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終わりへのカウントダウン4

 

 本田と別れた俺たちはどこか寄り道するような理由も距離もなかった為、あっという間に1年の校舎に着いた。

 こっちの校舎は1年生と3年生が共同で使っており、3年が4階、1年が2、3階を使っている。


「それで? その噂の女の子はどこのクラスなんだ?」


 できるだけ早く済ませたいし、2階だといいなと思い聞いてみたのだが、


「えっ? わかんない」

「は?」


 --はっ倒してやろうか、こいつ。


 なんて本気で考えていると、周りからヒソヒソと囁き声が聞こえてくる。


(ねえねえ、あの人たちかっこよくない?)

(ほんとだ! 上級生の人たちだよね? 1年の教室になんのようだろ?)

(どうせあの子に声をかけにきたんだろ)

(お前ら、あの人たちをあまり見るな。 知り合いの先輩が言ってたけど不良って言われてる人たちだぞ!)

(見ろ……片方の人なんかものすごく怖い顔でもう一人の方見てるぞ)


「はぁ……」

「? どうしたの、基山?」


 1年生の間で俺たちも噂の人になり始めていることに溜息を吐きながら、秋山を無視してヒソヒソと話している後輩たちの所へ近づく。


「おい! こっちに近寄ってくるぞ!」

「やべぇ……もしかしたら聞こえちまってた?」


 ヒソヒソと話していても聞こえていたのだ。 近づいた分さっきよりも彼らの声はよく聞こえる。

 探すより聞いた方が早いと思い近づいているのだが、そんな彼らの声に思わずもう一溜息吐いてしまう。


「なぁ、少し聞きたいことがあるんだが」

「は、はい! な、なんでしょうか?」

「……もしかして僕たちの話……聞こえてましたか?」


 不良と呼ばれる俺が溜息を吐きながら自分たちの元へ近づいてきたのだ。 すっかりビビってしまっている。 少し声を震わせながら俺の声掛けに答える。


 --ヒソヒソと話されても誰だって良い気分はしないし、こんだけビビっていれば今後は少し気をつけるだろ。


 なんて考え、自分たちの話が聞こえていたかという質問は無視する。

 こういった扱いをされることは珍しくない為、特に気にしてはいなかったが、注意喚起という名目であえて一方的に話を続ける。


「俺たちはめちゃくちゃ可愛いと噂の子を一目見に来ただけだ。 その子がどこのクラスか知らないか?」

「え……えっと、その子なら1組なので……う、上の階です……です」


 知り合いの先輩とやらに俺たちのことを聞いたと話していた後輩が、他のやつより過剰にビビりながら答えてくれる。


「そうか。 教えてくれてありがとな」


 聞きたいことを聞けた俺は後輩たちに背を向け、秋山の元へ戻る。


「上の階で1組だってよ」

「おけ! サンキュー! よーし、再びレッツゴー‼︎」


 まるで子どものように無邪気で楽しそうに階段の方へ歩き始める秋山に俺も付いて行く。そんな俺たちの後ろで、


(こ、怖かった……)

(えー? でも言うほど怖そうな人たちに見えなかったけどなー?)

(馬鹿! 今日は機嫌が良かったか、俺たちなんか眼中になかっただけだって!)

(そうなのかな? 普通にカッコいいなって思ったんだけど……)


 全く懲りてない後輩たちが、俺たちの後ろでまたヒソヒソと話し始めた。




 階段を登り始めたタイミングで秋山が困ったような顔をしながら話し掛けてきた。


「あんまし後輩たちをいじめちゃだめだよ?」


 ……イラッときた。


「はっ倒すぞ。 アホのくせに人を問題児みたいに扱うんじゃねーよ」

「まだそのネタ終わってなかったの⁉︎」


 --誰の所為であの後輩たちに話し掛けにいったと思ってんだよ。


 と思ったが、口には出さなかった。




 階段を登り終え、俺は階段付近の壁にもたれかけてポケットからスマホを取り出す。


「ほら、さっさと行ってこい。ここで待っててやるから」

「えぇ! ここまで来て基山は見ないの⁈」

「興味ない。 俺は本田からお前のお守りを任されて付いてきてやっただけだ」


 スマホアプリの某本格スマホカードゲームを開きながら、秋山を追い払うように手をヒラヒラとさせる。


「お守りって……」

「そんなことより、お前のお望みの子は多分あそこだろ? パッパッと横でも通り過ぎて、さっさと帰って来い」


 階段を登り終えた時から気になってたが、階段とは逆側の廊下で4人の男たちが1人の女の子の前に壁のように立ちはだかり、必死に何か話しかけている。 男4人の鉄壁ガードによって女の子の顔は見えないが、噂の子であることは十分に理解できる。


