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二十七踏 疑惑

「何かしら、タイヤー?」

「リック、ちょっと悪いけど……」


 すぐに察してフローラやミユウの背中を押しながらリックは、部屋を出ていく。

今、部屋の中にはタイヤーと二人きり──と、いう事実に気づいたエルは途端にどうしたらいいか困った表情に変わり思わず目線を逸らして床を見る。


「エル」とタイヤーは、ベッドに腰をかけ隣に呼ぶ。

エルの顔は、みるみる自分の髪と変わらないくらい真っ赤になり、頭の中は色んな思いで、ぐちゃぐちゃになる。


 考えが纏まらず頭の中が真っ白になったエルは、借りてきた猫のように大人しくなりベッドへ座る。

呼吸と鼓動は早くなり、エルの薄桃色の唇の間から吐息が漏れる。赤い瞳は熱を帯てきて、覚悟を決めたエルは思いきってタイヤーを見つめる。


 エルにじっと見られるタイヤーは「ニーナって、どういう子なんだ?」と問いかけた。


「……はっ? ニーナ?」


 呆気に取られたエルは、真っ赤だった顔から血液が一気に下がり真顔になったかと思えば、再び目眉を吊り上げた顔は怒りで赤く染まる。片手でタイヤーの顔を掴んだエルは、叫ぶ。


「少女趣味か、貴様あぁぁぁぁ!」

「いででででっ、待て! 何の話だ!!」


 短いスカートにも関わらずベッドに押し倒し馬乗りになったエルは、タイヤーの顔を()()しつつ、ベッドにめり込まそうとする。


「どうしたっ!?」


 声を聞きつけ扉を勢い良く開いたリック達。勢いでシャツのボタンが外れて肌を露にしているタイヤーの上に、下着が見えそうなギリギリのラインで太ももを露にしながら馬乗りで興奮しているエルを見ると、フローラはミユウの視界を塞ぎリックは「お邪魔しました」と、そっと扉を閉めた。


 自分の今の格好に気づいたエルは、タイヤーからすぐに降りると急に恥ずかしくなり両手で顔を伏せてしまった。



◇◇◇



 タイヤーはエルを説得し続けた。自分は決して少女趣味ではないと。

自分は膨らんだ揺れる胸が好きだの、くびれた腰つきがたまらないだの、チラリと覗く白い太ももが好きだの、香水ではない女性特有の色香な匂いが好きだの、散々性癖を暴露する。


 そして現在、ベッドの上で仁王立ちになったエルに片手で吊られるタイヤー。セクハラとも取れる暴露に、エルは頬を紅潮させていた。


 しかしタイヤーも無自覚であったが、述べた性癖全てが自分に当てはまることをエル本人も気づいていない。


「それで、ニーナが何?」

「(このまま話すのか……)あの子幾つだ?」

「確か九歳……もうすぐ十歳よ」

「俺の妹のルカと同じか。ルカもしっかりしているが、あの子もしっかりしているな」

「ええ。それより、何なの? さっきから!」


 エルは遠回りに話すタイヤーに苛立ち始める。初めてニーナに会うタイヤーに彼女の何がわかるのだと。

気づけばタイヤーの首を掴む手に力が入る。


「ぐっ……! お、おかしいとは思わないのか? あまりにもしっかり()()()()()()

エルとの仲の良さを考えれば、顔を見た瞬間、気が緩むのが子供だ。なのに淡々としていた。

父親のこともエルに真っ先に伝えるべきなのに、エルが父親の話を振るまで話題にも上がらなかった。子供らしさが無いんだよ、あの子」

「ひ、人前だったからよ、きっと!」

「だからこそ、だ。あの子は周りの大人を信じていない。そして、エル。それはお前も例外じゃない」


 エルは突き飛ばしながら手を離すと、そのまま部屋を出て行こうとする。


「エル、待て!」

「離して!」


 エルの腕を掴むも、すぐに振り払われてしまう。それでもタイヤーは諦めない。

このままでは、ただの喧嘩だ。

エルの肩を掴んで自分の方へ強引に振り向かせると、互いの息がかかりそうな距離まで顔を寄せる。


「落ち着け、エル! あくまでもこれは俺の推測だ。根拠は無い。

見張れとまで言わない、あくまで意識しているだけでいい。

もう、俺達は単にチームの仲間じゃないんだ。万一エルに何かあったら……。

いや、俺の老婆心と思ってくれればいい」


 コツンと自分とエルのおでこを合わせる。

エルからは近すぎてハッキリとしないタイヤーの表情であったが耳まで真っ赤になっているのを見ると、思わずクスリと笑う。


「なんで笑う?」

「なんでもない。タイヤーの言いたい事はわかったわ。一応、頭に入れておく」と、タイヤーから離れて振り返り部屋を出ていく。


 一人部屋に残ったタイヤーは、ベッドに腰を降ろすとそのまま倒れる。

赤い天井を眺めながら「馬鹿か、おれば。もう少し上手い事話せよな」と呟く。


 一人反省する。つい、感情的になってしまったと。


 調子が狂ったのは、ベッドでエルに馬乗りになられてから。


 あの瞬間、タイヤーの頭の中は別のことで一杯になってしまっていた。

手で掴まれて、ベッドへ押し付けられながら「ああ……手ではなく、踏んで欲しい」と。


 今までスキルを発動させる為に踏んで貰っていた。それは望むも望まないも関係なく。

しかし、今は踏んで欲しいと思ってしまっている。


 その事で頭は一杯になり、真っ白な状態で結局上手い具合にエルに話を伝えられなかったと反省する。

心の中では、ぐるぐると踏まれたい感情が渦巻いていた。



◇◇◇



 深夜、誰もが寝静まっているパッカード邸。外に明かりは無く、風の吹く音と木葉を揺らす音がしていた。

そんなパッカード邸において、眠っていない者が二人。


 一人はタイヤー。ずっと悶々として寝付けずにいた。


 もう一人はニーナ。久々のベッドでの睡眠に、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てているエルを見下ろしていた。

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