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始まりへのカウントダウン1

 

 ♦︎♦︎♦︎


 突然ですが、私は恋をしています!


 私、原田奈美は自分で言うのもなんですが、見た目は噂をしてもらえるくらい可愛いということは自覚しています! 両親からもらったこの容姿を否定する理由はありませんし、なにより周りの方の反応がその証拠です。


 そして私の恋をしている相手は、私がマネージャーとして所属している部活の先輩です。

 その先輩は誰に対しても優しく、運動能力も群を抜いてすごい人で、精神的にも技術的にも部の支柱となっていて私含めて男女問わず多くの生徒の憧れの的となっていました。


 始めは一人の後輩として憧れを抱いていただけなんですけど、私が中学二年生に上がってすぐの時、私に嫉妬していた女子生徒の子が私に悪質な嫌がらせをしてくるということがありました。

 色んな人を巻き込み、日々エスカレートしていく様々な嫌がらせを受けた時はさすがに自分の容姿を恨みそうになりました。

 しかし、そんな私を救ってくれたのが先輩でした。


 どうやって彼女たちを止めたのか教えてくれませんでしたが、先輩が動いた次の日から彼女たちからの嫌がらせは全てなくなりました。


 その事をお礼しに先輩の元へ行くと、


『そんな辛そうな顔をするな! 両親からもらった可愛い顔が台無しだぞ。 奈美は自信持って、堂々としていればいいんだよ!』


 実は内心ものすごく傷ついている私に「そんな気持ちはお見通し」というように、私が安心できるよう私の頭に手を置いて、


『もう大丈夫だ』


 微笑みながら、そう言ってくれました。

 その先輩の言葉に、もう大丈夫なんだと安心した私は先輩にしがみつき、それはもう全力で泣いてしまいました。


 ーー恥ずかしい。

 

 忘れもしない……ただの憧れだったものが恋に変わった、私の初恋の瞬間でした。

 


 そんな"先輩"が壊れてしまったあの日……私を安心させる為に頭に置いてくれたあの手を、私は降り落とすかのように先輩から顔を背けてしまった。


 あの日の先輩が全てじゃない……そんなことは誰よりも私が知っていたはずなのに。 完璧な人間なんて存在するはずないのに、一方的に理想の"先輩"像を押し付けて、理想とかけ離れたあの日の先輩を見て私は逃げてしまった。


 助けになってあげることもできず、壊れそうになっていた私を助けてくれた先輩が変わっていく姿を遠くから見ていることしかできなかった……ずっと、ずっと後悔していた。


 あの日の先輩を肯定する気はない。 ただ、それまでの先輩を否定する気もない。 初めて恋心を抱いた日の先輩を否定なんてしない……いや、絶対にさせない!

  一度は私の方から先輩の手を振り落としてしまったけど、今度は私の方からその手を掴みに行ってやる!




 そう意気込んで先輩と同じ高校に進学したのですが、一週間経っても先輩の姿を見ることはありませんでした。


 一度だけ二年生の校舎にも顔を出してみたのですが、先輩は見つかりませんでした。 どうしようか困っていると、二年生の男の人たちが声を掛けてきました。 適当に流してもよかったんですけど、せっかくなので先輩のことを聞いてみようと思い、先輩の名前を告げながら居場所を聞いて見たのですが……。


「あ、あいつに用でもあるの……?」

「僕もあの人のことは全然知らないなぁー」


 先輩の名前を出した途端、なぜか皆さん苦虫を噛んだかのような顔になり早々に話を切り上げてしまう為、全然先輩の情報は手に入りませんでした。


 その日は諦めて帰ろうとする私に、また一人の男の人が話しかけてきました。 その人にも同じ質問をしてみると他の人と同じ顔をされましたが、


「俺はよくわからないんだけど、あそこにいる女子なら多分、色々知ってると思うよ」


 少しだけ有益な情報が手に入りました。 そのお礼をしようとしたのですが、私がお礼を言う前に足早にその場を去ってしまいました。

 皆さんの様子に疑問を抱きましたが、とりあえず最後の人が教えてくれた女の人に話し掛けにいきました。


「あの、少しいいですか?」

「ん? 私?」


 ーーうわぁ……綺麗な人!


 ロングの黒髪をなびかせながら振り返った女の人の顔を見て、女である私ですらカッコいい! 綺麗だ! と思った。 それと同時に可愛さをアップさせる為にした、自分のショート気味なウルフカットの髪を触りながら、


 ーーあれ? 私って、もしかして子供っぽい?


 なんて考えてしまった。 そんな考えが顔に出てしまったのか、


「どうしたの? 何か悩み事でもあるの?」


 私の顔を見て、悩みがあるのかと勘違いをしたらしい。


 ーーどうしたら貴女みたいに大人っぽい女性になれますか⁉︎


 独特な雰囲気に呑まれ、つい、そんなことを聞いてしまいたくなってしまったがなんとか堪えました。


「……い、いえ悩みではないんですけど。 私、 基山圭っていう先輩を探していて……他の方があな……」

「圭がなに⁈ もしかして圭のやつがあなたになにかしたの⁉︎」


 私の肩を両手でガシッと掴み、綺麗な顔を近づけ……そして急に暴走を始めた。


「あいつ〜〜 根は良い奴だと思ってたのにこんな可愛い子相手に一体なにをやらかしたっていうの⁉︎ ねえ⁈ 一体、圭の奴になにされたの⁈」


 ……この人、怖いです。


「い、いや‼︎ 何もされてな……」

「えっ⁉︎ "ナニ"をされたって⁈ あの野郎、こんな幼気な女の子相手に【ピー】とか【ピー】するなんてとんだ変態クソ野郎じゃない‼︎」


 周りにはまだ多くの生徒がいるというのに大きな声でとんでもないことを言い始めた。 目の前にいるつい先ほどまで憧れを抱いた相手に私はドン引きしていた。


「ちょっと待ってなさい! あいつが今どこにいようと必ず探し出してボコボコにした後、縄で縛って連れてきて謝罪させるから‼︎」

「お、落ち着いてください‼︎ "ナニを" じゃなくて "何も" です! 」

「何もされた⁉︎ あいつ、何もをするなんて ……ん? 何もされたってなに?」

「知らないです……あと、されてません」


 ーー先輩、この人ヤバすぎです……カッコいいとか、 綺麗とか思ってしまった私の気持ちを返してください。


 私とこの人を引き合わせる原因となった先輩に、心の中で無茶なお願いをする。


 目の前の女の人は私の肩から手を離し、一歩後ろに下がると、何か考え込むように手を顎に付け、しばらくしてウンウンと首を縦に振ったかと思うと、ボンッと音が聞こえたと錯覚するほどに一気に顔を赤面させた。


「い、いまのなかったことには……」


 目に薄っすらと涙を浮かべ、声を震わせながらそんなことを言ってくるが……。


(おい、聞いたか? 基山のやつ、幼気な少女相手に【ピー】したんだとよ)

(鬼畜すぎんだろ‼︎)


 そんなとんでもないデマ情報が周りでどんどん拡散していっているのが聞こえた私は、


「ムリですね!」


 笑顔でそう答えました。

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