 横目でその集団を見ながら、秋山に「早く終わらせてこい」 と訴えかける。


「やっぱあの集団だよなー。 わかったよ……それじゃ、行ってくる!」

「いってら」


  視線をスマホ画面に戻し、秋山を送り出した。



 この校舎には階段が一つしかない為、部活の体験に行く者や真っ直ぐ帰宅する者、全員が俺の付近を通る。

 先ほどの下の階の後輩たちと同じく、俺の姿を見てヒソヒソと何か話している奴がチラホラといるが、アプリゲームに意識を集中することで話を聞き流す。


 しかし、小声はいくらでも聞き流せるが、声の大きい話はやはり聞こえてくる。


「野球部のマネージャーやろうよ! 甲子園行けるように一緒に頑張ろうよ!」

「中学ではサッカー部のマネだったんでしょ? じゃあ高校でもその経験生かそうぜ!」

「君みたいな可愛い子が女バスに入部してくれたら、僕だけじゃなくみんなやる気でるんだけどなー」

「運動部に憧れるのもわかるけど、あなたのように華のある女性は合唱部とかも似合うと思いますけど。 どうかな?」


 先ほどの集団だろうか? そんな彼らの必死な部活勧誘の声が聞こえてくる。


  --鬱陶しいだろうな、アレ。


 視線は変わらずスマホ画面のままだが、聞こえてくる男たちの声に内心、噂の女の子に同情してしまう。


「お誘い頂けることは嬉しいんですけど、今はどこの部活にも入る気はないんですよね。 ごめんなさい、でもありがとうございます!」


 しかし、すでに何度もこういう経験をしているのだろう。 可愛いらしいが、堂々とした声で男たちの誘いをバッサリと切り捨てる。 謝罪、そしてお礼も添えることで不快な感じもしない。


 ーーへぇ。 あれなら多分、大丈夫だろう。


 男たちは断られた後も執拗に勧誘を続けているが、しっかりと流すことのできている女の子に感心すると同時に、その集団に対して興味が完全になくなった。

 集団に興味をなくし、対戦相手とマッチングしたカードゲームアプリで手札を入れ替えるかどうか悩んでいると、その女の子を見てきた秋山が俺の元に帰ってきた。


「基山、ただいま! 噂通りめちゃくちゃ可愛かった!」

「はいはい、そりゃ良かったね」


 手札を入れ替えたことが裏目となり、これ以上ないくらい事故った手札を見てげんなりとしてしまった俺は秋山を適当に遇らう。


 少し離れたところから「えっ?」 と聞こえた気がしたが、俺たちとは関係のないことだろう。


「なんだよ、冷めてんなー。 ここまで来たんだから基山も見ればいいのに」

「あまり人を見世物みたいに扱ってやるなよ。 ほら、用も済んだしさっさと帰るぞ」

「おう!」


 この対戦は早々に諦めてリタイアしようかなんて考えてながら階段の方を向く俺と秋山の後ろから、


「すみません! ちょっとそこどいてください!」

「えっ⁈ 急にどうしたの?」

「いいから早くどいてください‼︎」


 焦ったような女の子の声と、それに驚いたような男の声がする。

 用事の終えた俺たちはそんな声に目もくれず階段を降りようとしたが、


「先輩っ‼︎」


 明らかに俺たちに対して呼び掛けてきたその声に、俺は振り返ってしまった。



 その呼び掛けてきた声の主である噂の女の子、もとい中学時代の俺の後輩……原田奈美の顔を見た瞬間、俺はスマホの電源を落とすとその場から逃げるように全力で走りだした。

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