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三十四踏 アーダ・メーラ

 ドワフ族の族長に会うべく、ドワフ族の集団に先行させて二台の馬車でついていく。御者はいつもの通りリックとフローラの二人。カルトは魔族ということもあり、万一に備えてフードを目深に被って顔を隠す。

タイヤーは、相変わらず荷台で養生していたが、隣にはとても不満そうに眉間に皺を寄せるエル。

ドワフ族達がエルを怖がり、今、エルは縄で捕縛されていた。


「どうして、私だけ……」と、文句の一つも言いたいが、散々ドワフ族の連中を恐怖のどん底に叩き落とした結果であった。


 下り坂を進んでいくと、盆地になっており眼下に大きな街が見えてくる。

大きな円形を描いた街。まだまだ、距離はあるものの、此処からでも賑わいが確認出来るほどだある。

馬車に並走しているアーダが言うにはレイグラードという街で、族長をトップにその下に三人の部族長がおり、アーダは現在その部族長の代行に就いているのだと。


「それじゃ、アーダちゃんは、お父さんの代わりを務めているのね。偉いね」

「アーダは大人だ! 子供扱いしないで欲しいだ。もう、二十一だ」

「わたし達より年上なんだ、偉いねアーダちゃん」


 フローラは変わらずにアーダを子供扱いし続ける。しまいにはアーダの頭を「偉い、偉い」と撫でる始末。

まんざらでもない表情のアーダに、大人と言い張る説得力は皆無であった。


 東スエードとの境である橋から森を抜けて、街道を進み盆地を降りること馬車でおよそ一日。

レイグラードに到着する頃には、打ち解け合っていた。


 エル以外は……。


 レイグラードの街には、ドワフ族とは違い背丈の高い者もチラホラと見受けられた。タイヤー達と同じ人間である。

ドワフ族の最大の特徴である低い背丈は、人間の子供と見分けがつきにくく、ドワフ族が大人になれば、男性は髭、女性は髪の毛量が増えるという。

教えてくれたアーダを見れば、確かにかなり多い髪の毛をおさげに二つに結んで縛っている。

街でも男性の多くは顔の下半分が髭で埋もれている。


 ドワフ族の人達とはアーダ一人を残して街へと消えていく。

タイヤー達は、アーダの案内で族長の住むという、一際大きな煉瓦造りの建物へと到着する。

報告してくると言い残し、アーダは先に一人で建物の中へ入っていく。


 改めて建物を見ると、珍しく緑色に塗装されている。レバティン王国では、無かったことだ。

数分で戻ってきたアーダに何故塗装しているか聞くと「雨風に晒されて劣化しにくくするだ」との返答にタイヤー達は初めて聞いたと、素直に感心する。


 アーダに先導されて、建物内へと入っていくタイヤー達。三階建ての三階の一番奥の部屋へと案内される。

アーダがノックして声をかけると中からは、渋い男性の声が返ってくる。

扉を開いて中に入ると、横に置かれた長テーブルが一つあり、その中心には不遜な態度とも取れる中年のドワフ族と、その右隣に並ぶように座る少し若めの男性が二人、左隣にはアーダが座った。


