔を押し付けながらのタイヤー呟きに、後ろの席のエルが勝手に答える。

心なしかスキルが判明してから、最初はひきつっていた顔が、徐々に優しくなってきた気がするエル。不意にタイヤーのお尻に衝撃が走り、体がちょっと浮き上がった。



◇◇◇



「よし、全員終わったな。ほら、席に早く着け!」


 扉を開き入ってきた男性教諭は、手を叩いて着席を促す。まだ年若いが担任を男性の名前を未だにタイヤーは知らない。

いずれ判明するだろうと、お尻に衝撃を受けながらも顔は机に伏せて、タイヤーは耳だけを話に傾ける。


「いいか、よく聞け。今からチーム分けの発表をする。チーム毎順番に名前とスキル、ランクを発表していく。聞き逃さないようにな。それでは、まずはチームAから……」


 スキルは名前だけならいいがランクまでも言うのかと、タイヤーは悲痛な表情の顔を上げた。クラスメイト全員にランクが無いことを知られるという最悪な事態。

しかし、時は既に遅し。気づいた時には読み上げが始まっており、次々と分けられる中、とうとう自分の番になる。


「次、チームE。タイヤー・フマレ、スキル『麦』、ランク無し」


 予想通り教室内がざわつき始め、再び机に額を擦り付けながらも、多くの視線をその背中に感じていた。


 しかし、それは束の間。タイヤーに降り注がれた視線は大きく逸れて、別の話題に。


「同じく、チームE。リック・ランブル、スキル『絶対領域射撃』、ランクA。同じく、チームE。フローラ・ハッシュ、スキル『空前絶後』、ランクA。同じく、チームE。エル・ガーランド、スキル『破壊剣神』、ランクS」


 今度はトップランク三人が、タイヤーと同じチームに固まったのだ。

他のクラスメイトからしたら、一見贔屓にも見えるしバランスが悪く見える。

視線は外れはしたが、やはり小声ではタイヤーの名前がちらほらと聞こえ、その殆どはタイヤーに対する妬みであった。


 タイヤーとしては、リックやフローラは大歓迎ではあるが問題はエル。

絶対同じチームなど嫌がるだろう、そう思考が至った時に、案の定後ろで「先生!」と聞き覚えのある声がした。


 勿論、エルである。恐らく不平を述べるかタイヤーの事に言及でもするのかと誰しもが思い、クラス一同の視線はエルに対して集まった。


「どうした、エルくん。何か問題でも?」


 きっとエルがタイヤーのランクについて話し、それを聞いたクラス中の女子から同意し敬遠され、男子からは関わりを断たれ、それが学園中に広がっていく……そう、妄想するタイヤー。


 タイヤーは大声で怒鳴り散らしてやりたい気分になってきた。


「はい。私たちのチームはバランスが悪いと思います。遠距離と思われるスキルを持つリックはともかく、私もフローラも近接前衛になります。そ、そのフローラは、ランクCか、ランクDの遠距離タイプと代わった方がクラス全体のバランスもいいかと……思うんですけど」


 エルには珍しく、最後声が小さくなり歯切れが悪くなる。

タイヤーは、エルの意外な言葉に気概が逸らされてしまった。


「エルくんの言い分もわかるが、俺はタイヤーをマイナス要素と考えている。だから君達は、このままで良いのだ」

「ハッキリ言うな、クソ教師いいい。せめて、せめてゼロと言えぇぇぇ!!」


 意図せずタイヤーは怒鳴り散らす結果となった。マイナスなんて盾にも囮にも使えないと同じ事だと、あまりに悔しくて、つい声に出してしまったのだ。


「そ、そうだな。済まないタイヤー。そうだ、ゼロと言えば良かったな。それに、もしかしたらお前のスキルが掛け合わさった時、物凄い力を生む可能性もあるからな」

「ゼロは掛けたら、ゼロだろうがあぁぁぁぁ!」


 再び怒鳴る。タイヤーのスキルのことはまだ知られずにすんだが、先生からの評価の低さは知られることとなり、この後、チーム分けに不平を漏らすものは現れなかった。


「絶対、親父のようになるものか!(三十五回目)」と心で強く強く思うが、スキル『麦』が、まるで父親の怨念かのように背中に憑りついているように重くタイヤーへ、のし掛かるのであった。

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