第2話 裂け目 転移
東京郊外にある緑豊かなベッドタウン。いつものようにさわやかな小鳥たちのさえずりの中で目を覚ました。
制服に着替えると、自分の部屋から出る。気だるい体でリビングへと向かった。リビングにはぼーっとテレビを見ている母の姿があった。朝食のいい匂いが鼻を刺激する。
「おはよう、朝食できているわよ」
「おはよう。あれ、何見てんの?」
いつもなら朝ドラを見て笑っている筈なのに、と違和感を覚えた。
母が顔を顰め、はぁーという風にため息をつくのを余所目に適当に聞き流して、俺は席に着く。テーブルに並んだトーストを齧った。
「あんた、もうすぐ受験なんだからちゃんとしなさいね?」
「へいへい、分かってるよ。うるさいなぁ。だりぃ、もうこんな世界抜け出してぇ!」
母のお節介を軽くふざけてかわす。
「馬鹿な事言ってないの。ほんとにもう」
「んじゃ、行ってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい。車に気を付けるのよ。それから・・・」
と何か言いかけたが時間が無いので急いで家を出てしまった。
「なにかとても嫌な予感がするわ」
優斗が去った玄関を見つめてぽつりと呟いた。
それが、家族と会話した最後の言葉になるなんて予想しなかった。
あの運命の日、俺はいつものように登校していた。
なんてことのない一日になるはず・・・だった。
今日の3時限目は、体育の授業を受けるはずだがサボっている。
仕方がないし、受けたくもないからだ。めんどくさいのである。学校では周りと馴染めず次第にアニメやゲーム、ラノベにのめり込んでいった。いわゆる厨二病をこじらせ中なのだ。
さして勉強しなくてもよい社会科や科学以外の成績は次第に落ちていった。完全に無気力。ただ惰性で行っているに過ぎない。何人かは共通の趣味の友人がいるが、本当の友人と呼べるのはごく少数だ。
友達に勧められて入った運動部でも人並み以上に努力をし、2年ほどやって一部の先輩ともめ事を起こして退部。で、今に至る。祖父に鍛えられた武術もあり、常人よりかは運動神経はかなりのものだと自負している。
授業はジャージ見学だ。
ダルいバスケなんてやってられるか。
あー、楽ちんだ。
・・・突然、体全体がびりびりする違和感に襲われた。
「なんだ、体が………?」
その瞬間。体が揺れたかと思えば、いきなり衝撃が走り校舎が揺れ始める。
ガタガタと、掲示物が音を立て始めて……
「やべやべやべー!地震か?」
誰かがそう言うと!その時、
「皆集まれー」
教員がそう言うと、教室内がざわつき始めた。その合図で各自生徒が教員のもとに集まり始める。
ふつうの地震の規模じゃないかもしれない。そう思った瞬間、激しい爆発音とともに校舎が崩壊して窓がバリーンと音をたてて割れ、周りが滅茶苦茶になる。
「キャー――」
「なんだ!」
「もうイヤーー」
生徒たちが悲鳴を上げる。
ボールも壁も全てが浮き始めて、明らかに重力バランスがおかしい。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。周りも皆ぽかんとしていた。鉄骨も床もバキバキと音を立てて剥がれた。
「く、何が」
まともに立っていることすらできない中で、本能的に鉄骨ににつかまっていた。何か上に引き寄せられていくように引っ張られていたが、何もしようがなくただただ呆気にとられて流されることしかで出来なかった。
ドーンという凄まじい音が轟き、突如バラバラになりむき出しになった校舎は、天井をも上に引き剥がされるように無くなっていたのだ。そして、体育館の天井部分だけがすっぽりと無くなっていた。
取りあえず、何が起こったのか確かめるために、上を向いた俺は、目を疑う光景を見た。
「え?」
絶句した。
そこには、この世のものとは思えない、明らかに異質なものがあった。それはまるで水の波紋のように、空間が揺らぎ裂け目が現れた。
「あれはなんだ?」
俺が言うと、次第に俺を含む生徒たちの体が上に引き込まれ始めた。みんなは叫んでいる。それは元々教室の一部だったのだろうか?机や椅子も同時に上空に上がっているということは、校舎全体が崩壊したことを物語っていた。
俺はここで初めて自分の置かれている状況を理解した。その感覚は不思議なものだった。グルグルするような感覚に飲み込まれ、
「うぁぁぁぁぁぁああああああぁあぁああ!!!!!!!!」
絶叫した俺は、一部の生徒とともに、時空の裂け目に吸い込まれていった。
そこで俺の、意識は途切れた。
そこに残ったのは、校舎の残骸だけだった—―—――。