結末
「あ〜〜クソッ! なんで俺があんなこと……」
「仕方ないですよ。 むしろあの程度で済んでラッキーだったくらいに思いましょうよ」
すでに日が落ち始めているなか、俺たちは自分の家に帰宅すべく歩みを進めていた。
「たしかに俺たちの自業自得とはいえあれはねーだろ」
「あはは、さすがに恥ずかしかったですね」
俺はついさっきまでのことを思い返し、恥ずかしさのあまり頭を抱えたくなる。
警察からお説教を受けた後、俺たちがすぐに解放されることはなかった。
「んだよ、あのバカップル役……しかも強姦役もって、複数キャラやるにしても頭おかしいだろ」
「私を襲ってきた変態男が乗り移っていたみたいでハマってましたよ!」
「うるせーよ」
そう、俺たちは迷惑かけた罰として撮影の手伝いをしろと、撮影動画に登場させられた。
本来はおっさんがやるはずだった強姦役を代わりに……しかもそれだけで終わらず、外に出て人前で奈美とバカップル役をやらされる羽目になってしまったのだ。
「あの雰囲気優男、絶対良い性格してねーわ。 なにが素晴らしい演技だったよ! だっての」
「めちゃくちゃニヤついた顔されながら言われましたね」
「……あ、あの……」
そんなこんなで解放された時には夕方になっていた。
今回の件で俺は色々ツイてると思っていたが、終わってみれば全くそんなことない結果だった。
「それもこれも全て先月の変態野郎の所為だ」
「ダメですよ、先輩。 人の所為にしちゃ!」
今回の俺の思い込みの原因を奈美を襲った変態に押し付けようとしたが人の所為にするなと咎められてしまう。
こいつ、スベったのを俺の所為にしようとしてなかったか?
部屋に突入した際の渾身のロ◯ット団ネタを披露し、爆死していたことを思い出すがいちいち口にはださない。
いや、やっぱ少し腹立つし言ってやろう。
「お前もロケーー」
「あ、あの‼︎」
俺の奈美への文句は遮られた。
普段の調子を取り戻し、いつもと変わらないやり取りをする俺と奈美の後ろから、俺たちを呼び止めるような声が聞こえてくる。
今この場にいるのは俺と奈美の2人ではなかった。
俺と奈美の会話に参加せず後ろを付いてきていたもう1人の人物、鷲尾の方に俺と奈美は同時に振り返る。
「えっと、その、す、少しお話しいいですか……」
俺たちと目の合った鷲尾は消え入りそうな小さな声になりながら話しができないか問いかけてくる。
声は緊張からなのか小さくなっているが、目は俺たち……いや、俺の目をしっかり見据えて真剣そのものの表情をしていた。
ここ最近、鷲尾の観察をよく行っていたが、こんな彼女の顔は初めて見る気がする。
「……」
「……先輩、私は先に帰りますね」
奈美もきっと鷲尾の表情、目線の先から今の彼女にとって用のあるのは俺だけだと察したのだろう。
だから自分はこの場を去り、先に帰ると言ってくれた。
「……」
俺は少し考え奈美の言葉に、優しさに甘えることにした。
「……わかった。 気をつけて帰れよ」
「はい! それじゃあ先輩、それに鷲尾先輩もお疲れさまでした!」
そう言って奈美は俺の背中を軽く叩いた後、俺たちに背を向け、早足で先に帰っていった。
帰る直前の背中への一発は彼女なりのエールなのだろう。
ここまできたのだから最後くらいビシッと決めてくださいねとか、鷲尾先輩のことよろしくお願いしますとか、様々な意味が込められる気がする。
ありがとうな。 まあ今の俺なりにやれるだけやってみるよ。
「さて、んじゃ鷲尾……話するか」
奈美の背を見送った後、俺は鷲尾の方に向き直る。
とはいえ、今日は色々ありすぎてなにから話をしたものか悩んでしまう。
「うーん、なにから話したもんかね……?」
「どうして助けに来てくれたんですか?」
俺が困ったように一言漏らすと、鷲尾の方から話を切り出してくれた。
意外にも積極的に質問してくる鷲尾には驚いたが、よく考えたら話があると切り出してきたのは彼女なのだから俺になにか聞きたいことがあるのだろう。
「どうしてか……。 鷲尾のいないところであのおっさんの怪しい会話を聞いてしまったから……だな」
俺は少し悩んだ後そう答えた。
結果的に俺の勘違いだったわけだが、あの建物に突入するキッカケになったは原因を話したが、俺のそんな答えに鷲尾は少し不満そうな顔をした。
きっとこういう答えが欲しかったわけではないのだろう。
「わかってるよ。 お前が聞きたいのはあのスタジオで俺がお前に言ったことだろ?」
「そ、そうです。 あの時は色々頭が追いつかなかったですけど、でも……改めて冷静に聞きたいと思いました」
「俺のエゴでしかなくてもか?」
「それでも私は聞きたいです。 それに……基山君は自分が嫌いな気持ちがって言ってました。 私は基山君が私に言ってくれようとしたことを知りたいです」
俺は正直、素直に全て話していいのかわからなくなっていた。
今、自分でも言ったが俺の今回の一連の行動は子どものエゴでしかないと思い知らされた。
それなのに俺が自分勝手に自己満足の為に考えていたことや思いをどこまで伝えてもいいのか……。
「私は……私は自分が嫌いです。 弱い自分が本当に嫌いなんです。 私を助けてくれた人が助けたことが原因で悪く言われていても何もできない、そんな自分が大っ嫌いなんです」
俺が悩み、言い澱んでいると鷲尾は顔をうつむかせながらポツリポツリとそう口に出した。
彼女の吐露の中に出てきた助けてくれた人というのはきっと俺のことだろう。
俺の予想通り、俺が不良と呼ばれるようになったあの件が彼女を苦しめている原因の一つとなっている。
だとしたら、まずはそれを否定してやらないとな。
そう思い俺は口を開こうとした瞬間、鷲尾は顔を勢いよく上げ再び俺の目を見据え、俺より先に続きの言葉を口にした。
「だから……だから私は変わりたいんです! 少しでもあなたに近づきたいんです! 強くなって、助けてくれた恩にはきちんと恩で返せるようになりたいんです!」
「!!」
俺は今度こそ鷲尾に対して本気で驚いた。
なににかって? 彼女がこうハッキリと自分の意思を伝えてくることに?
違う……彼女はとうの昔に俺なんかよりも前を向いていたことにだ。
正確には前を向こうと必死なことに。
必死でもがいていることに。
「お願いします、話してください。 私なんかを助けてくれる……そんな人が一体なにを伝えようとしてくれていたのか聞きたいんです。 私自身が変わる為にも! 」
鷲尾は本気なんだというように俺の目を見てそう言ってくる。
ーーはは、そうかよ。 こいつはきっともう……いや、そもそもの話こいつと俺は……。
一つの結論にたどり着いた瞬間、俺が彼女になにを話すべきか、なにをしてやれるのかがハッキリした。
「……場所を変えるか。 少し話長くなるぞ」
「はい」
なんだろうか、この胸がざわつく感じ。
鷲尾の言葉を聞いた瞬間、なにか俺の中で閉ざされていたものが少し開かれてしまったような…そんな感覚。
お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
活動報告にて改めて謝罪、今後の方針を記載させていただきました。