 タイヤー達には椅子もない。まるで、今から面接か取り調べでも受けるような雰囲気である。客人を迎える空気ではない。

縄は解かれているエルは、不快感を露にしており、部屋の空気は益々重くなっていく。


「魔族の代表から手紙を預かって来ているそうだね」


 テーブルの中心に座る男性が挨拶も無しに、本題へと入る。

名乗りもしない相手の態度にさすがのリックやフローラも怪訝な表情に変わる。


「なんだ、ドワフ族ってのは蛮族の集まりか」

「なんだとっ!? 人間風情が!」


 タイヤーの言葉に右隣に座る二人のドワフ族がテーブルを叩いて立ち上がる。

同時にエルとフローラがタイヤーの前に守るように立ち塞がり、一触即発の様相を見せる。


「エル、フローラ。落ち着け」

「双方、下がれ」


 タイヤーとドワフ族の中年の男性は仲裁に入って場を収めたが、再びタイヤーが掻き乱す。


「あんたらは、今人間風情と言ったが、その人間にも劣る態度を取っていることに気づいているか? 礼を欠き傲慢な態度でいることに」

「どういう事だ」

「子供じゃないんだ。言われなきゃわからないなら、その程度だと恥じるんだな」


 中年のドワフ族は、アーダに何やら耳打ちする。他の二人はタイヤーの態度に腹を立てて今にも飛びかかりそうになっていた。

しかし、タイヤーは揺るがない。


「お前は、怖くないのか? ここは、我々の領内なんだぞ」

「別に。こっちは、以前二度も魔人族に遭遇して命拾っているんだ。それに比べたら大したことじゃない」

「ま、魔人族とだと!?」


 中年のドワフ族だけでなく、アーダや他の二人も顔を青ざめる。

魔人族という存在の恐怖は、人間だろうとドワフ族だろうと変わらなかった。


「なるほどな。では、アーダ様、よろしいですね」

「うん、お願いなのだ。客人を迎える用意をするのだ」

「はっ!」


 中年のドワフ族と他の二人はアーダに丁寧に頭を下げると部屋から退席する。

残ったアーダは、タイヤー達を別室へと案内するのであった。


「やっぱり、アーダが族長なんだな」

「気づいていただ!? 上手く隠せた思っていただのに。あの三人は部族長だ。アーダの父が本当の族長で、アーダは体調不良の父に代わって族長を務めてるだ」

「だって、おかしいだろ? いくら不遜な態度を取ったとしても、一国家の長がする行動じゃないしな。名前くらい言うだろ、普通。だったら既に名乗っているというのが正解だろ。俺らが知っているドワフ族はアーダ、君だけだ」

「参っただな。改めて失礼しただ。アーダ・メーラ、この西スエードの代表であり族長の代理だ」


 アーダは、頭を掻き毟ったあと、頭を下げてタイヤーに握手を求める。

タイヤーも今度は快くその手を握り返すのだった。


「タイヤー・フマレ。何でも屋フマレ隊のリーダーをしている」


 互いに挨拶を終えたあと、一旦別室で待機させられその後、用意が出来たと案内された部屋には、豪華な料理の数々が長いテーブルの上に陳列されていた。


「先ほどは、失礼した」


 中年のドワフ族と他の二人は、そう言うと頭を下げて謝罪の弁を述べる。

タイヤー達も、謝罪を受け入れて互いに握手をして回る。


 席に促されて椅子に腰を降ろしたタイヤー達は、まずは食事をとアーダに言われて料理に舌鼓を打つ。

かなり濃い目の味付けではあったが、疲れきっていた体には癒される。


「タイヤーさん。食事中で悪いだが、魔族からの手紙を見せて欲しいだ」

「んぐっ、リック」

「ああ、これが俺っちが預かった手紙だ」


 懐から手紙を取り出したリックはアーダへ直接渡す。内容を確認するアーダの表情は、読み進める度に怒りで顔を真っ赤に染めていく。


「ふざけたこと抜かすなだ!!」


 手紙をぐしゃぐしゃに丸めて部屋の隅へ投げ捨てるアーダ。内容はニーナから聞いた話とは真逆であった。


『ドワフ族は速やかに軍を出してガーランド伯爵領へ侵攻すべし。でなければ魔神を復活させた事をレバティン王国へ密告する』


 書かれた手紙の内容を聞いたタイヤー達も驚き戸惑う。


「アーダ。俺達は、ニーナから魔族は戦争に反対し、ドワフ族は戦争を起こしたがっていると聞いていたが、違うのだな」

「違うだ! 戦争に反対しているのはアーダ達だ。北スエードのエルフは、中立を表明しているし、戦争を起こしたがっているのは東スエードの魔族だけだ」

「それじゃあ、この魔神復活の話は? 魔神ザハートには俺の父親とエルの母親が命を落としている。もし、本当なら、俺達も考えなければならない」

「そ、それは……それはだな、それは間違いないだ……」


 食事の手を止めたタイヤーの目付きが鋭くなり、アーダへと向けられる。

気まずそうなアーダから声をかけられると一度退席した中年のドワフ族。

再び戻ってきた時には、一枚の紙切れをタイヤー達へ手渡した。


「魔神復活なんて大それたことアーダ達には出来ないだ。それは、この西スエードに住んでいた人間の男の唯一の似顔絵だ。我々ドワフ族もその男を探しているだ」


 受け取った似顔絵には、なんとも言えずのっぺりとした顔をしており、特徴らしき特徴が見受けられない。

何処にでもいそうな人間の顔に、印象など残るはずもなく、捜索にも難航しているという。


「これだけは信じて欲しいだ。魔神復活にはドワフ族は関わっていないだ。そもそも、この男もどっから魔神復活の方法を手に入れたのかわからないだ」


 アーダは深々とタイヤー達に頭を下げるのであった。

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