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二十八踏 何でも屋

 結局、一睡も出来なかったタイヤーは、まだ日が昇り始めた頃にリックを起こさないよう部屋を出る。

廊下の突き当たりの窓を開くと冷たい空気が、眠くて仕方ない瞼を刺激する。

二階の窓から庭を見ると、まだ朝早いというのにカルトが、庭の手入れをしていた。


「精が出るな」


 一階へ降りると、庭に出たタイヤーはカルトに声を掛ける。

カルトは軽く会釈だけすると、再び作業へと戻ってしまう。

邪魔してしまったかなと、屋敷に戻ろうとするも気になることがあり、足を止めた。


「そう言えば、カルト。角はどうした?」

「あっ……!」


 カルトは、汗拭き用のタオルで頭を隠す。聞いてはいけないことを聞いてしまっまかと、タイヤーが立ち去ろうとした時、カルトはか細く小声でポロリと話す。


「折れました」

「それは見たらわかるから。いつ折れたんだってことだ。また、生えてくるのか?」

「あ……折れたのは、半年程前で、す。魔族の角は一度折れたら二度と生えません」

「そうか、生えないのか。ごめん、何か悪いこと聞いてしまって」

「いえ、大丈夫です。あ、それと昨日はありがとう御座いました。食事誘ってくれて」

「いいって、頭なんか下げなくて。また、良かったら行こうな」


 これ以上作業の邪魔をしたら悪いとタイヤーが振り返ると、いつの間にか足元から見上げるニーナが。


「おはよう御座います、タイヤー様。カルトに何かご用でも?」


 魔族の瞳は独特だ。白目の無い赤い瞳でじっと此方を見上げてくる。

笑顔ではあったが、その目の奥は無機質なものに感じた。


「いや、ちょっとな。朝早く目覚めたから話し相手になってもらっただけだよ」


 タイヤーも笑顔で返し屋敷へと戻っていった後、庭に残ったニーナの顔をカルトは見ると、逃げるように作業道具を抱えていってしまった。

一人で庭に立つニーナの顔は、子供の愛らしさなど無く、なにかを企むように笑っていた。



◇◇◇



「何でも屋、ですか?」


 タイヤー達は簡単な朝食をタイヤー中心になり作り食べ終えた後、応接間にニーナを呼び、今後の自分達の方針を伝えた。


「そう。それでね、ニーナ。当分この村を中心に始めたいのだけど、しばらくこの家を間借りしてもいいかしら?」

「構いませんよ、エルお姉様。お姉様さえ良ければいつまでもいて頂いても」


 エルに対してニッコリと愛らしい笑顔を見せたニーナは、隣に座り手を握る。


「それでな。何か手頃な仕事は無いかと思ってな。ニーナはこの村の代表だろ? 村の人達に手が足りない事がないか、聞いて欲しいんだ」

「それなら早速ニーナの方からあるのですが」


 ニーナの依頼は二つ。一つは魔物退治。決して強い魔物が現れる訳ではないが、油断をすると村人が怪我をする為に、定期的に退治するのだが、多くの人手が取られてしまうのだと言う。


「魔族ってフィーチャースキルって使えるの?」とフローラが、ふとした疑問を呟く。


「使えますわ。というよりフィーチャースキルを管理して限定させているのはレバティン王国ぐらいなもの。スエードだけでなく、他の国では、誰もが扱えますから」

「へー。ちなみにニーナちゃんのスキルは何なの? ランクは?」


 フローラは何気ない気持ちでの質問だったのだろうが、タイヤーは内心「よく聞いた」とフローラを褒める。


「ランクを付けるのは、レバティン王国くらいのものですわ。でも、ニーナのスキルにランクを付けるなら、ランクDくらいでしょうか」


 ランクに関して話すだけでニーナは自分のフィーチャースキルに関しては、話すことはなかった。

元々、他人に話すことではないもの。

誰もが上手く誤魔化される中、タイヤーだけは彼女の一挙手一投足を見逃さないように観察するのだった。


 魔物退治はエルとフローラが引き受けるという。そして残り一つは、手紙の配達。これがまた遠い場所であった。この東スエードとは別の北スエードと西スエードにニーナの手紙を運ぶという仕事。


「アチキなら、ひとっ飛びよ」

「じゃあ、もう一つは俺っちが馬車で運ぶよ」

「あと残ったのは、俺か。そうだな、細かい仕事を受けながら、まずはこの村の人達に、名前を売るかな」

「宣伝ってことでタイヤーはこの村に滞在ね。じゃあ私とフローラで魔物退治、ミユウは北スエード、リックは西スエードに手紙を運ぶで決まりね」

「それでは、ニーナは手紙を書きますわ」


 そう言い、ニーナが応接間から出ていってから二十分ほどで、二通の手紙を手に戻ってきた。


「ニーナ。手紙の内容はどんなものなの? 聞いても大丈夫?」


 タイヤーが聞こうとしたところを制してエルがニーナに尋ねる。

昨夜のこともあり、ニーナの疑惑を晴らそうとエルも必死のようであった。


「構いませんわ」


 ニーナの話す内容は、予想外のものであった。現在スエードでは、五年前に始まりそうであった戦争を開始しようという動きがあるという。

北スエードの種族エルフは、好戦的な態度を示しており、西スエードのドワフ族には良からぬ噂があるという。

ニーナは東スエード代表の一人として、他の魔族の代表を取り纏め戦争を回避したいらしい。


「偉いわ、ニーナ。戦争なんて良くないもの」


 エルはニーナを褒め称え、キッとタイヤーを睨む。ほれ、見たことか、と。

それでもタイヤーは、動揺を見せずにニーナに質問をする。


「どうやって回避するつもりだ?」

「はい、タイヤー様。スエードは三種族の代表が集まり物事を決めるのが慣習になっております。

そこで、エルフかドワフ、どちらかをこちらの味方に付ければ戦争は回避出来ます。

ですが他の種族と違い魔族には独自の兵士を抱えておりません。ですからどうしても下に見られてしまい……現在非常に厳しい状況なのです」

「そんな大切な手紙を俺達に任せるのか?」


 幼いニーナを凄いと褒めるエルに、逆に不信感を抱くタイヤー。


「タイヤー様達だから、こそですわ」


 ニッコリとタイヤーに微笑みかける。後でエルから怒られそうだなと、タイヤーは覚悟するのだった。


「そう言えばドワフ族の噂ってのは、なんだい?」


 話が終わりそうだったのを、リックの質問が止める。


「そうですわね。リック様がドワフ族の西スエードに向かうのですから、話さなければなりませんでしたね」


 うっかり忘れていたと、可愛く舌を出して茶目っ気一杯の表情をする。しかし、ニーナの話の内容はとてもお茶目に話す内容ではなかった。


「ドワフ族には五年前のザハートの復活に関わりがあるという噂が流れているのです」

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