第9話 職業
見事、冒険者へとなった俺は初任務のために色々と準備していた。冒険者とは様々な依頼を受けてモンスター討伐やダンジョン捜索、要人警護など命の危険のある依頼を受ける仕事をするものであるらしい。
とにかくブロンズ等級の冒険者入りをした。等級は一番下だが、クエストを受けることで報酬が貰えるが、その日の依頼状況によって仕事が増えるとか言っていた。これは受付嬢のセリーに聞いた話だが、本音を言うと災害やモンスターの活動期の方がギルド的には景気がいいのだとか。
取りあえず俺は、冒険者のクラスを決めていた。
「冒険者にはクラスがあり、前衛、後衛、中衛に分かれていてそれぞれに役職があります。剣使いや弓使い、魔法使いが一般的ですかね」
セリーがにっこりしながら言った。
「俺はクラスを何にしたらいいんですかね?」
隣でシルフィが何かを言おうとしたが黙っている。
実際クラス選びに迷っていた。第一俺に何の役職があるか分からないし、当り前だ。何の才能があるのかも分からないから決めようがない。
「まあ最初は皆さん剣士とかから始めるんですけど」
うーん剣とか修学旅行でナイフ使っただけで使ったことはない。
「例えば見てください」
そう言ってセリーは二十代位の鎧の冒険者を指す。恰好は、青をベースとした装飾が施された鉄製の鎧を着ていた。若干鎧が薄汚れたり、傷が入っていることに使い古された感じがあった。背中には、大きな鎧の色と同じような斧を背負っていた。顔には目に傷があり何かにやられた跡が残っていた。
「あの人は斧使いですし、アドロさんあのちょっといいですか」
そう言ってその男に声をかける。
「ああ、なんだ?なんか用かよ」
と、言いつつシルフィ―を舐めまわすような目で見ていた。シルフィが若干引いたが…。
「今新人さんにクラスを選んで貰ってるのですが、ちょっとレクチャーしてもらってもいいですかね?」
「他のやつだったらぶっ殺してたところだけど、セリーさんの頼みだ。いいだろう」
「おい!新人。俺はアドロ・マラインだ」
物凄い声の大きさに圧倒された。
「あっはい。宜しくお願いします!なんでしょう?」
「ビシバシしごいたるから耳の中かっぽじって聞いてろ!」
「分かりました!」
その男はギルド内を見渡して言う。
「あいつは、ソードマスターだ。バカだが頼りになる。あれは近接型だが弓使いは長距離からだな」
そう言って指した先には背中に剣を背負った、二十歳位の若い冒険者だった。
「弓使いは、弓が無くなったらすごく大変なことになると思うわ・・・」
シルフィが言った。
「そうだ。エルフの嬢ちゃんの言う通りで新人には向かないな」
「そんであの紫ローブのエロエロ姉ちゃんは一応、魔法使い職だから・・・」
紫色のローブを着た二十代位の胸を必要以上に露出した女性を指して言う。どうしても思春期の男子には目のやり場のない雰囲気になっていた。
「そうなんですか?」
するといきなり短剣を腰に差した女の子が勢いよく飛んできた。
「ぐほっ!!!!!」
見事に、アドロの股間に命中し倒れこんだ。
「誰がエロ姉ちゃんよ!私の尊敬するアニータさんに何て事いうの!!!」
「はあ?いいだろうがよ。別に普段から色気出してるじゃないか!にしても、痛ってーー」
「あと、エロ姉ちゃんじゃなくてアニータさんでしょ!?」
「ちっ黙れ、このまな板が!」
「ああー。誰がまな板だゴラァァァァァ!!!!!!!」
そう言って切れた。俺達の存在に気が付くと、
「あらー、ごめんね新人さん。こいつ後でシメとくんで。私はエイプリル・ガーリンよろしく」
さらっとした顔で怖いこと言うなと思った。この人だけは怒らせないようにしようと心に決めたのだった。
「まあ、新人!俺みたいに超強くなりたければ頑張りな。俺は斧使いだからよ」
「そんなこと言って、あんたまだアイアンでしょ!?」
「ぐっ!」
本当に、冒険者ってのはこんな人しかいないのか不安になってきた。と言うわけで一通り受けてきたが、一向に定まらない。
