笑顔の日
そよ風にゆられて、私は夢を見ました。
ベランダで、新しい春の日差しを感じながら、白いブラウスに
身を包んで。ロッキングチェアなんて、気取りすぎて
いるかなって思ったけど、ネットで画像を見てから、もう夢は
始まっていました。
椅子がゆれるたびに、じっくりと眠気がでてきて
半分は寝て、半分は起きている奇妙な感覚になった。
ふつうなら、長くは続かない状態だと思う。
でも、結構な時間それが続いて…。
王子さまが来てくれたんです。馬に乗ったりはしていなかった
のだけど、後ろに居て、私に語りかけてくれました。
「いい日だね。君と初めて会ったときを思い出すよ」
「私、あなたのこと知らない」
そうすると、横から顔をのぞかせて、ニコっと微笑んで
くれました。やっぱり知らない人。でも、とりあえずイケメン…。
「君はもう覚えてないんだね。でもまた、こうして出会えた」
「だから、あの、誰なの」
椅子にゆられる私のまえで、軽やかに踊ってみせる王子さま。
なんだか、ばかばかしくなって笑ってしまいました。
「やっと笑ってくれた。あの日の笑顔とおなじだ。
これを覚えているかい」
差し出したのは、青い宝石が埋めこまれたペンダント。
金色にかがやく鎖。
「それ、小さい女の子にあげるやつでしょ」
「なら、持ってみなよ」
手に取ってみると、ずっしり重くて、驚いた。
そして目が覚めてしまった。
王子さまなんて、もちろん夢でした。
でも晴れた日なら、ロッキングチェアにゆられて、
他の夢も見ます。あと、ペンダントは本当に持っています。
仕事して、たくさん稼いだお金で
意味のないもの買ったって、私の自由でしょう。
高いだけの買い物、つかう場面もないペンダント、
どこにもいない王子さま。だからこれは、特別なアイテム。
ベランダで風に吹かれてつぶやく。
「あの日の笑顔とおなじ…か」
上から道ゆく人をながめている。ここからでは、顔は見えない。
どんな笑顔かも分からない。
今度の休みは、自然公園にいこう。
作ってない笑顔がみたい。風に吹かれるまま、緑のなかで、
人がどんな顔でいるのか。ただ見てるだけでも、楽しいかなって。