「っそ、そんな性格してるから、いつまでも嫁にいけないんだぞ!!!」
食い下がる様子も無く、アドロはエイプリルに反撃する。
「んな!!そんなことは分かってるわよ!!!!」
「魔法使い職はなれるもんなんですか?」
やっぱり異世界に来たら魔法が定番。
セリーは少し考え込むようにして、
「魔力適性があれば魔法使いってのもあるんですが・・・」
そうか、その道があったか。大魔術として生きていくのも吝かでもない。どんな適性があるのだろうと勝手に胸を膨らませていた。
「それで適性ってたしか・・・」
「ええ、ギルドでやれるのは血から適性を検査できますよ?」
笑顔でそう言ってナイフを机の上に置くセリーに悪意を感じる。
「適性がいまいちわからないのですが?」
そう、その適正がわからない。
「ああ、常識ですよ?魔力は全ての生命に宿るエネルギーですから誰にでも属性適性はあるはずなんですが」
そういうことか、属性。つまり火とか水とか風とかの事か。
「他にやり方はあるんですか?」
「それなりに、熟練した魔法使いがいれば魔力の波長から特定できるのですが」
「つまり、血でやるしかないんですね」
「まあそうです」
まじか。絶対に痛いやつ。
「嫌だなー」
「大丈夫ですよ、手数料取りますけど」
手数料取るのかよ、そう言うのは先に行って欲しかった。
「あ!でも、新人でもできる最近出現したダンジョンの周辺調査をしたら検査代と初期装備はタダでいいですよ」
若干バカにしたような態度で言ってくる、そこは意地がある。
「や、やってやりますよ」
「え・・・」
予想外の反応だったのか周りが黙り込む。
「分かりました。ではこれを使ってくだい」
机の上に置いてあったナイフを差し出す。
「うおおおおおお!!!!」
容赦なく自分の指を切った。
「痛ってえええええ!!!!!!!!!!」
指先に痛みが走り、赤い血が出る。
「でっ、ではここに、押し付けてください」
茶色い紙を渡して、俺は紙に指を押し付けた。
「これは、魔樹の皮から作った紙です」
「魔樹?」と、俺。
「確か、魔力に過剰に反応しやすい樹よ。里にも大樹があったんだけど・・・」
シルフィ―が言った。
「そうですね。魔力に反応しやすいため、血中の魔力から反応するんですが。まあその一つが神話時代からあったという世界樹ユグドラシルですね」
疑問に思った、なぜ地球の神話がこの世界にあるのか?ユグドラシルと言えば北欧神話の世界樹だ。世界をみおろす程の木・・・心当たりは一つ。この世界に聳え立っている雲より高いあの樹のことか?
「ユグドラシル?」
「ええ、いつでも世界を見下ろしてくれるという、私たちが生まれるよりずーっと前からあったそうですよ。そこから湧く魔力は、底なしだとか。ユグドラシルにまつわる伝説やおとぎ話も多いですからね、誰もが子供のころは聞いたことがある話ですよ」
色々と疑問になることを聞いていると、
「あ…。そろそろ反応すると思うんだけど。この系統の魔樹は色によって変わるはずなんですが・・・?」
驚くことに魔樹の紙は、血の赤から何故かどす黒く変化した。
「え?え?あれぇええ!?何ですかこれ!!!!黒く変色した・・・?」
「え、それってなんかすごいんですか?」
「うーん。普通はこんな事ないんですけど。もしかして魔法の素質なかったんじゃないですか?」
セリーは少し悪気のある顔でニヤリとする。シルフィ―も黙って紙を見つめていた。
「異世界チート無いのかよ!」
俺はがっかりした。異世界と言えば、チートだろ?普通。
「あーあ。せっかく痛い思いしたのに!」
俺の決断は、呆気なく終わった。
「まあこんなこともありますよ。そう、気を落とさないでください」
「じゃあ、取りあえず剣士で」
俺は一端、剣士職にした。
だが俺はこの時は気づいていなかった、俺に宿っていた真の属性と大魔法使いになることも・・・・・。